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アイドルッ!  作者: 末吉
第三幕・第二話
97/205

2-6 白鷺さんが行く!

今回長い理由? 前回短かったからですね。

「どうしたんだ? メールで遅刻するなんて送ってきやがって。珍しい」

「放課後に人と会う約束をしていたんだ。今からはバイトできるぜ」

「じゃ、さっさと注文を処理してくれ」

「はいよ」

 午後五時くらいに喫茶店に着いた俺は、そこからハイペースで溜まっていた料理の注文を処理していった。

 それが終わったのが午後六時。あ~疲れた。

「お疲れ様です」

「マスター。気のせいか? 美夏が来てる様なんだが」

「気のせいじゃないと思うぜ。何時ぞやの嬢ちゃんで、雑誌を置いていくのを指示した人だ」

 どうやら、幻覚ではないらしい。目の前のカウンター席にいる美夏を見て、俺はそう思わざるを得なかった。

 ……少し疑問なんだがよ。

「こんな時間にこんな所にいて大丈夫なのか? 色々とあるんだろ?」

 そう訊いた理由は、金持ちは色々とパーティに参加したり、お偉いさんと食事したりすることが多いからだ。何故知っているかというと、いつきに(強制)連行されているからである。

 ま、気配を消すのがうまくなった時には、もうその会場について別れた瞬間に逃げたが。

 そんな俺の心配は、すぐさま消えた。(=追っ払う事ができなかった)

「だから言ったじゃないですか。色々と押し付けてきました、って」

 だからできるだけお話ししたいのです、とにっこり笑って付け足した。

 その笑顔にマスターはニヤけ、他の客も見惚れていた。

 俺はというと、平常通り。もう見慣れてるし。特に何か変な気が起こるわけでないし。

「そうか。だとしても、早めのお帰りをお勧めする」

「そうやって逃げようとしても無駄ですよ。私はまだいますから」

「じゃ、注文ヨロ」

 出来るだけ俺は美夏と会話しないように注文することを促したんだが、

「それでは……この、賄飯を」

 よりにもよってマスターが作る料理を注文しやがった。

 マスターが嬉々として作りに行っている間、仕方がなく、本当に仕方がなく、俺は美夏と話すことにした。

「で? ここまで追ってきた理由は?」

「現実に戻った時には、八神君いなくなってたじゃないですか。ですので、ここに来たのです。ご褒美のお話をしていなかったですから」

 ご褒美、ねぇ。生憎俺には物欲が無いから、他人から物を貰う事なんてほとんど皆無だ。だが、要らないと言ったら、この場で泣く演技でもされて他の客たちからの顰蹙を買うだろう。

 困ったものだなぁと思いながら、俺は訊いた。

「ちなみにそのご褒美は?」

 すると、何のためらいもなく美夏は答えた。

「私の家にご招待させていただきます」

 ……え~っと。

「マジでか?」

「はい」

 なるほど。もし無傷で助けたら自分の家へ招待すると。ふ~ん。そういうこと。

 一通り自分の中で納得し、この事から考えられる最悪のケースを予想した結果。

 そのご褒美は、俺にとって災厄以外の何物でもない。なんとなく、そんな気がした。

 でも断りづらいんだよなぁと考えていたら、マスターが「賄飯いっちょ上がり!!」と言って美夏に出した。

 それを貰った美夏は「ありがとうございます」と言って食べだした。

 俺はというと、普通に他の客の接客をしていた。

 そんな時間が俺のバイト終了時間まで続いた。


「で? お前は俺の家まで来るのか?」

「はい」

 なんたることか。こいつを自転車の後ろへ乗せてこがなければいけないらしい。

 結局。俺のバイト終了時間まで美夏は残っており、そこからさらに家へとついて来るらしい。

「嫌だと言ったら?」

「乗せてもらいます」

 と言って、こいつは後ろに乗りやがった。

 もうこのまま行かないといけないんだろうと溜息をつきながら思った俺は、仕方なくそのまま自転車をこいだ。

 運転中。

「は、速いですね」

「そうか? これでもいつもより遅い方なんだが」

「どうして車と並走できるのですか?」

「まぁ普通じゃないという事は自覚している。あの町で生きてりゃ、誰でもなると思う」

 そういうものですか? と訊かれたが、その質問に対しては答えなかった。

 なにも巻き込まれず普通に家に着いた俺は(白鷺と一緒にいる時点で巻き込まれたと言っても過言では無い)、何故かソワソワしている白鷺に訊いた。

「まさか……家に上がるのか?」

 その質問に対してビクッとしてから、少し間をおいて答えた。

「……いけませんか?」

 どうやら、何かしらの修羅場が発生するかもしれない。

 そんな予感がした、この瞬間。



「ただい「お帰り、お兄ちゃん!!」…人の台詞を遮るなよ。それと、出会い頭にタックルは止めろ」

「良いじゃん別に! お兄ちゃんが今日も元気に……って、お兄ちゃん? 後ろの人はもしかして」

 家に入って早々茜からのタックル。威力は別に低いから問題ないのだが、後ろにいる美夏の存在に気付いてしまった。気のせいか、茜の後ろから戦闘民族よろしくな何かが見える。

