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女神の世界とクソゲーマー  作者: やのひと
19/42

19 女神の笛

 ガーディアンはマリンの一撃で倒された。

 ここで一つ言わせて貰いたい。

 強化魔法とは数字がプラスされる物ではない。

 例えば俺の力が100として強化魔法をかけたら150になる。

 これは100+50では無く100×1.5だ。

 分かるだろうか。

 俺は強化魔法を2回かけても鉄の盾を曲げる事は出来ても軽くグニャは出来ないし、まして軽く掴んだだけで粘土みたいに指の形をつけるとかは絶対に無理。

 限界を超えて強化を3回やれば出来ると思うがそれは一瞬だけで、すぐに解除しないと自滅する。

 ここで計算してみよう。

 俺が100の力に3回強化魔法をかけたら100×1.5×1.5×1.5=337.5。

 それでおそらくマリンの力の初期値と同じくらい。

 ではそれに強化魔法をかけたらどうなるか。

 答えは500オーバー。

 しかもマリンはそれからレベルが上がって強くなったと言った。

 つまり最初からそんなだったマリンが自覚が出来るほど強くなったと言う事だ。

 その事実に背中を冷たい汗が流れた。

 こいつ主人公じゃね?


「ヒロ先輩どうしたんですか?」


 マリンは考えに没頭した俺を心配そうに覗き込んでいた。

 大抵の場合パワー型の奴は敵なら序盤に出てくるやられ役で、もし味方なら最下位の位置にいて敵の強さを見せ付けるためのかませ犬。

 だがそれも単なる怪力キャラの場合のみ。

 現にあの大作RPG2作目の先頭にいる王子はクリアに必要な存在だ。 

 それに比べて自分と同じタイプの二番目の王子はどうだろうか。


「いや、ちょっとびっくりしただけだ。とにかくさっきのスライムがガーディアンみたいだからもう大丈夫だろ」


 俺は自分の存在意義を見失いそうな嫌な考えを振り払った。

 ほら器用貧乏も極めれば最強だし。

 頭を切り替えて入ってきた扉を見ると覆っていた光の壁は無くなっていたので一安心だ。

 後は目的の物を見つけるだけだし、慌てる必要もない。

 

「そうですか。でもあの見えない攻撃ってなんだったんですかね? 呪文なしで魔法とか無理なんですよね?」

「そうだ。魔法を使うためには呪文が必要だ。当たり前だけどスライムは言葉を話さないから魔法は使えない」

「そうですよね。その、あの、荒神凶夜って呪文無しで魔法ぶっぱなしてたみたいだったから、もしかしたらって思ったんです」

「あ~あれな。『魔法は想像力だから簡単な奴なら呪文はいらないんだ!』とかそんなわけねえ。これだからぼくのかんがえたさいきょうのかっこいいしゅじんこう様は」

 

 それは絶対の世界の真理で呪文なしでは魔法は発動しない。

 それを覆すとなればそれこそ女神の力が必要になる。

 つまりあれは姉さんの設定ミスか奴を異世界に送った奴の与えた力のどちらかと言う事になる。


「とにかく何か見つけてもうかつに触るなよ。俺のこいつも引っ付いたら離れれないからな」


 俺の右腕に張り付いている女神の盾なんて名前の腕輪はあれからどうやっても外れない。

 性能や作った奴の事を考えたら神器なのだがこれはたぶん死ぬまで外れないだろう。


「女神の笛でしたね」

「ああ、笛って名前だけど笛の形はして無いと思う。たぶんさっきの攻撃の正体だ」


 辺りを見回してみるとスライムを形作っていた物は無くなっていて、大きな結晶が落ちていた、

 拳くらいの大きさで綺麗に澄んでいるのでかなりの値段になるだろう。

 あと落ちているのは粉々になったスライムの核がマリンの攻撃の威力を物語っていた。

 あのスライムはたぶん弱点耐性打撃とかだったに違いない。


「ヒロ先輩!」


 馬鹿な事を考えているとマリンの声がしたので振り向くと、少し離れたところでマリンは何かを厳しい目で睨んでいた。

 敵はいないはずだが何があったのか。


「どうした?」

「こいつ、何でしょう?」


 マリンの視線の先には小さなスライムがいた。

 そいつは手のひらに乗る位の大きさで宝石みたいな綺麗な青色をしていて何をしてくるわけでもなく、その場でプルプルと揺れていた。


「スライムなのは分かるが、やけに綺麗だな。レアな奴かもしれんが、手は出すなよ」


 レアなスライムと言えば出会った瞬間に逃げていく奴をつい思い浮かべてしまうが、そいつは俺達の前でゆっくりと何かを体の中から取り出して少し離れた。

 取れと言う事だろうか。

 だが俺が取ろうするより速く、マリンがそれを無造作に摘み上げた。

 

「指輪ですね。でも石がありません」

「そうなのか?」

「はい」


 マリンが差し出したので受け取ると、それはいきなりドロリと溶けて指に巻きついた。

 

