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アイドルッ!  作者: 末吉
第二幕・エピローグ
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エピローグ-2

本気で忘れかけました。



 次の日(五月二十二日・日曜日)。午前七時。約束の時間までまだ二時間ある。だが、俺は普通に出発した。ま、普通だろうな。

 ちなみに、橘巳町はうちの地元の駅から電車で五十分くらい。ムサシ町より近いが、若干行き辛い。

 なぜなら、橘巳町は遊園地や水族館などがある俺の地元周辺の中で唯一の町であり、デートスポットとして雑誌にも載っているからだ。必然的に、テレビ関係やカップルが多く集まる場所でもある。

 俺達の地元は、そんなものなど一切来ない。理由は簡単で、いつきの実家がここにあり、前に来た記者だか何だかがヤクザや不良にボッコボコにされた挙句消息不明になったことから、そういう奴らが一切来なくなった(俺が生まれる前の話で、その当時ヤクザ達の影響力だかでなかったことになったらしい)。

 ま、そこはどうでもいいか。

 今はそんな事より行かなきゃいけねぇなんて思いながら、お袋に「行ってくる。」と言って家を出た。

 行くまでに巻き込まれなきゃいいぜ、全く。




「本当に待ち合わせ時間に遅れるんですね。念のために九時二十分に来て正解でした」

「……スマン。まさか地元の駅前で喧嘩に巻き込まれるとは思っていなかったんだ。それで乗ろうとした電車に乗り遅れて、次の電車に乗って来た訳だ」

「多少汗をかいてるみたいですから、言い訳じゃなさそうですね」

 そう言って俺の事を見てくる美夏。俺はなんだか落ち着かなくなった。そしてそいつの服装に目がいった。

 美夏の服装は、お嬢様という(俺の勝手な)イメージを崩さずに白を基調したワンピースだった。スタイルは光に劣るが、それでも女子と認識するには問題なかった。

 ・・・・・・・・・いつきは認識しづらかったけどな。行動でもっと不思議がれば分かっていたかも知れん。

 そんなことを考えていたら、美夏と視線が合い、見つめ合う形になったので俺は即行で目を逸らした。なんか危なかったぜ。

 それで再び美夏の顔を見ると、何故か不満そうだった。

「どうしたんだ?」

「男の人から先に目を逸らすのはダメですよ」

 そう言われてもな。等と思いながら腕時計を見た俺は、

「行かないとまずいんじゃないか?」

 腕時計を見せ美夏にそう言った。

 それを見たそいつは「確かにそうですね。それじゃ行きましょうか」と言ってタクシーを止めようとしたので、俺はそれを止めさせ普通にバスに乗ろうと提案し、丁度遊園地行きのバスが出発するところだったので、美夏の手を引いてそのバスに乗った。

 バスに乗った俺達は、二人の席が空いていたのでそこに座り、俺はすぐに窓を見た。

 別に窓を見たのに深い理由は無い。しいて挙げるなら、誰かの視線を感じたから確認をするために見ていた。

 二人の視線を感じた気がするんだけどなぁと思いながら窓から視線を外したら、美夏がこうつぶやいた。

「先ほどの八神君の行動は……なんだか駆け落ちみたいで嬉しかったです。いっそこのまま二人でどこかへ行きませんか?」

「は? 何言ってるんだ? んなことしたらお前の家が追ってくるじゃねぇか。それ以外にも追われそうで怖い」

「・・・・・・・・・・・・・そうですか。結構本気でしたのに」

 ? 最後の方何言ってるかさっぱり分からないが、本気で残念そうにしていた。俺と一緒に駆け落ちだなんて嫌だと思うんだがな、普通。

 まぁ、いいか。そう思いながら、おれは先ほど言わなかったことを言うことにした。

「あ~、美夏。その、なんだ。似合ってるぞ、その服。いかにもお前っぽい」

「え?」

 言われた意味がわからなかったのか、それとも半分聴いていなかったのか、なんだか間の抜けた返事をしたので、面倒だがもう一度言った。

「だから、その服。すごい似合ってる。みてくれが綺麗なのは周知のことだが、より綺麗に見える」

「え、あ、ありがとうございます・・・・・・・・・・」

 ただ褒めただけなのに(これくらいなら慣れているはずだろうに)、美夏は俺を見ようとはせずに通路側のほうに視線を移してしまった。

 これだったら本でも持ってくればよかったなぁと思いながらまた窓を見ていたら、

「そういう八神君こそ、お似合いですよ。ワルカッコイイ、でしたっけ? そんな感じがします」

 おそらく通路側を未だに見ている美夏が言った。

 ワルカッコイイってなんだよ。そうつっこみたかったが、見てくれが不良だからそう言われるのも納得するかと思い、やめた。

 その代わり、こいつって雑誌とかテレビとか出てるから俺みたいなやつと一緒にいると色々とまずいんじゃないかと今さら思ったので、そのことを訊いてみることにした。

「なぁ。変装とかしなくていいのか?」

「変装ですか? 大丈夫ですよ」

 自信満々に答えるのでどうしてなのか尋ねたら、

「知らないのですか? 私たち芸能人のプライベート情報をネタにするのはだいぶ前から禁止にされているのですよ? 更に、あの学園に所属している生徒の情報は、報道陣に一切伝わらないので、ドラマなどに出演したりしない限りスポットが当たることはあり得ないんです」

 と答えてくれた。なるほどなぁ。知らん内にそんなことになっていたのか。テレビ見ないから知らんかった。と思い周囲を見渡したら、人が多いせいかこちらのことなどを気にしていなかった。やっぱ日曜だから人が多いか。

 あと四回の停車で目的地に着くなぁと思いながら、おれはバスをぬかしていった黒塗りの車に誰が乗っていたのか想像した。


まだ続きます。

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