2-1 体質
前回一応人気があったおかげか見てくれる人は結構いる模様。嬉しいですね。
翌、二十三日木曜日。今日もいつも通りに起きて朝食を食べているところで茜が起きて、昨日遭った出来事を色々と話しあった。ちなみに、俺が巻き込まれたこと(一年同士の喧嘩)については話していない。いらぬ心配をかける気がするからだ。そして、いつもの時間に俺は、学校に向かった。
俺がいつもの道を自転車で走っていると、一人の老人が赤信号のなかを渡ろうとしていた。それを見た俺は、反射的に自転車を降りてその老人に駆け寄り、肩をつかんでこう言った。
「危ねぇだろう!! いったい何考えてるんだ!死ぬところだったんだぞ!?」
そう言いながらその老人の目を見てみて俺は、
「……チッ、余計なお世話だったか。そんなふりするんじゃねぇよ。紛らわしい」
そう吐き捨てて自転車を再びこごうとしたが、
「……なぜわしが演技をしているとわかったんじゃ?」
その老人が訊いてきた。俺は自転車の調子を確かめながら説明した。
「あんたの目を見て気付いたんだ。あんたの目は、これから死のうとしてる奴の目じゃなかった。これから死のうとしている奴の目は、本当に死んだ魚のような感じがするんだ。目に正気がないって感じが。あんたの目には正気が感じられた。だからだよ」
そしたらその老人は、
「ほう。まるでその人を見たことがある言い方じゃのぅ」
と追及してきた。あそこまで話したからこのまま話していいだろう、と時計を確認しながらそう思って、俺はまた説明した。
「あるよ。今までで、少なくとも二十回はな。そいつらはな、いろいろな理由で死のうとするんだ。家族に死なれた、とか、借金ができた、とかな。その度に、俺はそいつらの事を見ながら、そいつらをなんとか生かそうとしたからな。雰囲気でなんとなく分かるんだよ。そのことで言えば、あんたには騙されたぜ。じゃぁな、爺さん」
そう別れを告げて自転車をこごうとしたら、
「お主、名前は?」
なんて訊いてきたので、俺は自転車をこぎながら、
「八神つとむだ! もうこんな事するんじゃねぇぞ!!」
素直に答えた。だから、
「今年の一年にそんな奴がおったのぅ。今年は面白そうなことになりそうじゃ」
と老人がつぶやいたのを、俺は知らない。
「ふぅ、なんか変な爺さんだったな。あいつのせいで、ちょっとスピードを上げなきゃいけなくなった」
そう言いながら自転車をこいでいると、
「キャァァァ! ひったくりよ!!」
叫ぶ声が近くで聴こえた。また巻き込まれそうな感じがして嫌だな、と思っていたら、何とひったくり犯が俺の方へ向かってきた。やっぱりか、とあきらめにも似た感じで溜息をつきながら、
「おい」
と犯人に呼びかけたが、
「邪魔だ!! どけっ!!」
と言って、ナイフを向けながら俺に向かって来た。
ナイフごときで俺がビビるかっての。そう思いながら俺はその犯人に、
「大人しくしろ」
と言って相手の両手首をつかみ、そして、
ガシッ!! ドシャァァン!!!!
「ぐはぁぁ!!」
背負い投げをしてその犯人を気絶させた。
ふう、やれやれ、こうなったら今日は遅刻確定だな。と半ば諦めて俺は、いつきに電話した。
プルルルルッ! ピッ!!
『なに? つとむ? 朝から僕に電話なんて珍しいね』
「ああ。単刀直入にいうとだな、今日は遅刻するから理由を含めて先生に言ってくれ」
『ははぁ~ん。また巻き込まれたんだね? 分かったよ。理由は僕の方で考えるから、君は何があったのかを、学校に来てくれたら話してくれ』
「助かるぜ。ありがとな、いつき」
『そう思うんだったら、今度泊まりに行ってもいいかな?』
「・・・・・・それは考えておこう」
『じゃぁね、あんまり遅くならないでよね』
電話を切った。…最後の言葉を聴くだけだと、待っているって感じがするのは、なんでだろうな? そう思っていたら、
「あ、ありがとうございました!」
ひったくられた人がお礼を言ってきたが、俺としてはいつもの事なので、
「別に」
素っ気なく返した。そうこうしていると、誰が呼んだか知らないが、パトカーが来た。どうせ俺がかかわった事件なんだから、いつきが恐らくあいつを呼んでいることだろう。俺達が巻き込まれた事件の時に知り合った、あいつを。