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女神の世界とクソゲーマー  作者: やのひと
11/42

11 よくある質問

「半分買い取りをお願いします」


 ここはスリアーノのギルド。

 俺がバックパックから結晶を全部取り出して買い取りカウンター置くと、窓口のナイカさんは慣れた様子でそれを手早く片付けた。

 実に仕事が速い。 

 

「はい、Eクラスの結晶53個で10万6千カナです」

「はい、どうも」

「でも凄いですね。それだけの結晶を1日で取ってくるなんて」

 

 珍しく話しかけられた。

 確かに1日で10万以上の稼ぎは相当な物だ。 

 しかもこれで半分。

 思えば担当のナイカさんに買い取り以外で向こうから話しかけられたのは初めてではなかろうか。

 残りの結晶をしまいながら改めてナイカさんを見る。

 ナイカさんは20才くらいで綺麗な銀髪をショートカットにしていて、冷たい感じがする切れ目のスラッとした美人さんである。

 仕事が出来るお姉さんと言った感じだ。

 

「30階層辺りで戦われてるんですよね? ヒロさんは魔法が得意なんですか?」

「ええ、まあ、割と」

  

 嘘ではない。

 自分で言うのも何だが結構な物だと思う。 

 ただし攻撃魔法は除く。 

 あんなものは必要ない。

 考えてみて欲しい。

 攻撃魔法と言うのは結局敵を倒すためのものだ。

 なら敵を斬っても結果は同じだ。

 ちんたら呪文を唱えてる暇があれば近づいて斬れば良い。

 だから別に素質が無いのが悔しい訳では無い。

 回復魔法使えるし。

 脳筋などと言ってはいけない。

 もちろんナイカさんの言いたい事は分かっているがあえてそう答えた。

 ギルド内の視線が自分に集まっているのを感じるが気にしない。

 30階層から40階層まではスライムが大量にいるため、最低限倒して駆け抜けるのが普通だ。

 元々探索者に魔法使いは少ないし、パーティーに魔法使いがいても結局魔法使い一人で戦う事になるがそんな事していたら直ぐに魔力が尽きる。

 だからと言って他の方法でスライムを倒すのは面倒だ。

 スライムを斬れるくらいの腕を持った探索者などめったにいないし、不意を衝かれたらまず助からない。

 それなら安全に上の階層か少し無理して下の階層で戦ったほうが効率が良い。

 それを狩りまくってくるのだから、普通に考えれば凄腕の魔法使いだが俺は剣を3本身に着けているため魔法が得意な剣士といった風に見られている。


「あと、副所長がお会いしたとおっしゃってます。これから大丈夫ですか?」

「副所長ですか?」


 ここの所長には以前会った事がある。

 セカイエにあるギルドの所長とは昔パーティーを組んで迷宮を探索した古い友人らしい。

 そして俺とは正反対の辛党だ。

 以前にトリーさんが諦めた店長の挑戦の話をしたら次の日には食べに行き賞金を貰っていた。 

 なかなか面白い人だった。

 だが俺は副所長に会った事が無い。

 それ以前に副所長などがいた事すら知らない。 

  

「まあ、大丈夫ですけど」

「そうですか。では少しお待ちください」


 ナイカさんはメモ用紙に何か書き込んで事務所の女性に手渡して何か言っている。

 受け取った女性はすぐにギルドを出て行った。


「お待たせしました。ではこちらへ」

 

 ナイカさんに連れられスタッフオンリーのスペースを進み、階段を昇ると所長室と書かれた扉がある。

 ノックすると中から入れと低い声がした。

 

「遅いぞナイカ君」

「申し訳ありません」


 さて、第一印象というものは大切である。

 何故か所長の椅子に座っていたのは40過ぎの太ったおっさんだった。

  

「君がヒロ君か。私が副所長のモリソンだ」

「どうも、初めましてヒロです」


 何やら偉そうだ。

 どこにでもいそうなおっさんだったが、ドラマでたまに見かけた嫌味な上司と言った印象を受けた。

 それとナイカさんを見る目が、何となくエロい事を考えている感じがした。

 

「セカイエの迷宮を踏破したそうだね」

「まあ一応」

「君はパーティーを組まずに一人でもぐっているという話だが」

「まあ色々あるので」

「ふむ、君は探索者になってどれくらいかね」

「2年程です」

「2年?」

「2年です」

 

 どうやら俺の詳しい情報は伝わっていないらしい。

 ナイカさんが2年と聞いて驚いた顔をしている。

 ここの所長は詳しく知っていたが、それ以外の人には迷宮を踏破した探索者とだけ伝わっているようだ。  


「馬鹿にしているのかね? 2年だと? ありえんだろうが」

「目の前にありますが何か?」

「私は真面目に聞いているんだがね」

「俺も真面目に答えてるんですが」

 