「先輩!」

「うん、何となくこうなる気がしてた」


 指輪は俺の右薬指にがっちりとはまっていた。

 もちろん外れない。

 指輪にはマリンの言った通り、台座はあるが本来何かの宝石が嵌っている部分に何もついていなかった。


「私が持っても何も無かったのにヒロ先輩が持ったら装備されたとか主人公みたいですね」

「お断りだ。で、こいつの使い方なんだけど」


 試しに風の刃を思い浮かべてみるが何も反応が無い。


「ヒロ先輩?」

「ちょっと待ってくれ」


 今度は剣に魔力を流すようにやってみると指輪の台座に魔力が集まったので軽く手を振ってみると、ヒュッと風の音と共に何かが飛んで行った感触がある。

 なるほど。

 

「こいつは多分魔力次第で鉄でも簡単に斬れる風を飛ばせる。しかも連発出来て射程距離はそこそこで攻撃は相手には見えない。反則だな」

「壊れ性能ですね。無敵の盾に反則な飛び道具とか強すぎですよ」


 確かにこの組み合わせは強力だが油断は出来ない。

 そもそもマリンはかわして見せた。

 他にも出来る奴はいるだろうし、そういったやつとやりあう可能性は十分にある。


「ん?」


 気がつくと俺の足元にはさっきのスライムが揺れていた。

 俺が一歩歩くとそいつも着いて来る。

 そう言えばトリーさんが言ってたな。

 たまに人に懐く魔物がいてそう言う奴は契約魔法を使うと一緒に戦ってくれると。

 俺がスライムをじっと見ると何だか嬉しそうに震えてる気がする。

 戦えるとは思えないが連れて行くか。


「マリン。こいつなんだが」


 その時俺の横を風が通り過ぎた。

 そして最近良く聞くパァンという音。

 スライムは消し飛んだ。


「ちょっ、ええ!? お前何してんの!?」 


 驚く俺にマリンは蹴りを放った姿勢でぐるりと顔だけ向けた。 

 

「こいつはもう用済みでしょう? ヒロ先輩、スライムですよ。殺さないでどうするんですか」

 

 それは能面の様だった。

 普段の豊かな表情との差が激しく正直怖い。 


「いや、でも、ほら、仲間に出来るかな、と」

「ヒロ先輩」

「はい」


 何故か言い訳をしていたが、マリンの一言で思わず敬語になった。

 何か逆らえない物がそこにあった。


「私スライムって大っ嫌いなんです」

「あっはい」


 やはり殺されかけたのだから当然だろう。

 それなのに俺はスライムを仲間にしようなど思ってしまった。

 もっとマリンの事を考えてやるべきだった。

  

「殺されかけたってのもありますが。以前、調べたい事があって兄さんにパソコンかりたんです」

「ハソコン?」

「そしたら、そこに!」


 マリンはなにやらおかしな事を言い出すと顔を真っ赤にした。


「妹がエロすぎるから、ね、ねちょねちょにするってエッチなゲームがあって! 女の子が何かスライムっぽいのにねちょねちょにされてて! 兄さんぶっとばしたら鼻で笑ってお前じゃ無理だから身の程を知れとか言われて! 挙句に妄想と現実の区別もつかないのかとか偉そうに、ふざけんなああ!」

「ああ、うん、そうだな。とにかく落ち着け」

 

 マリンのスライム嫌いの原因は暮井だった。

 しかしそんな物が入ったパソコンを妹に貸すとか流石だ。

 マリンは一頻り吼えて正気に戻った。


「すみません、つい」

「いや、良く考えたら俺がしようとした事は俺が嫌いな展開だったんだ」

「えっと、それってどういう事ですか?」


 こんな大事な事を忘れるとはどうかしている。

 俺は決まったパターンと言う物は大事だと思うがそればっかりは嫌いだ。


「姉さんの書いた奴にいくつもあったパターンなんだよ。毎回毎回、最初に仲間になるんだよスライムが。仲間になる魔物イコールスライムみたいに。やったら頭のいい奴とか強い奴とか、スライム出しときゃ良いとか思ってんのか! いい加減にしろ!」

「ヒロ先輩、落ち着いてください」


 召喚魔法で最初に仲間になるのはスライム。

 外で戦っていて仲間になるのはスライム。

 とにかくスライムスライムスライム。 

 それらの内容は思い出すだけでいい加減にしろと言いたくなる程だ。

 ジンさんの話では信じられないが、あれは世界創造の書で恐るべき神聖属性を秘めていて、それに当てられるだけで精神に歪が生じてしまという言う。

 俺は自分には耐性があると思っているがもしかしたらやばいのかもしれない。


「すまん、つい。とにかくもうここに用はないから帰ろう」

「えっと、そうですね」


 何はともかくようやく目的は果たした。

 これで二つ。

 あと二つだ。

 







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