獣
しょげてうなだれているKYに大丈夫かと声をかける。
どこかのプリン好きのおっさんはKYのメンタルを崩壊させると、ちょうど緊急の連絡が入り血相変えてどこかに行ってしまった。
プリンがKYに精神的ダメージを与えている真っただ中ちょっとというには大きすぎるハプニングがあったようで連絡係の人がダッシュで伝えに来たのだ。なんでも祭りの催しで生贄に使うはずだった動物が脱走したらしい。
獣一匹でそんなに取り乱すこともないと思うのだけれど…。プリンがあんなに慌てるなんてよほど気性が荒い化物なのだろうか。とても貴重だから絶対逃がすな!!ということかもしれない。
後者はともかく前者なら絶対遭遇したくないな。真っ赤なお花は御免だ。
まあ後者にしても探す気はさらさらないし、プリンの被害者1・2・3をほっとくのも忍びない出会う事はないだろう。
「あーあ…」
KYがしばらく復活しそうにないので、無造作に転がっている先行隊その1&その2を道の脇に運んできて寝かせる。二人とも腕や足の骨は折れているものの幸いにも頭は無事なようで息はある。
まあ死にはしないだろう。どちらかと言えばプリンが踏み込んだ地面の方が重症かもしれない、見事に陥没している。修復が大変そうだ。
さて、運んできたはいいものの、どうしたもんか…
元の町にも病院は無いものの診療所モドキのようなものを開いて、ケガや風邪を治してくれる人がいた。この町にもそういう商売をしている奴はいるはずなのだが場所が全く分からないのだ。
KYに聞いてみたが、目が逝っていて無反応だった、そこの二人はまだ意識がない。かといって通りすがりの人に聞こうにも、全員会場にいるのか誰も通りすがらない。
遠くから、逃げたぞ!そっちだ!あれ?どこ行った!?などと聞こえていることからポカリはしばらく帰ってこないだろう。
「あー、聞こえてないだろうけど、人呼んでくるからまっててくれ」
そうKYに言い残し会場に走る。
道筋は分からないが方角は大体わかる。空から見た感じだと大体走って7~8分くらいだろうか。そこまで遠くもないが近くもない。僕が助けを呼びに行っている間に、脱走中の獣がKY達を襲わないかというところだけが心配だが、まあポカリが取り乱すような化け物なら僕がいても大して変わらない。
戻った時彼らが食い散らかされていたらかわいそうだが、自分の運を呪ってくれとしか言えない。花を添えて冥福を祈ろう。
南無阿弥陀仏…気が早いか。
そんなことを考えているとキャー!、ワー!と大勢の人の声が聞こえてきた。どうやら会場のすぐ近くまでていたらしい。
疲れを感じながらも足に力を入れる。幅の少し広い道から細い横道に入る。行き止まりを左に、右にと曲がりつつ祭り会場である広場に早走する。
きちんと整備されていなかったのか、道に敷いてあるレンガの一つがつま先に引っかかり顔を地面に打ちつけた。
「痛ったぁ…!」
両の鼻から垂れ流されている血をぬぐいすぐさま立ち上がった。
足を止めたことで違和感に気づいた。
耳に意識を集中する。
「声が聞こえない…」
会場は目と鼻の先にある。壁に体を擦るがお構いなしに細い道を全力で駆け広場へ抜けた。
先ほど少し高い位置から会場を見渡したのとはやはり感じる雰囲気が違った。やはり参加者視点だとまた見え方が違う。
しかしそれだけではない。
あんなに賑わっていた会場には、人が一人もいなかった。
荒れた会場には物が散乱しているものの死体は全く無い。
ガランと風通しが良くなった会場。その真ん中にあるステージの上に黒い動くものがいた。
そいつは僕に気づくともぞもぞと体をくねらせて近づいてくる。
目の前に来てようやく正体がわかった。
信じられない大きさの真っ黒い芋虫だった。全長一メートル位あるだろう。
芋虫は僕の目の前まで来ると頭を上げて人が入れるくらい口を大きく開いた。口の中は真っ黒でよく見えない、入ったら終わりだと感じる。
なのに恐怖感がまるでなかった。
芋虫は口を大きく開いただけだ一向に僕を飲み込もうとしない。それどころか大きく開いた口を閉じ首を傾げている。
芋虫は首を戻すと再度口を大きく開き不死身を飲み込もうとした。
「遅かったか…」
プリン臭がプンプンする声がしたと同時に、芋虫は蹴り飛ばされる。
もちろん声の主はプリンのおっさんだ。
不死身の目の前には芋虫を吹き飛ばしたプリン臭がする足があった。
「あ…」
プリンは建物に衝突する芋虫を追いかけ足で踏みつける。
「あいつは違うだろ間違えるな」
芋虫はギィッ!ギイッ!と鳴き暴れたが、プリンは容赦なく芋虫の胴体を踏み潰した。緑の体液が飛び散る。