 現実は非情である。

 普通は無くても普通じゃなければありうるのがファンタジー。

 その住人が何を言っているのか。

 何やら雲行きが怪しくなってきた。 


「では聞こう。君は何者かね?」 


 モリソンさんは真顔で聞いてきた。

 それに対して俺は我慢出来ずに吹き出した。

 笑いが堪えられなっかったのだ。

 

「何が可笑しいのかね!」

「す、すみません」

 

 何がって全部。

 全部可笑しい。

 何者だ?ってアホな質問してくる人が本当にいるなんて思わなかった。

 これが笑わずにいられる訳がない。 

 マンガとか小説で俺つええ最強系主人公が聞かれて言葉に詰まる奴を現実で見たんだから笑ってしまう。 

 あれ? 俺も最強系か?

 いやいや、俺主人公じゃないし。


「えっと、何者? 何て答えて欲しいんですか?」

「それを聞いてるんだ!」

「だから、何て答えて欲しいのかって聞いてるんですよ。何て答えれば納得するんですか?」

 

 自然に馬鹿にした口調になってしまう。

 本当にアホな質問だ。

 

「俺、実は異世界から召喚されたんですよ」

「ふざけるな! 真面目に答えろ!」

 

 真面目に答えたのにこれだ。

 つまりこいつは自分の納得出来て予想している範囲の答えしか聞きたくないくせに聞いている。

 俺が馬鹿正直に答えるはずもないのにだ。

 断言出来る。

 お前何者だなんて面と向かった聞く奴はアホだ。

 そもそもこんなアホな質問に真面目に答えたりする奴はまあいないと思う。 

 

「俺が何であれ、何か問題が?」

「そんな短い期間に誰も踏破したことのない迷宮を踏破できるはずが無い! 答えたまえ!」

  

 唾を飛ばして怒鳴るモリソン相手に俺は深い深いため息をついた。

 もうこいつにさん付けはいらないだろう。

 むしろおっさんでいい。

 

「特殊な道具を使った。特殊な魔法を使った。何か特殊な方法を使ったのに違いない。どうやってそれを手に入れた。どこで手に入れた。それは何だ。それを全部言え、と」

「き、貴様!」

「うん、当たりか」

 

 しかし久しぶりに笑った。 

 お前何者だ?だと。

 帰ったらジンさんにも教えよう。

 あの人なら俺と同じで馬鹿にして大笑いするだろう。

 何しろ例のヤツにも書かれているからな。


「だ~か~ら~何て答えれば納得すんですか~? 何者だって言えば~納得するんですか~? 大体俺が答える義務なんてないでしょう? ん~?」

   

 自分でもウザイと感じる言い方をした。

 だが反省はしない。


「答える気は無いと言う事かね! 良いだろう、こちらにも考えがある!」


 どうせろくでもない事だろう。

 この世にはどうしようもないアホがいる。

 このおっさんもそのくちだろうか。

 大体何でこんなのが副所長なんかやっているんだ。

 

「いや、そんな物は無いね」

「所長、お早いお帰りで」

「しょ、所長? ナイカ君! 君が呼んだのか!」

 

 ここでいつの間にか開いていた扉から所長のエミリオさんの登場であった。

 エミリオさんは非常に丁寧に話すが、低めで力のこもった声を出す髭が似合うダンディーなおじ様で近所の奥様方に人気の人である。

 その後ろにはナイカさんがメモを渡した女性が立っていた。

  

「家で寝ていたのにいきなり呼ばれてね。まったく3日ぶりの睡眠だったのだがね」

「所長は働きすぎです」

「なに、2日くらい寝てない方が頭がよく回るものさ、それにイリス君を使いによこしたのは君だろう」

「こうなる気がしましたので。所長の自宅は隣で助かりました」

 

 エミリオさんが何か凄い事を言った気がする。 

 そしてナイカさんはやはり仕事が出来るカッコいい女性だった。

 トリーさんも仕事は出来る女性なんだがあれがあるかな。

 

「さて、モリソン君、君は何の権限があって彼にどんな事をしようとしているのかな? ああ、ヒロ君済まないね。今日はもう帰ってもらって構わないよ。詳しい話は今度するから」

「し、しかし所長! こいつは!」

「最近色々やらかしてるね君。気づいてないと思ってるの? いやいや、部下の不始末は僕の責任か。でも、とりあえず良い機会だから全部追求しようか。証拠は結構あるかからね」

 

 おっさんの顔色が赤から紫を経て青くなる。

 人間の顔色は面白い様に変わるなと関心した。 

 

「ではヒロさんこちらへ」

「あっはい」


 今日はもう帰ろう。

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