 もう気付かれてしまったので、俺はもう抵抗せずにこう言った。

「俺の学校の先輩で、タレント名は…………なんだっけ?」

「白井美夏です。貴女のお兄さんとは仲良くやらせていただいています。今日はオフなので、無理言って私が付いてきました」

そう言ってからお嬢様だと思わせるお辞儀をする美夏。実際そうだが。

 それを見た茜は、さっきまでの怒気はどこへやら。すぐさま改まって頭を下げた後、「どうぞ上がってください!」と言って美夏の手を引くやいなや、すぐさまリビングへ行ってしまった。

 置いていかれた俺は、いつも通り自分の部屋に向かった。


 部屋に戻った俺は、まずいつも通りに明日の準備などをした。それから、ケイタイを確認した。

 すると、光からメールが一通きていた。内容は、「明日一緒に依頼受諾書を書いてもらいます」というものだった。

 そう言えばこいつ、俺に強制はしなかったよな。そう思った時、優しいところもあるんだなと思った。

 が、あくまでそれだけ。それ以上の気持ちは無い。なんて考えたので、


 そういえば、俺はその気持ちをどこから捨てたんだろうか?


 等と思ってしまった。


 少し考えたが、悩む必要なく答えが出てしまった。

 俺は、生まれた時からそんな気持ちを持ち合わせていないのだろう、と。

 そんな答えを出した時俺は無性に悲しくなったが、いつの日かその気持ちに気付くだろうと思い風呂に入るために下へ降りることにした。

「風呂沸かしたのか~?」

 リビングを通り過ぎる時にそう訊いたら、何やらワイワイうるさかった。

 何やってんだ? なんて思いながらその部屋を覗くと、美夏が親父たちと何かを見てなにやら喋っていた。やたらと楽しそうなのは、きっとそれが美夏にとって嬉しいものだからだろう。

 これじゃ風呂沸かしてねぇかなんて思いながら、楽しそうな美夏たちを放っておいて風呂を沸かしに行ったと同時に着替えを置きに行った。それらが終わったので、俺はリビングに水を飲みに戻った。

 戻ってきた俺を待っていたのは、

「こんな出来た娘さん、日本広しといえど中々いない。日本中を旅した俺がそう言うんだ。間違いないって」

「ありがとうございます。私も、こんなにも暖かい両親の中で育ったことが確認できて嬉しいです」

「まぁ、お上手ね」

 と、なんだか仲良くなっていた三人と、一人ではしゃいでいる茜の姿だった。良く観ると、サインらしきものが書かれた本がある。本当にミーハーだな、お前。

 俺は今の時間を確認してからこう訊いた。

「そろそろ十時になる訳だが。お前は帰る気ないのか?」

 その言葉に美夏は時計を見て、「あ、本当ですね」と言ってから、親父たちに「今晩は楽しい時間を過ごさせてありがとうございます」と言ってお辞儀した。

 両親は普通に「また来ても良いぞ」「そうね」と言って手を振った。

 俺は、何故か美夏に手を引っ張られながら家の外に出た。


「どうして俺まで」

「この町は貴方が居れば大丈夫なんですよね? それに、迎えが来るまでの間もっと一緒にいたいですし」

「それはあれか。俺にいつきの処刑を受けろというのか」

「そうではありません。単に一緒にいたいだけです。本宮さん達に負けたくないので」

 そこでどうしていつきの名前が挙がるのか分からないし、そもそもなにで勝負しているのか分からないので、俺は何も言わずにされるがままに引っ張られていた。

「なぁ」

「なんです?」

 話しかけたら、嬉しそうに返してきた。どうしてそんな反応をするんだろうな?

「どこまで行くんだ?」

 段々と家から離れていくので、ひょっとしたら待ち合わせ場所があるのではと思い訊いてみたら、

「本宮さんの家の前です」

 そう答えた。

「なぁお前、俺の事を先導しているがちゃんと場所が分かっているのか?」

「……あ。すいません、私初めてなんです。ここに来るの」

「だったらどうして先導してたんだよ?」

 この尤もな質問に少しだけ悩んだ白鷺だったが、考えがまとまったのかこう答えた。

「教えません」

「はぁ?」

 なんなんだよ、一体。悩む必要なんてあるのか?

