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女神の世界とクソゲーマー  作者: やのひと
17/42

17 命の天秤


 俺は襲って来た女の足を引きずって迷宮を出て、そもまま街中を通り、そのままギルドに入った。

 声をかけてきた奴はいなかった。

 いつもは何かと言ってくる奴等も何も言わなかった。

 皆何事かと俺を見るが気にせずにいつもの窓口に向かうと、ナイカさんは顔色一つ変えずに対応してくれた。

 

「今日は早いようですが、何かありましたか?」

「ありました。迷宮でこいつらに襲われました。いえ、正確には襲われそうになったので返り討ちにしました。こいつ以外は斬りました」

「そうですか。ではこの目をお持ちください」

「はい」


 ナイカさんが取り出したのは目と言われる魔道具である。

 占い師が使う水晶玉のように見えるが魔法の嘘発見器で、ギルドに標準配備されており、何か問題があった時これで判断する。 

 かなり高価な物で性能は確かだがあまり使われる事はない。

 何故なら今回の件も俺がレナも殺して捨ててくれば死体はスライムが始末してくれるので証拠など何もない。

 俺が申告しなければ何も起こってないのと同じだからだ。

 迷宮では全て自己責任。

 殺すも殺されるもだ。

 もちろん殺しは禁じられているが魔物に殺されても人に殺されても申告や密告が無いとギルドはどちらか分からない。

 それなら出番が多いかと思われるが、皮肉な事にこれがあるため嘘は通じない事は誰もが知っている。

 だからやった事は認めるしかない。

 あまり使われない理由はそう言うことだ。 


「ではヒロさん、貴方は迷宮内でこの女性達に襲われそうになった。間違いないですか?」

「はい、俺を殺してマリンを捕まえようとしてました。だから殺しました」


 目は青く輝いた。


「間違いないようですね。ではレナさんはこちらで処理しておきます」

「お願いします」


 結局これだけである。

 処理すると言ったが死刑でなければ鉱山送り。

 レナは死ぬか死ぬまで穴を掘る仕事が待っている。

 あの場で死ぬのが良かったと思うかは分からないが知った事ではない。

 

 その日、屋敷に帰るまでマリンは一言も話さなかった。

 夕食を食べている時も心ここにあらずなので、これはしばらくはそっとしておくしかない。 

 ジンさんは聖女の様子を探りに行って留守で、クシャラは何か言いたそうにしていたが何も言わなかった。

 

 それでも日はまた昇る。

 俺はいつものように朝起きて庭で剣を振るっている。 

 ジンさんから教えられたように左右の剣を振るう。

 目を瞑り魔力を練り上げ回復魔法を唱えて体の疲れを取りながらただ剣を振り続ける。

 これはジンさんに教えられた剣の基本の練習と同時に回復魔法の練度を高めるための修練。

 最初に教えてもらったのは傷を癒す魔法。

 次に毒を消す魔法と来て失った体力を取り戻す魔法。

 それが終わって強化魔法の順だった。

 特に力を入れるように言われたので、繰り返し続けた訓練によって回復魔法は相当な物になっている。

 今なら例え腕を切り落とされても綺麗に切れていて、すぐにならくっつける事が出来る、かもしれない。


「おはようございます」

「おはようマリン。酷い顔して、ないな」


 夢中で剣を振るう俺に後ろからマリンが声をかけてきたので振り向くと、予想に反してマリンはいたって健康そうな顔をしていた。

 てっきり寝不足にでもなってるかと思いきや、そんな事はなかった。


「はい、私は元気ですよ。ちょっとショックでしたけど。私の事は気にしないで続けてください」

「そうか」

 

 見られていると何だかやりにくいが、気にせず集中して剣を振るう。

 とにかく基本が大事と教えられた。

 あらゆる場面に大抵通用するから基本なのだと。

 しばらくすると隣でマリンが何やら型の練習をしているのに気づいた。

 見ていると静かに流れるような不思議な動きをしている。

 

「えっと、そんなに見られると照れるんですけど」

「気にしないで続けてくれ。なんて言うか不思議な動きだな」


 一気に間合いに踏み込むのでは無く、するりと入っていく感じがする。


「我が流派の基本技ですよ。名前は、えっと、何かありましたけどいいですよね」

 

 得意げに胸を張るが基本技と言いながら名前すら忘れられるのどうだろうか。

 

「基本か。ちょっと教えてくれないか?」

 

 対人戦に有効だろう、と言うか元々合気柔術なんだから当たり前か。 

 しかしマリンは難色を示した。

 

「う~ん、いいんですかね? ヒロ先輩の型とかと混じると変な事にならないですか?」

「大丈夫だ。混ぜたらいい感じになるだろ」


 混ぜてみて駄目そうななら止めるだけ。

 ジンさんはそうやって色々身に着けていったらしい。


「分かりました。簡単に言うと足の裏で歩くんじゃなくて親指の付け根で擦り運ぶ歩法です。良く見てください」

  

 マリンの足元に注目すると、確かに足を地面に擦っているように見えるが擦っていない。

 試しにやってみるが難しい。

 

