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女神の世界とクソゲーマー  作者: やのひと
16/42

16 因果

 ここは33階層。

 マリンと出会って三日後。

 俺は今日も迷宮にもぐっている。 

 ただし今日からは1人ではなくマリンと一緒にである。

 

「えい!」


 そんな可愛い掛け声と共にマリンの拳が繰り出されるとスライムが破裂した。

 水風船を勢い良く叩き付けた様にパァンとである。

 結晶は壁に当たってから床に転がる。

 

「どうですかヒロ先輩。私だってちゃんと戦えるでしょ?」

 

 嬉しそうに言ってくる笑顔が眩しい。

 力が強いと言っていたがこれ程とは思わなかった。


「うん、とんでもないな」

「はい。私、強キャラですよ」

「しかも近接は投げもあると」

「むしろそっちが得意です」

「対戦格闘ゲームで選んだら向こうから舌打ちが聞こえそうだな」

「私、格闘ゲームは得意ですよ。投げハメの鬼って呼ばれてました」

「それは悪口だ」


 前にも言ったがスライムを物理で倒すのは難しい。

 難しい、はずだ。

 マリンが上から落ちてくるスライムに対して拳を真上に繰り出すと、凄い音と共にその場でスライムが破裂した。

 吹き飛ばないで破裂するというのがどれほどの威力なのかを物語っている。 

 俺にはその腕がぶれて見えていた。

 とんでもない力と速さだ。


「そいつの使い心地はどうだ?」

「はい、すっごくいい感じです! ありがとうございます!」


 マリンのメイン武装が手甲だけでは心もとないので、いつものように隠れた武具の名店でナックルダスターを作ってもらった。

 例によってジークさんとジンさんの悪乗りの結果、300万カナと引き換えに『使い手しだいでドラゴンでもぶち抜くブラスナックル』が完成した。

 肘くらいまでの金属製の手袋の様な見た目だが、マリンが力を込めても曲がらない一品だ。

 マリンがあの地獄の洗礼を受けた次の日から迷宮にもぐらなかったのは、これを注文して完成するのを待ったためだ。

 そして現在、マリンは耐久と性能を確かめるようにスライムを片っ端から狩りまくった。

 迷宮内にパァンパァンとありえない音が響く。

 背負ったバックパックが大分結晶で埋まって来たがまだ目的は果たせない。

 マリンの武器の性能を確かめるのもあるが本来の目的は別にある。

 俺達は頭の中で描いたマップを頼りに慎重に進んだ。

 楽勝だと思うが油断だけはしてはいけないからだ。

 この階層に入ってから探索者と遭遇したのは一度だけ。

 彼らは下の階を目指して戦いを避けて進んでいたのでスライムと戦っている事に驚いていた。

  

「う~ん、ないですね」

「まあ、そう簡単に見つかるとは思ってないさ」   

「そうですね。でも、もう少し手掛かり無いんですか?」

「無い。スライムのいる階層ってだけだ」

 

 例の奴にそれだけ書かれていた。

 スライムの出る階層。

 つまり探し物は30階層から39階層までのどこかと言う事になる。 


「あ~そうですか。でも大丈夫です。私、何かこう、隠れてるのを見つけるの得意なんです」

「俺が姿隠してるのに見つけたやつな」


 マリンがスライムに襲われていた時、俺は姿を隠していたのに目が合った。

 得意とかそう言う問題ではないと思うが、マリンはそう言う事が出来る特殊な何かを持っている。

 ジンさんが言うには魔眼とかでは無く、たまにいる見える人らしい。 


「暗くて見えんが、上から来るスライムとか見えるのか?」

「はい、だからここは任せてください。レベルも上がりますから。あっそうだ。気になってたんですけど、ヒロ先輩の戦い方ってジンさんに教えてもらったんですよね?」

「そうだ。当たり前だけど、剣なんか握った事なかったからな。剣も魔法も全部ジンさんに教えてもらった。それがどうかしたか?」


 ジンさんに出会わなければ、俺は剣を握ってもただ振り回していただろう。

 ただ剣の切れ味と力に任せて戦っていたのは間違いない。

 当然魔法なんか使えない。

 

「いえ、3年もたたずにそんなに強くなるなんて凄いなって思ったんです。けど」

「けど?」


 何だろうか。

 マリンは少し言いよどんだ。


「ジンさんは先輩のお手本として完璧過ぎる気がするんです。もちろん悪い事じゃないんですけど。えっと何て言えばいいのか。前にも言いましたけど私は合気柔術を習ってました」 

「聞いたな。柔術ってわりにぶん殴ってるけど。何より古武術じゃないくてほっとした」

 

 本当にそれだけは嫌だった。

 古武術習ってますとか言われたらどうしようかと思った。


「うちは打撃もありなんですよ。それにしても先輩は古武術に何か恨みでもあるんですか? えっと何でしたっけ。そう、私も先生に教えてもらってたんです。そうすると当たり前ですけど先生の技とか覚えて行って到達点は先生なわけです。でも教えてもらっても中々うまくいかない事が多いんです。なのに先輩の話ではそう言うのが無いって言うか。えっと、ジンさんは先輩がここで詰まるのが分かっていて対処法はこうだって最初から知ってるような。それは凄い事なんですけど、何て言えば良いのか。ごめんなさい、うまく言えなくて」

