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世界は節目を迎えました  作者: 零時
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 僕の答えにおっさんは動きを止めた。


 「お前、行かない...って一体...今自分で逃げないって言ったよな?」

 「ああ、僕の口から言った」


 おっさんが困ったように≪あー≫と≪えー≫が混ざったような声を出す。


 「あ、ああ、そうか悪かった。そうだよな他にも心の準備とかそういうのがま」

 「違う、僕は壁の外に出る気はない」


 言葉を遮り先読みで答えを返す。

 するとおっさんは顔を引きつらせてうつむいた。

 何か勘違いをしているのだろうか。


 「俺はお前が出てこないと思ってたのに...でてきて少しうれしくて逃げないって言い出したから少し期待してたのによ....」


 おっさんが荒く立ち上がると座っていた椅子が反動で倒れゴゴンッと音がした。

 客の何人かが椅子の音に反応してこちらを向く。


 「もういい...お前にはもう何も期待しない」


 僕が弁解する間もなくおっさんはそういい捨てると速足で店を出てしまった。

 倒れた椅子を立て直し軽いため息をつく。


 彼は僕が外に行かないと宣言したことが不服だったようだが、それには僕なりの理由がある。

 あの場で頭を潰され続けることしかできなかった僕はポカリの足手まといにしかならない、だから行けない。ポカリの置き手紙にもお前はそこにいろというニュアンスが込められていた。

 簡単に助けに行く、壁の外に行く、なんて言えない。弱い僕はポカリに合う前に人質になってしまうことも容易に考えられることだ。

 彼はそれを踏まえてあんな事を言ったのだろうか。


 先ほどこちらに向いた視線はもうない。

 椅子の音に反応した人々も馬鹿騒ぎを楽しんでいる。

 暗い雰囲気はここだけだ。


 「僕に何を期待してたんだよ…」


 先ほどとは違った長いため息をつく。

 先ほど彼の座っていた席に目を移すと未会計の皿があった。

 僕は金を持ってないが慌てない。

 こうやって会計を相手に押し付けるのは、ポカリがよくやっていたから知っているのだ。

 そしてやられた場合の対処も彼から聞いているのだ。

 僕は《付けで》と小声で言い残しこっそりと店を後にした。


 店内に入る前よりも外の空気は冷え込んでいた。

 思わずブルルッと震え手で腕を擦る。

 月が壁と空の境目に近づいていることからあと数時間で夜が終わることがわかる。

 

 「寝よう」


 引きこもっていたせいか朝方だというのに全く眠気を感じなかったが、生活習慣をどうにかしなければならなかったので無理やりにでも家に帰って寝ることにした。


 歩くと余計に寒い。

 腕を擦りつつ気を紛らわすために歩きながら天体観測をする。

 もちろん天体望遠鏡なんて道具は必要ない。

 単体の星を見るならぜひ使いたいところだが、持っていないしそもそもそういった類の道具を使うと視界が狭まってしまう。

 空にちりばめられた多くの光を観測するには肉眼が一番なのだ。

 それに今日は月が大きい、望遠鏡なんて使わなくてもよく見える。


 「とどきそうだ」


 徐に月に向かって右腕を伸ばす。

 もちろんとどくわけない事は分かっているが手を伸ばしてみたくはなるのだ。

 腕を伸ばしきると手のひらを月に重ねた。

 瞼を閉じよくわからない集中ののち目を開くと同時に右手をギュッと握る。


 月が右手に握りつぶされると同時に発光した。

  

 「え.....爆発した!?」

 

 慌てて腕を縮め開いた手のひらを確認する。

 

 「何もない.....」


 顔を上げると相変わらずそれは壁と空の境目辺りに悠々と浮かんでいた。


 そうだこんな再生だけが取り柄の男に月の破壊なんて大それたことできるわけがない。

 ポカリやおっさんの怪力でもあの巨大な丸い塊までジャンプして殴って破壊なんてことはできないのだ。

 あるいは外の奴らならできるかもしれないが、現に地球の衛星『月』は空に浮いている。

 僕が幻覚でも見ているのなら別だが今のところ月は無事だ。


 月を再度見てもおかしなところは無い。

 精々いつもより大きく、いつもより明るいという程度だ。

 

 「気にすることもないか...」


 僕は光を気にしない事にし自室へ帰還した。


 


 


 


 

 


 


 


 


 


 


 

 


 


 



 




 


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