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アイドルッ!  作者: 末吉
第三幕・第一話~ふざけた話と納得できる話~
89/205

1-2 衝撃の事実

三幕は不定期になる予定です。でも一週間に一回ぐらい更新したいかと思います。


 一方、学園長の話を聴いて不機嫌になったつとむはというと。

「あ~くそ! 未だにあのジジイムカつくぜっ。あんな.ブツブツ……」

 分かりやすいほどにイラついていた。

 それを見ている菊地慎と新妻甲斐は、

「だ、大丈夫ですか?」

「無理じゃないか? あそこまでイライラしていると」

 つとむの不機嫌オーラプラス隠さない罵詈雑言に対してそんな事を言っていた。

 授業に遅れてくること自体は周知の事実だが、来た時のつとむの目が普段より五割増しに鋭かった。その上学園長に対する悪口を延々と言っているのだから、もはや生徒は誰も近寄ろうとはしない。

 ここで、ついに先生が大声を上げた。

「次! 八神! ブツブツ言ってないではやくしろ!!」

 それを聴いたつとむは先程より目つきの鋭さがなくなったが、口調自体は変わらず、

「ああ!?……分かったよ! やればいいんだろうが! 言っとくが、加減はしないからな! そっちで適当に処理しろよ!!」

 畳の上に立っている先生に向かって怒鳴り返した。

 今回も体育館で、内容は「受け身の執り方と技」。

 これは、この学科の八割の生徒に回ってくるのが戦闘シーンや暴力シーン(残りの二割はバラエティやそういうものが一切関係ない役)なので、絶対に憶えないといけない奴である。

 もっとも、つとむはとっくの昔に憶えているので関係ないと思っていたのだが。

「いいからさっさとしろ!」

 怒鳴り返されたことに怒ったのか再び怒鳴ってきた先生の真正面につとむは立ったのだが、それからは一瞬の出来事だった。


 気が付いたら、先生は体育館の天井を見ていた。


 あまりにも早業過ぎて、先生はおろかつとむ以外の誰もが、彼が何をやったのか認識できていなかった。そしてつとむはというと、驚きで動けぬままの先生達を一瞥し、体育館の隅に移動して瞑想していた。

 先生は何とか立ち上がれたが、たいした怪我がないことに更に驚き、つとむの方を見た。

 しかし彼は無視してそのまま瞑想をしていた。

 彼がやったのは簡単なこと。ただの足払いである。

 ムカついて加減をする気が無いつとむがとった行動が、足払いで怪我をさせることなく倒れ込ませることである。それにした理由は、それ自体にたいした攻撃力は無く、少しの労力で終わるからである。

 こうして彼は授業が終わる五分前まで瞑想し、その間先生達は驚きのあまりつとむの事を凝視していた。



 昼食の時間。

「なぁ。あまりにムカついたんで瞑想して心落ち着かせてたんだがよ。その間一切物音がしなかったのはどういう事だ? しかも、すげぇ見られてる感じがしたんだが」

「そりゃお前。いつの間にか先生が天井観てたのを目撃しちまえば嫌でも観ちまうだろ」

「そうっすよ。アニキの凄まじさは知っていましたが、あそこまで速いなんて思っても見なかったす」

「あれぐらいなら、うちの町の奴らは普通にできるぞ。一番すげぇのが豆腐屋の親仁。あの野郎、足払いを本格的な攻撃にしやがったからな。しかも入りと抜きの動作が全く分からん。ガキの頃に値切りで喧嘩したことがあるが、あん時打撲ぐらいでよくすんだと思うぜ」

「お前の住んでいる環境がそもそもの発端ってわけか。つくづく勝てないな」

「その前に値切りで喧嘩することに疑問を持ちましょうよ」

 会話で分かる通り、慎、甲斐、俺の三人という珍しい組み合わせ(甲斐とは食堂へ向かう際、仲直り的なことをした)で食べている。甲斐を除けば食堂で頼んだもので、今いるのも食堂。

