表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の世界とクソゲーマー  作者: やのひと
14/42

14 耐性

 一時間ほど歩いた所でようやく道らしきものが見えた。


「道があるって事は近くに人がいる場所があるってことだな」


 俺はそのまま道に沿って歩いていた。


「とにかく人のいるところにいかないと。まったくあの神様ももう少し考えてくれたら良いのにな」


 白い服を着た自称神様だったけど本物だったみたいだ。


「まあいいか。良いスキルももらったし」


 神様から貰ったのは相手のスキルをコピーするチートスキルだ。 

 

「ふう、疲れたから少し休むか」

 

 ガサガサ


「なんだ?」

「グルル・・・」

「お、狼!」


 草むらから大きな狼がよだれをたらして俺に向かって襲い掛かってきた。

  

「チッやるしかないか」


 俺は剣で切りかかった。

 

「ガウ!」

「うわ!」


 狼は俺の攻撃をよけて噛み付いてきた。  

 とっさに避けたが少し腕をかすった。

 こいつ強いぞ! 


「グルル・・・」

「ハァ、ハァ、うおおおお!」

 

 ザシュッ


「ギャウン!」

「ハァ、ハァ、やった」




「せんぱ~い。何ですかこれ? 何なんですかこれ?」

「うん。言いたい事は分かる」

 

 マリンが情けない声を上げた。

 気持ちは分かる。

 開いた窓から外の風が吹き込んで部屋に漂う嫌な空気を換気する。

 言いたい事は分かる。

 アレは思い出すだけで不愉快になる。

 そんな内容だ。

  

「おいおい、まだ5分も経ってないぞマリン嬢ちゃん。そんな序盤で音を上げてどうする」

「うう、ジンさん。でも」

「いいから読め」

 

 耐性の無い人間にはまず耐えられない。 

 マリンもそうだったようだがジンさんは厳しかった。

 別に死ぬわけではないが、こんなゴミを読めを言うのは良心が痛むが仕方が無いのだ。

 

「先輩助けてください!」

 

 マリンが半泣きになりながら助けを求めているが俺は目をそらした。

 ジンさんの言う通り序盤など生易しいのだ。

 

「マリン、我慢して読め。そうじゃないと話が出来ないんだ」

「ううっ」




 狼を倒すと体が軽くなった気がした。


「レベルが上がったのか?」


 結構強かったか経験値が多かったんだろう。


「ステータス」


 

 荒神凶夜


 レベル3


 HP 150/200

 MP 100/100

 力  15

 速さ 30

 魔力 500

 

 スキル

 模倣 1   魔法の才能 5  アイテムボックス 5

 隠密 3   剣術 1  時空魔法  2

    

「これは?」


 狼のそばに何か落ちている。


「指輪か?」


 拾ってみると銀の指輪のようだ。

 

「着けてみるか」 

 


 荒神凶夜


 レベル3


 HP150/300

 MP100/150


 力  15

 速さ 30

 魔力 500

 

 スキル

 強奪 1   魔法の才能 5  アイテムボックス 5

 隠密 3   剣術 1  時空魔法  2


「HPが上がってるな。この指輪の力か」


 気がついたら狼の死体から血のにおいがしている。 


「とにかくここから離れた方がいいな」




「ああああああ!!!」

「落ち着け」


 我慢の限界を超えたのか、マリンは頭を抱えて奇声を上げた。 

 

「何ですかこれ! なんでこいつ独り言ばっかり言ってんですか! しかも説明口調で! 何ですかガサガサって! 狼がグルルって何なんですか! こいつのうなり声はセリフなんですか! 主人公のこいつもセリフでハァハァ言ってるんですけど! チッって何ですか! 舌打ちですか! こいつセリフでチッとか言ってますよ! 大体名前が酷い過ぎる! 神とか凶とか中二病ってレベルじゃないでしょう!何ですかステータスってゲームですか! 力とか速さとかそんなもの書かれてどうしろっていうんでか!誰も興味ないですよ! 数字が増えたからってそれで何が分かるんですか! HPが50上がったから何だって言うんですか! どうせそんなもん関係ないでしょ! 無駄に行稼いでいるだけでじゃないですか!装備する前と後とかそんな細かく書く必要なんかどこにあるんすか! 何ですかうおお!ザシュッ!って絵のないセリフだけの漫画ですか! 先輩これ何ですか! 何ですかこれは!」


 マリンは顔を真っ赤にして息継ぎなしで一気に文句を言いきった。 

 いや、全く持ってその通り。

 返す言葉もない。

 しかし予想より早いが限界だな。

 俺は嫌と言う程読まされたので耐性があったしジンさんも謎の耐性があった。

 だが一般人のマリンにはきつ過ぎたようだ。

 ジンさんは肩で息をしているマリンの肩に両手を置いて真面目な顔をして視線を合わせた。

 俺には分かる。

 こういう時のジンさんはろくな事を言わない。

  

「いいから読め」

「でっでも!」

「いいから読め」

「あ、あああ」

「読め」  


 鬼がいた。

 

「ヒロ、扉も開けておけ。クソ小説だ。クソ過ぎる。あ~臭え臭え。臭すぎて窒息しそうだ」

「はい。それから消臭魔法かけておきますね」 

「何か匂いますか?」

「うん、クシャラには分からないし分かっちゃいけないやつさ」

「はあ、そうですか」

 



「その奴隷の女をよこせ。いくらで買ったのか知らんが金貨10枚出してやる」

「なっ、ふざけるな!」

「ダメですキョウヤ様。あの方は貴族です。逆らってはいけません!」

「けどそれじゃあ!」 

 

くそっどうすれば・・・!

