エピローグ~合宿終了・振替休日・修羅場?~
肝試しが終わった次の日の夜(五月二十一日・午後七時)。
「ただい・・・・・」
「お兄ちゃんお帰り! 合宿どうだった!?」
「…いや。暇だった」
「お土産は!?」
「ない」
ひど~い!! という茜の声を無視して、俺は家の中へ入った。
リビングに入った俺は、帰ってきている両親に「ただいま」と言った。
その声に反応したのか振り返った両親は、「お帰り。話はあとで聴くから、部屋に戻って荷物を片付けからにしなさい」と言ってきた。言われなくても分かってるよ。
それから二階へ上がって自室へ戻ったんだが、その時に茜がついてきた。
「どうしたんだよ?」
俺が不思議そうに訊くと茜は子犬のように鼻をクンクンさせてから、
「お兄ちゃん、女の人と一緒に帰ってきたの? なんか知らない香水の匂いがするんだけど」
と言ってきた。
なんと。茜は二週間も会わないうちに香水の匂いを嗅ぎ分けることが出来るようになったらしい。
女ってのは怖いね、全く。なんて思い俺はどう答えようか考え、適当に誤魔化すことにした。
「誰かがつけてたんじゃないか? 意外と交流したから」
俺の言葉に渋々納得したみたいだが、「お兄ちゃん何か隠してない?」と言われたので、いつもの顔で「そんなことはない」と言って俺は部屋に戻った。
部屋に戻って合宿に使ったものを出そうと思ったが、テントとかってどう考えても無理じゃね? なんて考えたので、自分の部屋にあったもの(服以外)を出して片付けた。
バイトじゃなくて服の買い物でも行くか。なんて明後日の予定の修正をしてたら、白鷺に明日誘われてるんだっけという事を思い出し、着る服あったっけ? なんて思いながらタンスを漁った。
見つけたのは、俺が初めて自分で買った髑髏っぽい絵が描いてある白色の半袖と、黒のジーパン。それ以外だと、制服かジャージ。ていうか、私服が今着ているやつとこれしかなかった。
やばい。これはバイトどころじゃなくなった。それと、これを知られたら面倒だ。茜とか、いつきとかに。
どんな服買おうかなぁと考えながら、見つけた服を仕舞って残りの荷物を部屋に放置し、バックから出したものをそれぞれの場所へ置いた。
それが終わったのが十分後。
それから、俺は両親に言われた通りリビングに行った。茜も当然いた。そこで、両親が合宿での思い出を話せと言われた。
話せと言われても、監視役に徹していたので直接的に関わったものなんて全くない。
そこら辺を適当に濁し、最終日の肝試しについてだけ語った。これだけしかまともに話せないからだ。
その話をしたら、「お前の忍者姿、観たかったな」「いつきちゃんと別行動だった理由は何かしら?」「お兄ちゃん。脅かす方だったんだ」という感想をいただいた。…お袋の質問には、適当に答えた。
そこから風呂に入り、上がった時に夕飯を食べていないといったら、自分で作りなさいと一蹴され、仕方なく冷凍食品を勝手に温めて食べた。
食べ終わって食器を片付け、歯を磨いて俺は自室へ戻った。
そしたら、なぜか茜がいた。
「どうやって入った?」
「開いてたから」
そう言って俺に近寄ってくる茜。ふ~ん、なるほどね。ま、別にいいか。
俺は何となく近寄ってきた茜の頭に手を乗せ、なんとなく撫でた。特に理由は無いが、あえて挙げるなら、茜がここにいる理由を考えていたから、だと思われる。
で、撫でられている本人はというと、
「ちょ、ちょっと! くすぐったいよ! や、やめて! お兄ちゃん止めて!」
そんな事を言いながら顔が赤かった。
そんな茜の声が聴こえ、俺はすぐに手を頭から離しながら「お。スマン」と言った。
そう言われたら普通は俺の事を注意するはずなんだろうが、茜は「こ、今度やる時は私の許可取ってよ!」と注意なんだがさっぱり分からない言い方をした。
「で、何の用だ? 明日なら用事があるから無理。明後日も無理」
「私も無理だよ。だって友達と遊ぶ約束し、明後日は学校があるから」
それもそうか。なんて思いながら、俺は自分のベッドに座り、茜に横に座るよう指示した。
茜は一瞬躊躇ったような素振りを見せたが、すぐに俺の横に来てベッドに座った。
そして流れる沈黙。
仕方がないので、俺は再び同じことを訊いた。
「で? 何の用だ?」
そしたら、茜が口を開いた。
「…お兄ちゃん。私ね、知っちゃったんだ。お兄ちゃんの体質」
その時、俺は自分の予想が外れたことに安堵し、とうとう知ってしまったかと複雑な気持ちになった。
どんな言葉をかければいいのか分からない俺はとりあえず無難に、
「いつ知ったんだ?」
知った時期を訊いた。そしたら、茜は更に寄ってきてから答えた。
「合宿に行ったその日の夜かな。水飲みたいなぁと思って下に降りたら、お父さんとお母さんが『あいつ、また何かに巻き来れないか?』『巻き込まれるでしょうね。それがあの子の体質だから』っていう話をしていたのが聴こえたんだ」
経緯まで訊いて、俺はまぁいつまでも隠せるものじゃないかと一人で納得し、割と心配されているんだなぁと思った。
親父たちもばれて大慌てしただろうなぁと思っていた時、茜は続けた。
「その時思いっきりリビングに入って、どういう事か説明してもらったんだ。説明を全部聞いて、お兄ちゃん、どうしてあんなことを今まで隠していたの? どうして何も言わなかったの? って訊きたいと思ったけど、お父さんが言ってくれたんだよ。
『あいつは、自分が元気で過ごしているのに心配されるのが嫌なんだ。だから何も言わない。俺達だって自分で気づいたから知ってるだけで、気付かなかったら一生知らないままだった』
って。その言葉を聴いて、私思ったんだ。お兄ちゃんは誰よりも過酷で、誰よりも厳しい人生を送っているんだって」
妹の独白を聴いた俺は、ふぅと息を吐き、それからこう言った。
「で?」
そしたら、茜は驚いたように俺を見て、
「え?」
と言った。
ひょっとして本当にそれだけだったのか? と、茜の反応を見て思ったが、結論が出ていないので気になり、もう一回訊いた。
「で? だからなんだ?」
俺は普通に訊いただけなんだが、茜のやつは「え!? えっと、その、あの……」と慌てていた。
もう眠いし明日の朝にでも話を聴こうかなぁと思い始めた俺は、「ほら、もう寝ろ」と言って茜の背中を押そうとしたら、いきなり立ち上がって俺の前に来て、こんな事を言った。
「それは! そ、そんな、お、お兄ちゃんが! す、すすすすすすす好き!!」
そう言った瞬間に一気に顔を赤くした茜は、即行で「お休み!!」と言って俺の部屋を出て自分の部屋に戻った。ドアを乱暴に閉めたらしく、ドバン!! という音が聴こえた。
家族としてだよな。なんて茜が去って行った方向を見て俺は思い、そのままベッドに横たわって寝た。
あ。あいつとは義理なんだっけ。ま、だからと言っても家族に違いはあるまい。
どこまでも鈍いのかもしれません。




