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女神の世界とクソゲーマー  作者: やのひと
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1  出会い

 体が痛くて目が覚めた。

 頭がぼんやりしている。

 冷たく硬い所で寝ているようだ。

 おかしい。

 俺は自分の部屋のベッドで寝ていたはずだ。

 体を起こして気がついた事は手触りからおそらく石の床に寝ていた事。

 辺りは真っ暗で何も見えない事。

 何も音がしない事。


「え? 何? どうなってんの?」


 俺のつぶやいた声が響いた。

 真っ暗で自分の手を見る事さえ出来ない。

 体を触ると寝る時に着ていたジャージの感触がある。

 そしてあまりの静かさに耳鳴りがする。


「誰か、いませんか?」


 耐え切れずに両手を床について四つん這いになって我ながら情けない声を出した。しかし声は暗闇に吸い込まれるだけでどれだけ待っても何も聞こえない。


「誰か! 誰か! いませんか!」


 喉の奥から大声を上げた。

 不安だった。 

 怖かった。

 目は開いている感覚はあるが何も見えない。

 自分の出す音以外何も聞こえない。

 寝ている間に誰かが自分を運んだと言う事になるが、そんないたずらを仕掛けてくる人間に心当たりはない。

 だからと言ってうちは誘拐されるような金持ちではない。

 何がどうなっているのか分からないがこのままじっとしていてはいけないと何故か漠然と感じた。

 立ち上がってみるが本当に何も見えないのは恐ろしくすぐに両手を床につくことになる。

 ただ立って歩くことさえこんなに怖いとは。

 その時指先に何かが当たった。

 床のような石ではない。

 それを手探りでつかんでみると四角くて薄くて軽かった。

 表面を触ってみるとプラスチックっほい。

 これは何処かで。

 

「そうだ、姉さんのノートパソコン」


 俺は寝る前にこいつを使っていた。

 太陽光で充電が出来る最新モデル。

 姉さんが趣味のために小遣いを貯めて、さらに前借りまでして買ったノートパソコン。

 何とか電源を入れると画面が明るくなり、その僅かな光が辺りを照らす。

 ぼんやりとした光を頼りに見てみると俺のいる場所は四方が石の壁に囲まれた広い部屋だ。

 天井は高く光が届かない。

 どこだここは。

 よく見ると一箇所だけ入り口らしき扉がある。

 何らかの金属製で錆びていて真ん中に切れ目の入った扉。

 だが掴む場所が何も無い。

 ゲームでは押せば真ん中から開く形ではある。

 しかし向こうから押すタイプなら完全に閉じ込められている事になる。

 俺はノートパソコンを下に置き、望みを託して全力で扉を押した。

 全力で体を使ったのはいつ以来だったか。

 足元は裸足ではあるが、床の石は平らではなくザラザラだったのですべる事はない。

 歯を食いしばり、必死に押し続けると金属のこすれる嫌な音を立てて少しずつ扉が向こうへと開いていく。

 すると扉の向こう側から薄っすらと光が漏れてくる。

 どれくらい押したのか何とか通れるくらい開いた扉をすり抜けると明かりの正体が分かった。

 それは無造作に床に落ちてる剣。

 ぼんやりと光を放つかなり刀身の長い片刃の剣だった。

 俺はそれを見た時に赤いと思った。

 別に光が赤かったわけではない。

 刀身が赤かったわけでもない。

 柄の部分が赤かったわけでもないが、何故か赤いと感じたのだ。

 剣なんか見るのは漫画かゲームくらいだ。

 恐る恐る握ってみるとずっしりと重い。

 同時に剣から光が消えた。

 慌てて剣を手放すが剣に光は戻らない。

 しかし何故か周りが見える。

 光はノートパソコンから放たれる僅かな光だけなのだが、光に関係なく周りが見えるのだ。

 慌てて剣を放した時に少し切っ先が触ってしまい指先が切れた。

 つまりこの剣はおもちゃではないと言う事だ。

 そして理由など一切分からないが暗闇を見通す事が出来るようになっている。

 拾った剣のそばには光ってはいないが同じような剣が見えたので拾ってみると、音もなく消えさった。


「は? え?」


 消えたのだ。

 下に落としたわけではない。

 周囲に溶け込むように、重さと共に手から消えたのだ。

 もう本当に訳が分からなかった。

 横に落ちていた鞘に剣を収めてみるが回りは変わらず見えたのでノートパソコンの電源を切り、とにかく前に進む事にした。

 時間の感覚などとうに麻痺していた。

 とにかく歩いて歩いてどれだけ歩いたのか分からないくらい歩いて、外にでた。



「これが全部です。何が何だが分からないんです」


 俺の前には焚き火を挟んで1人の男が座っていた。

 見た感じ年は20代後半かそこら。

 ゲームなんかで登場する黒い皮製の鎧を着けて剣を横に置いている。


「成る程な。大体分かった。お前、ミヤマって言ったな」

「はい、深山尋です」

「こっちではヒロ・ミヤマだからヒロと名乗った方が良い。俺はジンだ。さて、何から話せば良いのか」


 俺は話せる事は全てを話した。

 ジンと名乗った男は少し悩んだ後、ゆっくりと語り出した。

 それはとても信じられない話。

 だが紛れも無い現実。

 俺の普通の生活は終わったのだ。



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