  

「キョウヤではないか。何事だ?」

「え? サリア?」

「サ、サリルリア様! どうしてこのような場所に?!」




「当たり前のように可愛くて主人公大好きな奴隷の女の子。当たり前のように可愛くて権力者で主人公が好きな女の子と知り合いで何の前フリも無くタイミング良く現れる。酷い・・・酷すぎる」


 マリンがブツブツと言っている

 そして顔色が段々青くなってきた。

 改めて言われると確かに酷い。  

 この辺りで休んだ方が良いかもしれない。

 

「ジンさん休憩にしましょう。マリンが正気を失いそうです」

 

 さすがに可愛そうになってきた。

 徐々に目がハイライトを失って行くのは傍から見ても怖い。

 マリンの目が死んだ魚のような目になっている。 

 

「せ、先輩。ありがとうございます! もう限界だったんです」


 マリンが嬉しそうにそんな事を言ってしまった。

 そう、言ってしまったんだ。

 ジンさんの前で限界だと。

 ここでは無理とか限界とかは言っては行けないキーワードである。 


「ふむ、マリン。大丈夫だ。自分で限界って言えるならまだいける」

「え? いや、え?」

「本当に限界なら人は何も言えなくなる。自分でそう判断出来るならまだ大丈夫だ」 

 

 これは酷い。

 

「休み休み読む方が苦しみが長引くだけだ。一気に読んだ方がまだましだ。今日と言う日は待ってはくれない。知るべき事は出来るだけ早く知っておいたほうが良い」

「う~ん。まあ、そう、かな?」

「え? え? せ、先輩?」


 確かにある程度以上は読んでもらわないと詳しくす話す事も出来ない。  

 しかしかなりつらそうだ。


「ヒロ、お前の言いたい事は分かる。分かるがここで止めたらもう読むのが嫌だろうから次からは体が拒絶反応を起こすかもしれん」

「拒絶反応って何ですか!」

「ああ~うん。そうかも知れませんね」

 

 可愛そうだがジンさんの言う通りではある。

 アレルギーの類は本人の意思と関係ない。

 

「先輩?!」

「いいから読め」

「ひっ!」


 


「その金と女を置いていきな。そうすりゃ命は助けてやるぜ」

「剣を抜いたな。なら殺されても文句は言えないんだぞ」

「でかい口きいてんじゃねえ!」


 キンキン


「チッとっと死にやがれ!」

「断る」


 キンキンキキン キンキン


「なんだその程度なのか?」

「ふ、ふざけんな! 俺はBランクなんだぞ!」

「ならBランクって言うのも大した事ないな。今度はこっちから行くぞ!」


 ヒュン! キン、カランカラン・・・


「そ、そんな! 俺の剣が!」

「お前達は力と剣の重さで叩き潰して切るが。本当の剣は技で切るんだ」

「うわあああ!」 

「キョウヤ様あの人逃げますよ!」 

「あんな奴は殺す価値もない。放っておけ」

「うむ、さすがキョウヤだな」




「もう・・・うっ!」

 

 青を通り越して白い顔をしたマリンが口元を押さえて立ち上がった。

 本当に限界を迎えたようだ。

  

「トイレは階段を下りてすぐ右だ」


 それが聞こえたのかどうか、マリンは物凄い速さで走って行った。

 間に会うだろうか。


「ここまで耐性が無いとは。あの感じからかなりの猛者だと思ったんだがな」

「何ですか猛者って」


 しかし吐くか。 

 まあホラー映画を見て気持ち悪くなるのと同じだろうか。 

 少し罪悪感が沸いてきた。

 

「いいお茶だな。どこで買った?」

「いえ貰い物です。トーヨン様から」

「そうか所長か。それと夕方から雨が降るから買い物は早めに済ませておいた方が良いぞ」

「はい。その、えっと」

 

 しかしジンさんはどこ吹く風。

 平気な顔でお茶を飲んでいる。

 だがクシャラは何か言いたそうにしている。

 本当に良い子だ。  


「クシャラ、ちょっとマリンの様子を見てきてくれ」

「はい!」

 

 クシャラはあの一件でマリンに苦手意識を持ったようだがまあ大丈夫そうだ。 

 出て行く小さな背中を見送りパソコンの画面を見ると中盤といった所で止まっている。


「でもジンさん、拒絶反応とか言いすぎですよ」

「本当だぞ。こいつはあの内容に耐える強い心と神聖属性に耐性が無いと精神を削られる。1回蜂に刺さてから2回目刺されたらショック症状を起こすって聞いた事あるだろ。そんな感じだ」

「なら次読めないじゃないですか」

「大丈夫だ。精神を落ち着かせる魔法がある」

「え? でも使ってませんでしたよね?」


 ひたすら読めと言ってマリンの様子を見ていただけだ。 

 そもそもそんな魔法を俺は事を知らない。


「最初くらいどう言う物か知ったほうが良い」 

 

 ジンさんは本当に容赦がない。

 確かに実際どんなのものか身を持って知っておくべきとは思うがなけなしの良心が痛む。

 だが結局は無理やり自分を納得させて、マリンが帰ってくるまで俺もお茶を飲む事にした。

 ジンさんの言っている事は間違ってないからだ。 


「このお茶をおいしいですね。あの人いいもん飲んでんな」

「なんだヒロ。お前知らないのか? あのおっさん甘党だからかお茶にも拘ってんだぞ」

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