再び目覚めたらそこは
目を開けたら、白い天井が見えた。
何度か瞬きを繰り返す。人の動く気配がして、私はゆっくりと顔を動かした。
白い制服。看護婦さん?その背中がやがてこちらを振り返る。その瞬間目が合い、若い看護婦さんは目を見開いて固まった。
「…望月さん!!」
看護婦さんが駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか??ここがどこか分かります??」
問いかけられて辺りを見廻す。そんな私を、看護婦さんはただじっと見つめている。
「…病院ですか?」
「そうです!」
看護婦さんはすかさず私の枕元に手を延ばした。どうやらそこにナースコールのボタンがあるらしい。
『はい、どうしましたか』
ナースコールが応える。
「望月さん、気がつかれました!先生を宜しくお願いします」
『はい、わかりました』
頭の上で交わされるやりとりを、私はただ茫然と聞いていた。
その後お医者さんから聞いたところによると、私はやっぱり事故に遭ったらしかった。
死んでしまったのだと思っていたけど、命はとりとめたらしい。大きな外傷は無く、ただ意識が戻らず、入院していたということだった。
眠っていたのはたった2日間。
私が純一郎になってた少しの時間。
あれは夢だったんだろうか。
たった2日間とは思えない程、濃い時間だったけど…。
連絡をうけて駆けつけたお父さんとお母さんは、私を見てわんわん泣いていた。
それを見てたらやっと実感した。自分が生きてることを。
命があって、よかった。
失恋は本当に悲しくて辛かったけど、でもそこで人生終わらなくてよかった。
だって未来はまだまだこれからなんだから――。
◆
その後検査などのため、結局退院まで一週間ほど要した。
もとの自分の体に戻ったことを日々実感する。
そして時折奇妙な2日間を思い出したりしながら、やがてまた学校へ戻る日になった。
心配そうなお母さんに見送られて家を出る。
電車に乗って高校のある駅へとたどり着いた私は、いつになく緊張していた。
高校への道を歩きながら、時折後ろを気にして振り返る。
ついこの間まで憂鬱で仕方なかった自転車の音を、探している自分が居る。
けれども結局出会うことなく、私は久しぶりに高校の門をくぐった。
ちょっと落胆しながらたどり着いた教室で、クラスメートの温かい歓迎を受けた。
いつものように始まる授業。慣れた机と椅子。先生の声を聞きながら、私はぼんやりと黒板を眺めていた。
不意にそこに書いてある日付に目が止まる。どこかで見たような、その日付。
なにか予定があったような感覚に、私は思わず首をひねった。
――なんだっけ…。
大事なことだった気がして、一生懸命記憶を手繰る。
ほどなく私の頭に、ひとつの答えが閃いた。
とっさに時計を見て今の時間を確認する。
もしかしたら今頃…。そう思ったら、私は手を挙げて先生を呼んでいた。
「すみません。まだ本調子じゃなくて…。早退してもいいですか?」
私のとっさの嘘に、先生は慌てて「すぐ帰りなさい」と言ってくれた。
◆
物凄く心配してくれた先生に申し訳ない気持ちになりつつも、高校を出た私は目的の場所へ向かって真っ直ぐ歩き始めた。
見覚えのあるアパートを通り過ぎて、まだ真っ直ぐ。
2度行っただけの幼稚園だけど、ちゃんと場所は覚えていた。
頭の上まである柵の外から、園庭を伺う。
そこでお遊戯する園児達を見守る一団に、うるさいほど目立つオレンジ色を見つけて、私の口元は自然と綻んでいた。
――そう。今日は要くんの幼稚園の参観日。
保護者達の中、おかしな頭の男が混じってる。
存在は浮いてるのに、隣のおばさんと親しげに話して笑いあったりして、馴染んでるのが可笑しい。
その目が要くんに戻った時、ふと園児達を通り越してこっちを見た。
…あ、私を認識したらしい。
すごい目を見開いてる。
めちゃくちゃ驚いてる。
鳩が豆鉄砲ってかんじ?
分かりやすく口を開けて呆ける顔が可笑しくて、私はひたすら笑っていた。
ねぇ純一郎、不思議だね。
部屋は汚いし、口は悪いし、AV観るし、
……誰彼かまわず恋に落ちるし。
そんな男を目の前にして、どうしてなんだろう。
未来はまた希望に満ちて、キラキラと輝いてる気がするんだよ――。
<完>
最後まで読んで頂き、有難うございました!
本編はこれで完結です!
この後はおまけの番外編に続きますので、おいおいこの後どうなった?!を含め、めでたく元の体に戻れた2人のその後のエピソードに興味を持って頂ける方は是非そちらへお進みください!




