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女神の世界とクソゲーマー  作者: やのひと
12/42

12 同郷

 そして俺は今日も迷宮にもぐる。

 クシャラの作ってくれた朝食を食べて直ぐに屋敷を出てまっすぐ迷宮へ向かう。

 1階層奥には転移陣があるのだがこの時間は込み合っている。

 一応1階層にも魔物が出るのだが当然全て瞬殺される。

 だから初心者は2階層からだ。

 俺がいつものようにそこへ向かうと大勢の探索者達が次々と陣の中へと消えていく。

 皆、命と引き換えに金を求める馬鹿共だ。

 もちろん俺もその1人ではあるが。

 そんな事を考えながらも転移先を思い浮かべて転移陣へと歩いていた。

 さて、今日はどれくらいの範囲を探すか。

 おそらく32階層までは探索しつくしたはず。

 だからあと8階層を徹底的に探す。 

 

「あっ見つけた!」


 確かに金を稼ぐことも大事だが、この迷宮に通っている理由はそうではない。

 トリーさんには悪いが今は金に興味は無い。

 

「待って! えっと深山さん!」


 目的は女神の盾と同じく強力な力を秘めた女神の巫女の魔道具を手に入れるためだ。

 もちろんそれは聖女より先に手に入れ無ければならない。

 ジンさんが聖女を見た限りではまだ余裕があるらしいがそれでも早いほうが良い。


「ねえ! ねえってば!」


 今回の奴に関しては迷宮を踏破する必要は無いがある意味それより面倒くさい。

 だが諦める訳にはいかない。

 それに子供の頃から3Dダンジョンは得意なのでマップを描きながら進むのは苦にならない。

 あと絶対に油断だけはしないように気をつけている。

 昔やったゲームで雑魚相手と余裕かましていたら、いきなり全体魔法を食らって怯んだところに他の奴が全体魔法、以下略でハメ殺された。

 だからたかがスライムと侮ることなく進めるとしよう。

 確実にやっていけばいいんだ。

 

「待ってよ! 人事部長!」

「その名で呼ぶんじゃねえ!」


 突然俺の行く手を遮るかのように女の子が立ちはだかった。

 偉そうに両手を腰に当ててである。

 見た感じ俺より少し年下で15、6と言った所だろう。

 俺と同じでこの世界では少し珍しい黒い瞳に黒い髪を肩の辺りで綺麗にそろえている。

 俺を見上げる顔は気が強そうな感じがする可愛い女の子だ。

 そして見覚えがある。

 

「この前スライムに殺されかけてた娘さんか」

「ええ、助けてくれてありがとうございます」


 そう言ってぺこりと頭を下げた。

 なかなか礼儀正しい。

 軽そうな金属の胸当てと大きめのおそらく魔法の掛かった金属の手甲と具足を着けているが武器は持っていない。  

 あの時、何だかんだと考えたが結局助けてしまった。

 気を失っていたのでそのまま背負ってギルドに置いて来たのだが俺の事を聞いて待っていたのか。

 だが今は何より重要な事がある。


「俺を人事部長と呼んだな?」

「やっぱり、やっぱりそうんですね! 深山先輩!」


 その子は感極まったと言わんばかりに勢い良く抱きついてきたのでとっさに避けた。

 ジンさんからとにかく避けろと叩き込まれた結果、毎度の事だが体が勝手に動く。

  

「え?」

「うん?」


 その子はそのまま顔からぺちゃっと床にダイブしたがすぐにガバッと起き上がった。

 とても元気が良い。


「ど、どうして避けるんでか?」

「少し前に女の子に包丁持ったまま抱きつかれそうになったもんでつい」

「ほ、包丁? 女の子に恨まれてるんですか?」

「ちょっと違うな」

「なんでもいいからじっとしてください!」 


 キッとこちらをにらみ付けながら今度はゆっくりと抱きついてきたので避けなかった。

 そのまましばらくじっとしているとその子は胸元ですすり泣き始めた。 

  

「わ、私気がついたら、この世界で! 訳わかんなくて! 帰りたくって、で、でも生活するのにお金が必要で! 探索者になって騙されて、し、死に掛けて! 先輩、先輩!」

「えっと、とにかくここじゃ何だから」


 いつもは何とも無いはずの周囲の視線が何故か痛い。

 今日の探索は中止だ。

 泣いている女の子を連れてとにかく急いで入り口に向かった。

 すれ違う探索者に何事かと見られ、たまに声を掛けられ、入り口の警備隊の奴等には疑いの目を向けられ、さんざんだった。

 いい加減泣き止んで欲しいところだ。

 迷宮を出て周りを見渡せば探索者目当ての店が沢山ある。

 その中のたまに行く店に入って適当に2人分のアイスクリームを注文した。

 しばらくしてそれが来る頃にようやくその子は泣き止んだ。

 

「一応名乗っておこう。ヒロ・ミヤマだ。俺を知っているようだけど、何処かで会ったか?」


 年下に知り合いは殆どいない。

 だが俺を人事部長と呼んだからには同じ学校という事になるのだが、この世界に来た時俺は高1だった。

 人事部長の名は高校に入ってから呼ばれるようになった不名誉なあだ名だ。 

 しかしこの子は俺を先輩と呼んだ。

 

「えっと、初めまして、私はマリン・クレイです」

 

 ようやく泣き止んだが目は真っ赤で顔に涙の後が残っていた。

 初めましてと言ったか。

 

「うん? 外人さん?」

 

