酒場カオス
隣で奇妙な色のプリンを味わっているおっさん。通称プリンのおっさんは僕との面識はそこそこあるものの友人という間柄ではない。
距離感的には近所に住んでるおっさん....知人辺りが近いだろう。
僕と彼の接点はポカリだ。
ポカリは喧嘩を三度の飯と同等に愛しているが対等な力の奴はなかなかいない。
しかしこのおっさんは見た目通りの馬鹿力を有している。ポカリとはいい喧嘩仲間というわけだ。
ただ黙々とプリンを食べる光景に苛立ちを感じてきた頃、おっさんは最後の一口を食べ終えコップ一杯の水を飲むと口を開いた。
「ポカリを手伝ったのは俺だ」
「ああ...知ってる」
簡単な話だ。
おそらくポカリは僕らが計画していた壁の外への脱出手段と同じ方法で外に出た。
その方法とはシエルがポカリをブン投げポカリはそれに息を合わせてジャンプする。空高く飛んだポカリはあらかじめ用意していたロープ付きのカギ爪を壁の向こうに投げてひっかけるという単純なものだった。
こんな作戦は怪力が二人いれば実行できる。
今回は攫われたシエルの代わりにおっさんに協力を頼んだのだ。
なにせ僕の知る限り怪力の能力がついてる奴はポカリ、シエル、おっさんの三人しかいない。
ポカリが仲のいいおっさんに頼むのは当然の事だろう。
「聞いてもいいか」
「.....」
おっさんの問いに無言で答える。
大体彼が問いたいことは想像がつく、きっと僕が逃げた理由だろう。
思い出しただけでも吐き気がする。
話したくない。
彼も逃げた理由は分かっているだろう、しかしそれは僕の口から話さなければならない。
恐れているだけでは何もどうにもならないのだ。
夜はとっくに更けきっているというのに祭りのようににぎやかな店内、多くのテーブルから笑い声が聞こえる。
一部では喧嘩がイベントのような扱いだ。
その楽し気な空気の中での僕の沈黙。
おっさんはどうとったのか質問をつづけた。
「なんで出てきたんだ」
予想外の質問だった。
真逆の質問だ。
少し驚いたことで間が開いたが、自分の中で出来上がっている結論を言葉にする。
「逃げても....どうにもならないと思ったからだ」
おっさんは少し考えるように何も乗っていない皿を見つめてこう言った。
「俺は出てこないと思っていた...」
「.....なんでそれを僕に話す」
おっさんは迷わず答える。
「お前が出てきたからだ。それなりに考えたから出てきたんだろう」
おっさんは続けた。
「ならお前の口から話さなければならないこともあるんじゃないのか?」
そうだ自分の意志は自分の口で伝える。そうじゃなければ出てきた意味がない。
「.....僕は逃げた。あのゴーレムに何度も頭を潰された恐怖から部屋に閉じこもった...。僕が怖がりなのは嫌な事から目をそらしたいからだったと気づいた...。ゴーレムが去ったのに部屋に閉じこもったのは嫌な現実から目を逸らしたかったからだ...。でも目を逸らしても、部屋に閉じこもってもいいことは何もない。嫌な現実はどうにもならない。シエルが勝手に帰ってくることはないしゴーレムに頭を潰された事実は変わらない。だから出てきた。」
僕が話を終えるとおっさんは満足した顔をしていた。
「わかったお前の気持ちは伝わった。ありがとうな。じゃあすぐ荷物まとめてやるよ!なぁに心配ないここは何でも揃う酒場カオスだ!全部俺に任せればいいお前は心の準備でもしとけ!」
「え、なんだって?」
おっさんが勢いよく動いてるのを手で静止して質問を投げかける。
「だってお前ポカリの奴を追いかけるんだろ?」
期待やら何やらがこもりにこもっているような質問に即答した。
「何の話だ?僕は壁の外に出る気は無いぞ?」




