だから彼女は動画投稿ができない
2話目です。
youtoolは動画専門のウェブサイトだ。
自分や他人が録った動画を簡単に投稿、閲覧できるため、youtool内には様々なジャンルの動画が溢れており、子供から大人まで幅広い年齢層が楽しめる人気サイトである。
更に再生数に応じて報酬を貰えるシステムも存在し、上位の人気動画投稿者ともなると月収で一千万以上稼ぐ者もいるらしい。
そんなyoutool自体を生業としている投稿者達を人々は『ユーツーバー』と名づけた。
「で? 高校一年にして退学したいと舐めたこと抜かすサキさんもそんなユーツーバーになりたいと」
「うんうん! 人気が出れば月収百万だって夢じゃない世界だよ。普通に働くなんて馬鹿らしいじゃん」
半ば呆れ顔で尋ねた僕にサキは満面の笑みで頷く。
恐らくはテレビの特集かCMの内容を鵜呑みにしてしまったのだろう。
僕は大きくため息をついてサキの説得を試みることにした。
「あのな、そんな夢の生活してんのは極々一部の投稿者だけで他の大多数の人はただの趣味として使ってたり、本気でユーツーバー目指しても人気でなくて苦しんでるような人がほとんどなんだぞ」
「私はそんな風になったりしないから大丈夫よ!」
サキは腰に手を当ててふんぞり返った。
一体こいつのこの自信はどこから湧き出てくるのだろう?
「根拠は?」
「私が可愛い女子高校生だから!」
「浅いわ!!」
短絡的な発言に思わずツッコんでしまった。
確かに僕の従兄妹、主原サキの容姿は決して悪くはない。
金に染めてもさらさらな髪、小顔に目や鼻のパーツがバランスよく配置された小学生のような愛くるしい顔立ち、小さく華奢な小動物のような体は見ていると抱きしめたくなってくる。
「宋兄?」
「……ハッ!? イカンイカン」
サキの呼び声に意識を取り戻した僕は慌てて口から出かけていた涎を服の袖で拭った。
本当に容姿だけは可愛いのにどうしてこうなったコイツ。
「お前なぁ、可愛いだけで人気投稿者になれるわけないだろう」
僕は自分を見失いかけた頭を深呼吸して落ち着かせると、冷静に本題に戻った。
人気投稿者になる為に外見の良さというのは確かに強みになるだろう。しかし整った顔立ちというだけで誰もが億万長者になれるのならばこの世に苦労などないのである。
「悪い事言わないからユーツーバーなんぞ目指さず真っ当な人生を生きろ」
「私なら誰よりも面白い動画撮れるもん!」
これだけ言ってもサキはまだ食い下がってきた。
特に実績も無いくせに自分だけは成功すると信じて疑っていないのだろう。
これが若さゆえの過ちというものなのだろうか?
「そもそも何で僕にそんな相談をするんだ。自信があるなら一人で始めちまえばいいじゃないか」
頭ごなしに言ってもサキは諦めそうになかったので僕は話題の方向を少し変えてみることにした。
ユーツールに動画を投稿するのは至って簡単だ。
細かい編集を必要としないものであればアカウントを作り、ビデオカメラ、パソコン、スマートフォンなどで撮影した動画をそのままアップするだけである。
難しい作業など一切ない。
しかしサキは僕を訪ねて来た。訪ねなければならない何かがあるのだ。
「うっ……それは……」
予想通りサキは苦い顔をしながら視線を逸らす。
やはり何か弱みがあるんだなと確信しつつ僕は次の言葉を待つ。
「あの……ね……これからユーツーバーになるにあたってね……宋兄の……ぱ……」
「ぱ?」
「パソコン貸してほしいなって思って……」
サキは赤面しながら甘えた声でおねだりしてきた。
「ぱそこん?」
予想外の返答に僕はつい間抜けな声を出してしまう。
何故僕のパソコンが必要なんだ?
サキには高校入学祝いで買ってもらったハイスペックなスマホがあるじゃないか。
頭に浮かんだ疑問を僕が口に出すより先にサキはその答えを白状した。
「入学時にね、調子に乗ってゲームの課金しまくってたらね、月の携帯料金とんでもないことになってね、怒ったうちの親が夏休み中無駄遣いしないようにって……」
今にも泣きそうな声で話す先はポーチの中から今現在自分が使っている携帯電話を僕に見せてくれた。
「うわ……」
僕は思わず声に出してしまう。
サキの手に握られていたのは白のカラー、丸いフォルムのガラケー。それも電話とメール以外一切の機能が排除された老人用携帯だった。
「これで解ったでしょう? 今の私は動画を投稿するどころか撮影する事すら叶わない哀れなJKなの」
目に涙を浮かべながらサキは握っていた携帯をそっとポーチの中へと戻す。
「……うん。なんかごめん」
高校一年にして老人用携帯に機種変更された従兄妹を前に僕はそれ以上何も言えなかった。
僕の夏休みはまだまだ始まったばかり。