「いや、大丈夫だ。問題ない」

「え? いや。ええ? まあ良いんですけど」

 

 マリンの言いたい事は分かる。

 しかしマリンは一つ大事な事を分かっていない。

 けど今はそれどころでは無くなった。

 俺は複雑そうなマリンに顔を寄せた。 


「え? な、何ですか?」

「そのまま聞け」


 そのまま小さくささやいた。


「振り向くなよ。ずっと着けて来てる奴等がいる。お前がスライム狩りまくってるから比較的安全に」

「え? ずっとですか?」

「ずっとだ」

 

 俺達が迷宮に入ったときから着かず離れず着いて来ている。

 この階層に来てもいる以上偶然ではない。


「次に大き目の場所があったらそこで様子を見るぞ」

「はい」


 どうせろくな事はけどな。

 スライムを爆発させるマリンを見て、それでも何か仕掛けるなら余程の馬鹿か何か策があるのか。

 この階層は広い通路に所々木らしき謎の物質で出来た扉があり、中に大小の部屋がある。  

 扉の無い部屋もあるが、この階層を抜けるだけなら基本的に入る必要は無い。

 だがたまに部屋に結晶が落ちている事がある。

 何故かそれはもっと下の階層で出現するような大きさで、スライムを倒せる魔法使いがいるパーティーなら狙うのも悪くない。

 しばらく歩いて角を曲がるとかなり大きい広間があったのでそこで仕掛ける事にした。

 

「動くな。それからしゃべるなよ」

「はい」

 

 広間に入って直ぐ俺はマリンを抱き寄せて姿隠しの魔法を唱えそのまま隅に移動する。

 魔法を掛けたマリンには俺が見えるし、俺にもマリンが見える。

 マリンは何か言いたそうな顔をして俺を見ていたが何も言わなかった。 

 じっと息を殺して待っていると斥候らしい男が部屋を覗いて俺達がいないのに気づいて慌てて戻り、全員だろうメンバーが現れた。

 女1人と男が3人のパーティーだった。

 

「何やってんだよ! 逃げられたのかよ!」

「うるせえ! そんな時間は無かった!」 

 

 間違いない。

 こいつらは俺達を狙って来ている。

  

「気づかれたんじゃないか?」

「あの子はそんな敏感じゃないから男の方かもしれないわ」

「あのガキはセカイエの迷宮踏破したって話だったが」

「そんな訳あるか」

 

 なにやら楽しそうな事を言っている。

 どうやらマリンの知り合いらしい。

 マリンは女をじっと見ていた。


「とっとと探してちょうだい。男は殺していいけどあの子は殺しちゃ駄目よ。結構溜め込んでるらしいから場所を吐かせないといけないからね」

「分かった分かった。けど後は好きにしていいんだろ?」 

「生きてたらいいわ」


 久しぶりにクズを見た。

 4人はこちらに気づかずに背を向けて進んでいく。

 俺達は先に進んだと思ったのだろう。 

 マリンは泣きそうな顔をしているが俺の言った通り黙ってじっとしている。

 よしやろう。

 そうと決めたら直ぐ行動。

 一番後ろにいる男に近づいて左の剣を一閃。

 続けて少し前にいた男に右の剣を一閃。

 二つの首が宙を飛んだ。

 

「え?」

 

 それに気づいた男が振り向いたがもう遅い。

 腰の袋に手を持っていこうとしているが、左の剣を投げつけるとそれは男の胸に吸い込まれた。 

 低いうめき声をあげて倒れそうになる所を走りよって右の剣を一閃して剣を鞘に戻し、左の剣を引き抜いて腰の袋を引きちぎった。

 中身は魔力の感じる白い粉。

 おそらくは麻痺毒か眠り薬。

 

「なんで! さっきまで誰も!」


 最後の男の首が地に落ちて転がった所でようやく気づいたらしい。

 女がなにやら叫んでいるが気にしない。

 逃げようとしているが逃がさない。

 女の襟首を掴んで引きずってマリンの前に持って行く。

 姿隠しの魔法はもう解いていた。

 

「レナさん」

「ちっ違うんだよ!」

「私、嬉しかったんです。ずっと1人で迷宮なんて怖かったし。具合が悪いからって休んだ時、凄く心配したんです。ヒロ先輩に助けてもらって、レナさんあの場にいなくて良かったって思ったんですよ。それなのに、それなのに!」


 マリンが悲痛な叫びを上げて拳を握った。

 ああ、この女死んだな。 

 パァンってはじけるな。

  

「待って! 待って! お願い助けて!」

 

 レナと言ったがこの女、命乞いをしているが許されると思っているのだろうか。

 こっちを殺そうとしたくせに、自分達は殺されたくないとか笑わせる。

 しかしマリンは動かない。

 

「騙したんだ。最初から私の事笑ってたんだ」


 マリンは俯いて泣いていた。

 声を殺して泣いていた。

 どうやら出来ないようだ。

 別にそれが悪いわけではないが、このまま捨て置くわけにはいかない。 

 煩く騒ぐレナの後頭部を鞘に入ったままの剣で殴って静かにさせた。

 死んではいない。

 

「引き上げるぞ。こいつはギルドに突き出す。後は知らん」 

 

 俺はレナの片足を持って来た道を歩き出した。

 途中で死んでも知らんし回復魔法などかけない。

 マリンは俯いたまま小さな声ではいと答えた。


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