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アイドルッ!  作者: 末吉
第二幕・エピローグ
78/205

エピローグ--4

ギリギリですが


 気になったものを片っ端から乗ろうとする美夏を俺はたまに止めながら時間は過ぎていった。

 といっても、たかだか二時間ぐらいだが。

 めぼしいものをやったからか、美夏はすごく楽しそうだった。ま、普段とは違う一面が見れたことには感謝するべき・・・・・・・なんだろうか。止めるのに結構苦労したから何とも言えない。

 で、ここでさっき乗れなかったジェットコースターに乗りたいと言ったので、仕方なくついていったら、テレビ局のカメラがあった。どうやら、ここで撮影があるらしい。

「どうするんだ?」

 あそこまで人だかりがあるんじゃ乗れなさそうだなぁと思った俺は、とりあえず美夏に確認した。そしたら寂しそうに「そうですね・・・・・」と言った。

 余程楽しみにしていたんだなと思った俺は、どうしようか考えこう言った。

「あれに今乗りたいか?」

 その言葉に、美夏は少し考えてから頷いた。やっぱり。楽しみにしていたんだな。

 美夏の態度に納得した俺は、言葉を続けた。

「だったら、俺に任せろ。何とかするから」

 その言葉に驚いたのか、「でも、テレビに映ってしまいますよ? 良いんですか?」と訊かれたので、人だかりの方を見ながら言った。

「まぁ単なる不幸で諦めるってことは誰でもできる。だけどな。こういう楽しみぐらいは諦めたくないと俺は思ってる。楽しむってことは、それなりに達成感もあるし、安らぎもあるからな」

 言っててなんだが、結構恥ずいセリフを臆面もなくよく言えるな、俺。なんて思って美夏の方を見たら、俺の事をじっと見ていた。その眼には、嬉しさや驚きなどの感情が入り混じっていた。そんな顔を見て、俺は思った。

 ったく。言った手前やらなきゃいけないが、結構面倒だな。ま、服部に倣った気配の消し方と、自分を信じれば問題ないだろうな。

 ふぅ、と息を吐いて腹を決めた俺は、

「美夏。悪いが、もう一度お姫様抱っこするぞ」

 と言って、先程視線から逃げた時と同じようにお姫様抱っこをした。

 さすがに二度目なのか少しは落ち着いていたようだが、突然言われたせいなのか「キャッ!」と小さく声を上げた。これだけ聴くと、やっぱり普通の女っぽいなと思ったが、俺はその考えを忘れすぐさま駆け出した。六割くらいのスピードで。

「あ、あのっ!!」

「集中したいから少し黙っていてくれ。それに、舌噛むぞ」

 抱きかかえたまま走っていたら美夏が何か言いたそうにしていたので黙らせ、俺は距離とタイミングを計っていた。


 ジェットコースターの受付の階段まで、目測であと百メートル。人だかりの出来具合と地理の観点から見て、集まっている人達は階段から六十メートルくらい離れて縦幅が五メートルくらいになっているのだろう。テレビカメラは視えないが、階段の下か上で待機しているはず。


 そう考えていたら目測残り十メートルを切ったので、俺は思いっきり地面を蹴って、跳んだ。美夏を抱えたまま。

 久し振りに人混みを飛ぶなぁと思って下を見たら、俺たちの事を気にせず野次馬の連中は取材の方を見ていた。そして、カメラはどうやら上にあるらしい。ケーブルが伸びていたのが見えたからだ。

 美夏はというと、俺の腕から下を見て、「す、凄い……まるで空を飛んでいるようです」と驚きの声を上げていた。

 ちなみに、どうして気付かれないのかというと、単純に気配を消しているからという訳ではないだろう。

 野次馬の連中は、テレビに出演しているタレントを一目見たいからあそこに集まっているだけだ。だから、意外と上の方を見ない。というより、飛び越えられることを念頭に置いていない。その結果、今の状況になっていると考えられる。