「なかなか難しいな」 

「そりゃあもう、簡単に出来たら苦労しませんよ。練習あるのみです。相手の攻撃をこれで外したり間合いを詰めたりするんです」  

「なるほど」


 何度か繰り返していると何となく分かってきたが自然にやるのは相当な練習が必要になりそうだ。

 俺が練習しているのをマリンはしばらくじっと見ていた。

 何か言いたい事があるんだろう。 

 黙って続けているとやがて俺の背に向かってマリンは重い口を開いた。


「先輩。私はこの前私を襲った奴等は死んでも当然だって思ってしまいした。でも昨日の男の人達を先輩が容赦なく殺したのを見て怖いって思いました。あの人達は最低の連中で私が目的で先輩を殺しに来た。そのくせ私はレナさんを殺す事が出来なかった。先輩に人殺しを任せておいて自分はそんな先輩を怖がるなんて、私は最低です」


 あれからずっと思い悩んでいたんだろう。

 その割には顔色が良いのが気になる。

 それはともかくマリンは根は真面目な子だ。

 しかし俺に言わせれば考えすぎだ。


「マリン。俺はな、人を殺す事は悪い事とは思わない」

「え?」


 これは考え方の違いだ。

 日本でこんな事を言ったらまずいだろう。


「人を殺してはいけないとみんなが言う。何故か? 大抵こう言う。法律で決まっているからと。けどそうじゃないだろ。冬の海で乗っていた船が沈没して3人乗っている3人乗りのボートに4人目が助けを求めて来たらどうする?誰かが誰かを殺さなければみんな死ぬ。でもこれは誰かを殺しても罪には問われない。殺したのにだ。状況次第で罪に成ったり成らなかったり、人を殺した事は一緒なのにな」

「でも、それは、その」


 マリンが言葉に詰まっている。 

 これはよくある緊急避難と言う奴で正当防衛と一緒に話のネタにされる。

 

「言いたい事は分かるさ。けど俺はこう思っている。結局人を殺すって事は損得勘定だって事さ。日本で人を殺したら警察に捕まる。捕まったら長い裁判を受けて刑務所に送られる。同い年の連中がうまいもん食ったり遊んだりしてる中、刑務所で自由も無く過ごして何年も経ってようやく出て来たらその時幾つだ? 家族だってそんな奴と関わりたくないだろう。働くにしても何が出来るわけでもない。空白の期間何をして来たと聞かれても答えられない。人殺しとか知られたらまず雇ってもらえないだろうし、そう言うことは隠してもどこからか漏れる。つまり人生が詰む。人を殺すって事はそれだけのデメリットがある。それでも人を殺すならそれを上回る何かがあるって事だ」


 それは憎しみや怒りの感情であったり、物や金のため、そして誰かのためや失わないためであったりする。

 たまにそういった事さえ考えられないガキやクズなどもいるがそういう連中はその時点で将来を失う。


 「で、でも」

 

 マリンは何か言いたいのだろうが何と言えば良いのか分からない。

 そんな顔をしている。

 もちろんこんな考えは万人に受けいれられないだろうが俺はそう考えている。

 

「まだお前が読んでいないあの沢山の小説の中には襲ってきた盗賊達を前に、殺す覚悟がとか悩んでいる奴がいたけど笑わせる。人は必要があるから人を殺す。そこには良いも悪いも無い。覚悟とかそんな物は自分に言い訳してるだけだ。マリン、お前が人を殺す事が怖いのは当然だ。そして人殺しをする奴を怖がるのもおかしい事じゃない。俺だってこの世界で初めて人を殺す時は怖かった。けど必要だったから殺した。それは今も同じ。ただそれだけだ」

 

 最初にジンさんに言われた事だ。

 死にたくなければ良く考えて死なないための行動を取れと。

 だから俺は自分のその後と相手を殺す事を天秤にかけて決めて来た。

 そしてこの世界ではその天秤が殺す方に傾く事が圧倒的に多い。

 殺さなければ後で逆恨みや、俺以外に同じ事をする等不利益しか無い連中が殆どだったから殺してきた。

 本当に命が軽い世界だ。

 だからこそ俺が言われて、そして実際に学んだ事をマリンにも伝えておきたい。


「ヒロ先輩も、怖かったんですか」

「当たり前だ。別に俺の事が怖くてもかまわない。けどもし俺がいない時にそう言う状況になったら躊躇うな。どんなに怖くても自分を守る事を考えろ」


 無くしたくないと思うモノのためなら綺麗事では済まない。

 そうしないと無くすからだ。

 この世界は現実なのだ。

 姉さんのクソみたいな小説のように甘くは無い。


「えっと、ありがとうございますヒロ先輩。その、怖がってごめんなさい。もう大丈夫です」


 そう言ってマリンは勢い良く頭を下げた。

 元気な子だ。


「そろそろ朝ごはんですね。お腹がすきましました。昨日は寝るの早かったんですけどね」 

「そうなのか?」


 てっきり悩んで寝られないと思っていた。


「はい、私は悩むのは起きてる時だけにしてるんです」

「は?」


 それは当たり前ではないだろうか。

 それで悩んで眠れなくなのではないだろうか。 


「人間とにかく寝ないといけないんで、私は寝る時は何も考えないで寝る事にしてるんです。寝ようと思ったら直ぐ寝られるのが特技なんです」

「そう、か」


 マリンはジンさんの言うとおりかなりの猛者のようだ。




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