 日本人に見えたが外人さんだったのか。

 その割には流暢に話していた。 


「ああ、えっと、クレイ・マリンです。兄さんから先輩の話を聞いた事があるんです」

「兄? クレイ? ああ、もしかして暮井の妹?」

「はい!」


 暮井とは俺の所属する電子計算研究部の部員であり、ジャンルはかなり違うがゲーマーだ。

 部員から大先生と呼ばれている。

 妹がいるとは聞いていたがこんな可愛い妹とは。

 しかし奴は現実の妹は可愛くないといつも言っていた。 

 確かに現実の姉は可愛くない。 


「いつこっちに? 俺は2年程前だ」

「先輩は2年ですか。 私は半年くらいです。目が覚めたらこの街にいました。警備隊の人にたぶんどっかで魔法で飛ばされたんだろうって言われたからそれらしくしてですね。でもごはん食べなくちゃいけないからアルバイトしようって思っても字が読めないからなかなか見つからなくて。どうしようもなくなって、探索者になったんです。お金は警備隊の人が少し貸してくれました」


 話す言葉は日本語だが何故か文字は違うこの世界。

 俺もジンさんに教えて貰うまでは読み書きが出来なかった。

 この世界は習字度が高く、書けない読めないでは話にならない。

 

「探索者になってよく今まで無事だったな」

「えへへ、これでも結構強いんですよ。それに魔物を倒したらどんどんレベルが上がっていくのが分かりましたし。小さい頃から近所の道場に通ってたのが助けになりました」


 嬉しそうに笑っているが笑い事ではない。

 そしてレベルとか言う所を見るとゲームはやるようだ。

 だが気になるのは道場と言った事だ。 


「道場って言ったな。まさか古武術とか言わんよな?」

「何ですかそれ? 私のは合気柔術ですよ。これでも黒帯で結構強いんです」 

 

 俺は取りあえず古武術が使えると言ってれば良いやと言うのが嫌いなのだ。

 古武術と言う言葉が大嫌いだ。 


「スライムにねちょねちょにやられていたが」

「エロく聞こえるのでその言い方止めてください」

「スライムに殺されかけていたが」

 

 あの時俺が助けなければ間違いなく死んでいた。

 生活しようと思えば5階層は行かないと無理だ。

 1階層や2階層程度ならどうという事は無いがある程度以降は当然命の危険が出てくる。

 ましてやマリンがいたのは32階層。

 ここの迷宮は40階層までは1階層ごとに地上への一方通行の転移陣がある、

 その傍で死に掛けていた。 

 思い出したのか、マリンは肩をがっくりと落とした。

 

「はい。あの時パーティ組んでた2人に襲われて、そこをさらに大きなスライムに襲われたんです。あの2人は死んだんですよね? ザマァですよ」

     

 小部屋で休憩して水を飲んだら体が痺れたらしいので一服もられたんだろう。

 そして油断したクズ2人がさあこれからと言う所で上からスライムがドンと来てああなった。 

 ああなったら普通はもう助からない。

 あと1、2分遅かったらマリンも死んでいた。

 

「本当にありがとうございます先輩」

「いや、運が良かったんだろう」

  

 見捨てるところだったので純粋な感謝が痛かった。

 このことは黙っておこう。 


「それで先輩はどうしてこの世界に? その、帰り方とか知ってます?」

「俺も寝て起きたらこの世界だった。帰り方、帰り方な」


 何と言えばいいか。

 全て正直に話すべきか。

 

「これだってのは知らないんだ。けど、方法が無いわけじゃない」

「本当ですか! どんな方法ですか!」


 マリンは立ち上がって向かいの席から身を乗り出してきた。

 よほど帰りたいのだろう。 


「神様に頼むのさ。この世界を創造した女神にな」

 

 この世界には神が実在する。

 世界を創った女神は本当にいるのだ。


「神様、ですか?」


 とたんにマリンは胡散臭げな顔をした。

 気持ちは分かる。

 日本人には神様と言われてもピンと来る方が少ない。


「そうだな、場所を変えるか。マリン、お前何処を根城にしれるんだ?」

  

 これ以上の話はこんな場所ではするものではない。

 周りの視線が結構集まっているのを感じるからだ。

 俺はこの街に来てあまり経っていないが結構顔が売れている。

 3ヶ月程でしかもソロで30階層を超えているからだ。

 そんな奴が泣いている女の子を連れているとなれば注目を集めてしまう。


「この近くの宿ですよ。1拍夕食付き1000カナです」

「そこそこだな。あと誰かとパーティー組んでるか?」

「えっと、この前まであの2人と20才くらいの女の人ととで少しの間だけですけど」

「へえ、で、その女ってのは?」

「あの日はその、ちょっと具合が悪いから休むって言われて、それ以降姿が見えないんです」

「それ本人に言われたか?」

「はい、けどそれが何か?」


 おそらくその女もグルだ。 

 見た感じマリンの装備は良い物だから殺して身包み剥いで売るつもりだったのだろう。

 

「いや、なら問題ない。荷物まとめて着いて来い。金の無駄だし、探索者の使う宿ってのは安全とは限らないからな。俺のとこならその辺完璧だ」

「先輩の家ですか? お邪魔して良いんですか?」

「ああ、俺一人で住んでるわけじゃないけどな」


 せっかくの同郷の人間なんだから一緒に行動した方が良いだろう。

 さて、と立ち上がった所で忘れていた事を思い出した。

 

「そうだ。お前、俺を人事部長って呼んだけど、詳しい話知ってんのか?」

 

 あの忌々しいあだ名。   

 

「はい、兄さんが笑いながら話してくれました。だから深山先輩の事知ってたんです」

「あの野郎いらん事を。ああ、俺を呼ぶならヒロで良い。こっちでは苗字では呼ばんからな」

「はい、ヒロ先輩!」


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