朝
周期的に行くと今日は会議の日なのだが、今に限ってはそれは当てはまらない。今夜は祝勝会前祝いなのだ。何に勝つ予定なのか、そこについてはっきりしないが、あえて敵を確定するなら僕らを閉じ込めている忌まわしき壁がそれに該当するだろう。
「長かったな~ここまで来るのに何年かかった事か、ついに俺たちは、あのでかい灰色でなんかでかい壁に勝つ時が来た!!」
「ああ!!俺たちは数々の試練を超えぇぇ、一週間後あれを倒す!そしてこの世界を我が手にするのだぁぁ!!」
「おい待てよ!世界を手にするのは俺だ!そしてシフォルちゃんは俺の嫁にする!!」
「てめぇぇ!!ちょっと会えるようになった程度で調子に乗ってんじゃねえぞ!!絶対認めねぇぇ!妹は俺が一生守るんだよ!お前なんかに渡すかボケェっ!」
「カマなお兄様の了承なんているか!!シフォルちゃんはそんな奴に守られるより優しくてカッコいい俺に一生養われたいと思ってるんだよ!!渡されるまでもないシフォルちゃんの方から来てくれるさ!!」
「誰がカマだってぇ!?このナルシスポカリ!!シフォルはどっかのナルシスなんかよりも男前なお姉ちゃんの方が何億倍も大好きなんだよバーーーカ!!」
「だれがナルシだこら!!男前な姉ちゃんって誰の事だよ!!お前中身男じゃんかよ!!姉ちゃんじゃなくてカマちゃんだろうが!!」
「てめえぇそれ以上カマっつったら、男前お姉ちゃんのドロップキックでそのナルシズムあふれる顔面をアスタリスク状に凹ませるぞ!?」
「よく言った!!お前がそこまで言うなら俺は全力でお前のカマをさらにカマカマさせることに、エネルギーを全て解き放つ!!」
ポカリの馬鹿は相変わらずだが、この半年間で僕らの関係は極めて親しいものになった。いわゆる親友に該当するだろう。喧嘩するほど仲がいいというやつだ。
現に彼らは何度も衝突を繰り返したが、(主にシフォル関係で)毎回双方がボロボロになった所で勝手に和解するのだ。だからそれは些細な日常の風景なのだ。名物といっても過言ではない。
「あっははは!!お前また強くなったな!!」
「ああ!!鍛えてるからな!!そういうてめぇも腕上げてるじゃねえか!!」
喧嘩は毎回こう終わるのだ。さながら青春の一ページ。
「暴れるのはいいけどプリン争奪の時のおっさんが言ってたぞ、深夜になると地下から化け物の叫びが聞こえるって」
「ああ、俺もそんなの聞いた。でも若干違う事言ってた気がする」
「そうなのか?他にそんな話はしてなかったけどな。なんて言ってたんだ?」
「そうだな~確か、深夜になると地下の部屋からプリンの亡霊が呼ぶ声がするとかなんとか」
「てめぇの頭の中マジでプリンでも詰まってんじゃねえのか??」
絶妙なタイミングでの突込みが入る。素晴らしいコンビネーションだ。
「あっそういえば俺聞いたんだったそんな話」
「日中寝てる癖にお前はどっから盗み聞ぎしたんだ?」
「まあ聞けよ。そこの扉直してから数日後の事だった。起きたら扉の外から何かしら音がするから聞き耳立ててみた。そしたら聞こえたんだ。ポカリの頭の中にはプリンが詰まっているってな」
「え、嘘だろ?まさかとは思っていたんだが...え、ほんとに俺の頭の中にはプリンが...」
本気で信じたのか真っ青な顔で頭を押さえている。次の突込みは僕の番だ。
「いや、それただポカリを馬鹿にしてただけだろ」
「なんだって!!じゃあ俺の頭にプリンは入ってないのか!?」
「ああ、安心しろてめぇの頭には何も入ってない」
「よかったぁ~~!!ありがとうな二人とも!!」
酒が入ったポカリは馬鹿が加速するようで予想以上だった。
心から笑いあえる仲間たちとの宴、楽しい時間は実際の時間よりとてもとても短く感じるもの。その宴会は僕たちに時間を忘れさせた。そして楽しい時は終わりを迎えるのも突然である。
地上からの轟音が地下室にまで飛び込んでくる。真っ先に動いたのはポカリだった。それに続いてシエルが地上に走る。反応が少し遅れた僕は慌てて二人の後を追いかける。
地下から抜け出し建物を出ると先に出た二人がいた。空はうっすらと明るく、朝方だという事がわかる。
強めの風が吹き新鮮な空気が運ばれてくる。うっすらと地平線に太陽が見え光が体を照らす。とても気持ちのいいあさだ。ほんとにとてもすごくいい朝。地上にあったのは僕たちが目指していた朝だった。
「なあ不死身、俺は夢でも見てるのか」
「わからない、ほっぺ殴ろうか」
「ああ、全力で頼む」
ご所望通りポカリのほっぺを全力で殴った。ポカリの頭が揺れる。拳があごの骨に当たった。
「「痛い...」」
拳がじんじんする。強く過ぎたかもしれないけど。
夢じゃない。
ふと周りを見渡すとシフォルが微動だにしていない。頬に一筋の光が反射している。
太陽が徐々に姿を現してきた。見えるのは無限の大地。
僕らの忌まわしき敵はその日跡形もなく消滅した。