 なぜいつきがいないのかというと、内のクラスの女子連中に連行されたとか何とか。

 ある程度食べたところで、俺は慎に訊いた。

「ところで慎。お前、緑川とはうまくやってるのか?」

「ど、どうしてアニキが知ってるんすか!?」

「別に不思議がる事は無い。登校時からお前たちの事は知れ渡っている」

「で? どうなんだ?」

「・・・・・ハイっす。円花は優しくて健気なこっす」

「だったら、男としてちゃんと守れ」「それ位の男気は見せろ」

「二人に言われるとプレッシャー以外の何物でもないっすよ!」

 慎に泣きそうになりながらその言葉を言われた俺と甲斐は、互いに顔を見合わせニッと笑った。

 そこで慎と緑川の話は終わり、話は先程の俺の態度についてとなった。

「どうしてアニキはあんなにムカついていたんすか?」

「ああ?……爺さんがいい加減にドラマとかに出演しろとか言ってきたからよ、俺の短所をとりあえず並べて戻ってきただけだ」

「そりゃ災難だな。しかし、一応校則では『年度内に一回以上撮影に参加すること』と明記されているぞ?」

「破ったらどうなるんだ? いや、なんとなく留年じゃないかと思ったからその質問はしていなかった」

「退学できませんからね。それが妥当じゃないっすか?」

「そこら辺が落としどころだろう。しかし、お前だったら楽だろう? なんせ仕事の依頼がたくさん来てるらしいから」

「は?」

 俺は甲斐の言葉に箸を止めた。ちょっと待て。なんだその話?聴いてないぞ?

 俺の反応が予想外だったのか、今度は二人が箸を止めた。

「なんだその反応は? もしやお前……」

「知らなかったんすか?」

 二人がそう訊いてきたので、俺は素直に頷いた。

 ここでこの学園、この学科の依頼システムというものを説明しておこうか。

 まず、出演してほしいという番組などの情報が、俺達の学科専用校舎の職員室(一階)の廊下にある『依頼管理報告書』という電子掲示板に載せられる。人を指名されている場合、匿名希望以外のやつは載る。で、匿名希望の奴らは先生に言われる。ちなみに俺は匿名希望。

 メールで確認情報が来るが、それは指名された時のみ。その場合は匿名も誰も関係は無い。

 で、その依頼を受けたいなぁと思った時にとる行動は、先生に『これやりたいんすけど』的な事を言って依頼受諾書をもらいサインと判子をして提出。それを先生が爺さんに渡し、承諾されたら証明書を貰って出演、となる。

 ちなみに出演料だが、一年生の時のレート換算で行くと学校側に七割、こちら側に三割らしい。俺は出演したことないから分からないが。

 ただアイドル認定生の場合は少し特殊らしく、同じ一年でももらえる額が違う上に学校側が四割しかとらないらしい。ふざけてるのかこの野郎。

 ま、俺にとっちゃ関係ないし留年しようなら犯罪引き起こして意地でも退学すれば問題は………あるな。それはともかく、だ。

 慎たちの反応を見た限り、俺に依頼が来てるってことは指名という事だ。となるとメールくらい来てもおかしくない筈なんだが、生憎一通も来ていない。いつきあたりが止めた可能性も考えられるが、そこまでするんだったら俺を普通の公立高校に行かせればいいだけの話だ。


 となると俺が触れ回っているからか? だとすれば納得がいく話だ。いくら依頼が来ても、俺が嫌だと散々触れ回っているから回してこないのだろう。

 それで納得がいった俺は、「ま、気にしても仕方がないか」と言って食事を再開したが、慎が「あれっ? 確か学園長が全部止めてるんじゃなかったっけ? 確か『こうやって止めて置けばそのうち来るじゃろう』とか言っていたって、本宮さん言ってましたよね?」と言ったことに甲斐が頷いたので、俺はジジイに対しての怒りが再燃しそうになった。

 が、ある意味妥当な判断だと納得できたため俺は怒りを抑えられ、話題を変えることにした。

「そういや、お前らのクラスってテストに何やるんだ?」

「俺達か? だいぶ前にテレビでやっていた友情ものだよな?」

「そうっすね。タイトルが『朱雀の苦しみ』ってやつだった気がします。そういうアニキは?」

「俺は……『明日よ輝け!』だな。どういった内容だか知らないが」

「ああ、あれか。ていうか、お前知らなかったのか?」

「テレビ全く見なかったし」

「あれっすよ。ここの創設者が亡くなる十年前に主人公の父親役として出演した奴。結構裁縫されてるっすよ」

「そんなのやってたのか」

 そうやって会話をしていたら時間になりそうだったので、俺達は急いで食器と片しそれぞれの教室へ戻った。

 教室へ戻り授業の準備をした俺は、そのまま自分の机に突っ伏した。

 それを見たいつきは何を思ったのか、

「朱雀さんの話ってなんだったの?」

 耳打ち(席が隣により)して訊いてきた。反射的に怒鳴ろうかと思ったが、クラスの奴らから見られるとか考えられたので、

「爺さんが出演しろと言ってきた」

 同じく耳打ちして答えた。その時のあいつの反応が少しうわの空で、少しだけ顔が赤かった。

 ともかく俺は答えたので、そのまま寝た。今日もバイトだし。次探さないといけないし。

 この時俺はもう次の事に頭を切り替えていた。そうでもしねぇとここでやっていられない。


では覚えていれば来週にでも。

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