 無論、テレビ局の奴らは俺たちの事を見ていない。空き時間ならともかく、今は仕事をしている。そんな状態で上を見るほど、そいつらは暇じゃないだろう。

数秒間の浮遊感を体感し、地面に着地したと同時に右足のつま先に力を入れて地面を蹴り、駆け出した。やっべぇ。こんな事するの久し振り過ぎて楽しくなってきた。

 でも今はこいつの事を乗り場まで送らないといけないと思い直し、俺はテレビ局の人間を躱しながら、その勢いで階段を駆け上がった。躱されたやつらは「ん?」「あれ?」とか言っていたが気にしない。受付の人でさえ「今なにか横切ったような・・・・・・・?」と言ってたが気にしない。俺にとっちゃ、非常事態に近いからな。

 ま、パスポート見せれば文句を言われないだろうと思った俺は階段を上り終え、乗り場に着いた。そこには、一般客の他にテレビカメラと会いたくない人がいた。

 俺は美夏を降ろし、「そこで少し待ってろ。どうせまだ動かないだろうから」と言って美夏のパスポートを持って階段を降り、受付の人に見せた。

いきなり俺が上から現れたように思ったからか受付の係員は驚いていたが、普通に応対してくれた。ちなみに、テレビ局の奴らは気配に気付いていない。存在しているという意味で気配を分かっているのは、受付の人だけである。

 受付の人から了承を取った俺は急いで再び階段をのぼり、階段の近くで待っていた美夏に「ほら。さっさと乗るぞ」と言って、抜き取ったパスポートをばれずに戻しながら乗るように催促した。それに対して、しばらくこいつは放心していたようだったが、

「え。・・・・・・あ、はい!」

 我に返ったように返事をして、いそいそと空いている場所へ移動した。

 俺はというと、翠に悟られないように気配を消して美夏の後を追った。

 そう。遭いたくない人というのは、風井翠の事だ。

 くそっ。この上なく面倒なことになりやがった。俺らを見ていた二人組はどこかにいるだろうから、こっちから会いに行かなければ問題は無いだろう。しかし、翠にはこっちから会いに行っているようなもの。どうにかして会わずにすむ方法は無いだろうか・・・・・?

 なんて考えていたら、美夏が「早くこちらに来てくれませんか?」と言って手招きしてきたので、この事を保留にして今はジェットコースターに乗るか、と思い席に座った。


 この遊園地の目玉の一つとして挙げられるジェットコースター。どっかの遊園地とは違い派手さは無いが、全長が長い。確か、この遊園地を囲むようにレールが設置してある(遊園地の敷地はそれほど広いという訳ではないが、どっかの野球場が二つすっぽり入るくらい)。

 それに囲んでいるからか、高さがある。ざっと地上から二十メートルくらいだ。故に別名『空中遊泳コースター』と呼ばれている。

 さらに、ジェットコースターの醍醐味である山あり谷ありの高低差がひどい。ほぼ垂直に六メートル落下ってなんだよ。ま、回転するのが無いだけましか(時速は一般と同じ)。


 俺の記憶が間違っていなければ、確かこうだったはずだ。


 動き出したのを眠いと思いながら感じていたら、美夏が話しかけてきた。

「八神君。今日は本当にありがとうございます。私のために」

 俺は眠気覚ましにはちょうどいいかと思い会話をすることにした。

「別に。約束はちゃんと守るようにしているからな、俺は。それに、結構楽しかったぜ。あんたと一緒にこうやって遊ぶの」

「え? もしかしてそれって――――――」

「結構新鮮だったからな。俺、中学の頃は同じやつとしか遊べなかったから。それに、学校の先輩と遊ぶなんて一回も―――――ないわけではないが、あんたみたいな人と遊ぶなんてなかった。その点は感謝してるぜ。・・・・・って、どうして落胆しているんだ?」

