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アイドルッ!  作者: 末吉
第三幕・第二話
99/205

2-8 ビビりの根性論

 バイト先まで急いできたが、遅刻という事には変わりなく。

 怒られながらも着替え、溜まりに溜まった注文を作っていくことにした。

 作っていくこと一時間ちょっと。

 体力としてはイエローゾーンに入って帰りは大丈夫だろうかと思いながら仕事をしていたら、マスターから「そういや、お前ってどうして遅くなったんだ?」と訊かれたので、厄介事に巻き込まれたと誤魔化した。

 実際、俺は言いふらすことなどしない。言いふらしたら、町の奴らが見ようとすることが間違いないからだ。もう恥ずかしくて嫌だ。

 今週と来週の土曜日のバイトは休むわと先にマスターに告げとき、えぇ~と子供みたいな反応をしてきたやつを無視してバイトをこなしていった。

 終了時間になり、これといって何事もなく終わったことをうれしく感じながら自転車で家へ帰る途中、何やら近所迷惑じゃないかと思う声が聞こえた。

「何見てんだ、テメェ!? ぶっ飛ばすぞ!」

「ヒ、ヒィィィ!! すいません! すいません!!」

一瞬関係がないので見過ごそうかと思ったが、謝るほうの声に聴き憶えがあったので、しょうがなく声がしたほうへ向かった。


「ケッ。この根性無しが! テメェみたいなやつがこの町に近寄るんじゃねぇ!!」

「す、すいません!!」

俺が着いた時、どうも何事もなく終わったようだ。残っていたのは、腰を抜かして道路にへたり込んでいる、前日と今日(も、らしい)学校をさぼった如月洋司だった。

 俺は、とりあえず自転車から降りてへたり込んでいるそいつに近寄りながら言った。

「おい。そこでへたり込んでると、車に轢かれて死ぬぞ?」

すると、そいつは「は、はいっ!」と言って歩道のほうへ歩いて行った。

 当然俺も付いて行き、歩道でまた座り込んでいるそいつの隣に座って話しかけた。

「何やってたんだ、一体?」

俺が隣にいることに驚いているのか、びくびくしながら説明してくれた。

「い、いえ…ただ見ていただけです」

「ふ~ん」

ただ見ていただけ、ねぇ。まぁ別にいいか。

 肝心なのは、どうしてこんな時間にここにいるのかという事だ。

 基本的に、この町の近くにこの時間近づく人はいない。いるのは、仕事帰りか俺みたいにバイト帰りか、どこかへ喧嘩しに行って戻って来た奴ぐらい。

 なぜいないのかというと、単純に不良グループがウロチョロしてるからだ。喧嘩するために。

 基本的に、くれな町や周りの町や市の奴らは夜に俺達の街の近くにこない。というより、俺達の街には町の奴らに関係が無い奴らは誰も来ない。喧嘩ばっかりやってるし、そういうイメージが大きいから。

 そういや篠宮姉がドラマの撮影に使った理由って一体何だったんだろうなぁと思いながら、俺はどうしてここにいるのか訊くことにした。

「どうしてここにいる?」

「え、えっと。一昨日はありがとうございました」

「んなもんどうでもいい。俺は、今どうしてここにいるのか、と訊いているんだ」

「そ、そうですね」

そう言ってから、再び説明してくれた。

「僕、見ての通りビビリなんです。結構色々なものに怯えてしまって……。だから克服しようと思って、こうやって夜道を歩いたりしていたんです」

 へぇ。頑張っているんだなぁ。そう思いながら、俺は続きを促した。

「でも全くダメなんです。夜道を歩くと余計に怯えてしまって。今日学校へ行けなかったのもそれが理由なんです」

 おい。それじゃ意味がないだろうが。そう思い、俺はただ溜息をついた。

 それを聴いたそいつは、苦笑しながら言った。

「そんな風に溜息をつかれても仕方ありません。事実ですからね」

そしてすぐに視線を落として呟いた。

「でも、僕はそれを直したいんです。演技として幅を持たせたいですから」

こいつ、そんな事を考えていたのか。

 そいつの言葉に芯が在るのを感じながら俺はそう思い、少し考えてこう言った。

「そうか。なら、頑張るしかないな」

そう言って俺は立ち上がり、自転車にまたがった。

 それからこごうとしたら、そいつは俺に向かってこう言った。

「はい」

俺は、その言葉を聴きながら自転車をこぎ出した。


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