ゴーレム
壁の消失、戸惑い、喜び、朝焼け
直後の事だ。
「すまない」
朝焼けの光を遮るようにして一人の男が立っていた。
周りにはそれほど大きな障害物がない、大きくても一メートルそこらの低木しかないのだが、この男が現れたことに全く気が付かなかった。
まるで最初からそこにいたかのように、堂々と突っ立っている。目を凝らすが逆光で顔がよく見えない。大きな体と相まってゴーレムみたいだ。こんなやつは壁の中にいない。
ここで一番図体がでかいのはプリンのおっさんだ。このゴレームはおっさんよりもごつごつしている。おっさんを一回り大きくして筋肉で固めればこんな感じになるだろう。しかしそれではプリンのおっさんから、筋肉ダルマにあだ名が変わってしまいそうなので、おっさんにはぜひとも今のままでいてほしい。
二人はすでに動揺を抑え込み警戒態勢に入っていた。と思ったがポカリの目は大きく開かれてゴーレムを凝視している。
すまないと言ってきたのだから何かお願いでもあるのだろうか、それにしては雰囲気がおかしい、ピリピリした空気が流れている。殺気だろうか、妙に背筋がひやりとする。
僕も少々遅れて身構える。
口を開いたのはポカリだった。
「お前だれだ」
大きく見開かれていた眼は、標準サイズに戻りいつもの喧嘩するときの表情だ。
朝焼けの暖かい光が僕らを包む。
「歯を食いしばれ」
大きな影が僕の左に現れた。
左の頬に大きな衝撃、口の中でバキッと音がする。衝撃は浸透し眼球が揺れる。
足が浮いた。
僕は十数メートル飛び建物に叩き付けられた。
「がはっ!!...」
肺の空気が一気に吐き出される。
そのまま地面に崩れ落ちた。
息ができない...
かろうじて意識はある。一体何が起きた。
苦しい。
体は動かない。
代わりに眼球をゆっくりとだが動かす。目の前にあったのは、何本もの血にまみれた歯。
ずいぶんと細かく砕けたな。
口の中の感覚は無い、痛覚が麻痺しているのだ。
ありがたい、麻痺していなければすでに気を失っていただろう、それどころかショックで死んでいたかもしれない。
さらに眼球を動かす。ゴーレムがいた。
僕のものであろう赤く染まった歯が踏まれた。バキバキと音を鳴らしさらに粉々になる。
歯を踏み潰すなんて、体重がいくつあったらできるのだろう。化け物め。
僕は臆病だ。幽霊が怖い、妖怪が怖い、猛獣が怖い、おっさんが怖い、厳ついおっさんはもっと怖い。
化け物も怖いに決まっている。
未知が怖い、人が怖い、毒が怖い、嵐が怖い、壁が怖い、プリンが怖い、太陽が怖い、敵が怖い。
死ぬのは怖いはずだ。
このゴーレムは...なんだこれ。
ゴーレムの足の間からシエルとポカリが走ってくるのが見える。スローモーションだ。
やっほー僕はここだぁー
声は出ない
「重ね重ねすまない」
ゴーレムは丁寧に謝罪、そして僕の頭を踏み潰した。
痛みは無かった。