「いえ。やっぱり八神君は八神君だなーと思っていました。・・・・・はぁ」

どうして溜息をつかれたんだろうか? 分からん。

 ま、どうでもいいだろうと思った俺は、ジェットコースターを楽しむことにした。



「凄かったな。乗ってる奴らの悲鳴」

「どうして平然としていられるのですか・・・・・・?」

 ジェットコースターから降りて階段を下りた俺達は、そんな話をしながらその場を離れた。

「う~ん…死ぬ危険性があっただろうが、それなりに安全は確保されているだろ? だから別に問題はなかった。それに、あれくらいなら怖いと思わん」

「・・・・・・・・・・・」

 俺の言葉に何か思い当たる節があったのか、美夏は黙ってしまった。俺は話してはいないはずだが、ひょっとするといつきにでも訊いたのだろうかと考え、俺は何も言わなくなった美夏の肩に手を置きこう言った。

「シメに観覧車乗ろうぜ」

 そしたら、肩に置かれた手を気にせずに俺の方を向き、

「そうですね♪」

 と嬉しそうに言って笑った。その笑顔が純粋なものだと直感した俺は、赤くなりそうな顔を隠すために目を逸らし、空を見上げた。

 それを見た美夏はどう思ったのかクスクスと笑った。本当に楽しそうに。

 で。移動しようとしたんだが・・・・・・・・・・・・・。

「あ~! やっぱりつとむだ! 色々と言いたいことがあるけど、どうして白鷺さんと一緒にいるの!? ・・・・・あ! もしかして――――」

「それ以上言うな……で? どうしてこっちに来た。撮影は終わってないはずだろ」

「今は休憩なんだよ! ・・・・・・で、どうしてここにいるのかな~?」

「察しろ」

 翠に捕まってしまった。しかも、面倒なことに絡まれた。くそっ。普通に逃げられたと思ったんだがな。

 翠の服装は、テレビ局で用意した衣装なのかどこかの店の商品一式だった。胸が小さいことは、気にする必要ないだろう。

 そしたら、今まで黙っていた美夏が翠に言った。

「あら、風井さん。お久し振りですね。・・・・・・・・ところで、八神君とはお知り合いなのですか? 名前で呼んでいるみたいですけど」

 俺だけか? その口調にトゲが見え隠れするのは?

「そうだよ。前に話した気がするんだけど。年下なのに妙に大人っぽい、敬語を全く使わない人って」

 対する翠は、なんだか余裕があった。これも年上だからだろうか。

「そういえばそんなことがありましたね。アレって八神君の事でしたか。まぁ確かに、彼は敬語らしい敬語を使って私と会話しませんけど、それが不思議と嫌ではないですよ?」

 ん? やけにムキになってるようだが・・・・・・・一体どうしたんだ?

と傍観を決めていたが、

「そんなことは知ってるよ。・・・・・・・・・ところでつとむ。どうして白鷺さんといるのかな? やっぱり」

 翠が俺に矛先を向けてきた。

「やっぱりってなんだ? やましい事なんて一つもないぞ!」

「知ってるよ。だから、やっぱりなんだよ」

「答えになってねぇ!」

 そんなやりとりをしていたら、美夏が真剣な顔をして「そうですね。なんとなく分かります」と何度も頷きながら言った。

 畜生! 知ってはいたが、俺には味方なんてだれ一人いないんだな! なんて思いながら空を見上げていると、「風美さ~ん! 出番ですよ~!!」という声が聴こえ、それを聴いた翠が「またね。あ。あとでつとむにはどういう訳か説明してもおうかな」と言って戻っていった。

 残された俺達は、

「八神君。風井さんとどういう経緯で知り合ったのか、観覧車までの間にでも説明してもらいますよ?」

「あ、ああ」

 美夏の背後からゴゴゴゴゴゴ、という音が聴こえるような笑顔で言われ、俺は観覧車に乗るまでにマジでビビりながら説明することにした。


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