 そう思ったが、そこまで知りたいわけではないのでそれ以上は追及しなかった。

 それからしばらく歩いていたんだが、白鷺に電話がかかってきたようで、歩きながら話していた。俺は、黙って白鷺の歩調に合わせて歩いていた。

 やがてケイタイを仕舞った白鷺が、「あの……」と言ってきたので、俺は歩みを止めて訊き返した。

「あ?」

「ここに迎えが来るらしいので、もう結構です」

「ふ~ん」

 こんな周りが家だらけでどうやって迎えが来るんだろうかと思いながら、俺は適当に相槌を打った。

 ん? てかこの状況ってどういうことだ? そもそもどうして俺は美夏と一緒にいるんだ?

 今更な疑問に、俺は首を傾げた。

 そして、この状況をいつきや光に知られたら大変な誤解を生みそうで怖い事に気付き、そういやいつきにはばれてそうだなぁと考えを訂正し、明日が地獄の一丁目にならないことを今になって心の中で祈ることにした。

 そんな事をやっていたら、白鷺が俺の目の前にいた。

 なんか至近距離で美夏の顔があるなぁと思った俺は、反射的に距離を置いた。

「ヒドイですよ。どうして離れるのですか?」

 離れた俺に美夏はご立腹の様子。

 そういわれてもな。俺は今命が惜しいんだ。もうこの状況は知られているだろうから、これ以上余計なものは増やしたくない。最悪、俺が死ぬことになる。まぁそこまでないだろうが。

 で、離れた俺にもう一度近寄ってきたのでまた離れ、また近づいて来たので離れのループを何回かやっていたら、俺は塀に追い込まれていた。

 バックステップで逃げるってやっぱり相手の思惑通りになりやすいんだなぁと思いながら、俺は近くにあった電柱に足をかけ、三角跳びの要領で塀の上に跳んだ。

 これで何とか危機(?)が回避されたなぁと思いながら下(一メートル八十)を見たら、

「ズルいです! 折角あそこまで行けたのに、どうしてあんな芸当出来るのですか!?」

 と美夏が抗議していた。

 これぐらいこの町じゃ普通なんだがなぁと思いながら、何か言おうとしたが気配を近くに感じたのでとりあえず耳を澄ませることにした。

 人数は……分からねぇ。何かに乗ってるようだから、本当に分かりづらい。ただこのエンジン音だとすると、こっちへ向かっているのは自動車か?

 なんて耳を澄ませながら考えていたら、俺達が向かおうとしていた方からヘッドライトが見えたので、とりあえず美夏に「塀に近寄ってこい!」と言った。

 何故か不思議そうだったが、おとなしく従ってくれた。ヘッドライトが見えないのか?

 それから数秒で、黒い車が俺達の前を通り過ぎようとして、止まった。

 あれは……フェラーリ? どうしてこんなところに?

 なんて疑問があったが、その車が止まったことにより疑問は自然に氷解した。

「迎えが来たんじゃねぇか?」

「そのようですね」

 それから、その車のドアが開き中からメイド服を着た水色の髪の女性が現れた。

「お嬢様、お迎えに上がりました」

「レシカさん、ご苦労様です」

 レシカ、と呼ばれたその女性は、「いえ。仕事ですので」と言って俺の方を見た。

 ん? 一体どうしたんだ? 俺に何か用か?

 不思議そうに首を傾げた俺を見て、レシカ、さんは深々とお辞儀をしてこう言った。

「いつもお嬢様からお話を聴いております。今後ともお嬢様の事、よろしくお願いします」

 礼儀正しいなぁと思いながら、

「こちらこそ、と言って良いのかどうか分からないが、まぁ死なないようにいるわ」

 と言った。

 その言葉に満足したのか、「ではお嬢様。お乗りください」と言ってドアの近くにいた。

 促されるまま乗った美夏は、ドアが閉まって車が出発する前に、「それでは。ちゃんと遅れずに来てくださいね?」と言ってきたので、「確約は出来ん」と言って塀を走りながら家へと帰ることにした。



 車内。

「あれが八神様ですか。お話に聴いていたより、油断ならない殿方ですね」

「そうですか?」

「ええ。この私が見上げるまで気配を感じませんでしたので」

「言っていませんでしたか? つとむ君は強いのです。本宮さんのところのSPと互角に戦えるそうですから」

「そうですか。でしたら納得です。あそこのSPは常人ではまず勝てませんからね」

「勝負したら勝てますか?」

「どうでしょう。……ところで。嬉しそうですね、お嬢様。何か約束でも?」

「はい」

 そんな会話が繰り広げられていたことをつとむが知ることなど、無理だろう。



 その日、帰ったら茜に『どうして美夏さんと一緒にいたの!!?』としつこく訊いてきたので適当にごまかし、寝ようとしたところでいつきから『明日はちゃんと説明してもらうからね?』と電話があり寝るに寝られず睡眠不足に陥ったのは、どうでもいい……のか?


二人乗りは法に抵触するのでやめましょう。

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