4-17 肝試し-2 終了
次回、第二幕エピローグ
それからも、来るまで隠れ、気配がしたら服部と一緒に気配を消し、来たグループをことごとく追い返した。追い返すつもりはなかったんだが、勝手にあっちが驚いて逃げるもんだから俺達も悪乗りをし始め、次第に唐突に出たり、小太刀をちらっと見せたり、手裏剣を投げたりしていった。
やっていくうちに、服部が「貴殿の気配の消し方もよくなってきたな。たいした御仁だ」と俺の事を褒めてくれた。まぁ、悪くねぇと思った。
そんなことをやっていくこと二時間ぐらい。
ついに最後の組だけとなったらしい。
「存外楽しいな、肝試しというものは」
「ああ。驚かすのは楽しいな」
「しかも修行にもなる。この世界では生きづらくなったであろう我らも、これなら生きていけれるだろう」
その最終組が来るまで、俺達はそんなことを話していた。
ていうか、いつき達を一切見ていないな。ひょっとして最終組はあいつらか?と思いながら、俺は服部が言った言葉を受けて言った。
「生きづらくなったのは確かだが、悲観はしていない。我らは時に身をゆだねるだけだから」
「……そうだな。我らの生き様は知られないことだからな」
そういう服部は、どこか嬉しそうだった。
「これで最後になるわけだが、どうだった?」
俺がそう訊くと、
「楽しかった。わざわざ来たかいがあった」
と言って、すぐさま消えた。
俺はというと、服部に倣ってすぐに気配を消して移動した。人の気配がしたからだ。
いよいよ最後。そう思うと、俺は緊張感を隠せなかった。
最初のグループが出発して二時間くらい経過した。
にもかかわらず、どのグループも山頂に行った証拠となるものを取ってきていなかったことに、先生達は驚いていた。
間違って見張り役として来ている生徒が最後なのに、どうして誰も持ってこれないのかということにだ。
先生達は知らなかった。最後の脅かし役――八神つとむの演技力のレベルの高さによって、そんじゃそこらの生徒はみんな怯えてしまったことに。
一方、いつき達は。
「なんだか皆さん蒼白な顔色をしてますね」
「何かあったのか?」
「あの、もう怖いんですけど」
「長谷川さん、もうギブアップなの? でも、なんとなく分かるよ」
「まったく、何があったらこんなに怯えるのかしら?」
「し、慎君……」
「だ、大丈夫。ぼ、僕が守るから」
「岡ちゃん、大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
次々と戻ってくる顔面蒼白な生徒達を見て、怯えている人と平然としている人に分かれていた。
一体何があったのか。怯えている生徒達に対して抱いた感想は、全員同じだった。
そして、先生に呼ばれ、いつき達は出発した。
「結構雰囲気があるな」
「そ、そうですわね」
「…こ、こわいです」
「ここに来るたびに思うんですけど、ウキウキしますね」
「会長だけだと思います」
「私そんなに怖いと思わないよ~?」
「ひゃっ!」
「ど、どうしたの!?」
「ふむふむ。ああやって抱き着けるんだ、こういうイベントは」
……出発したのは良いのだが、最初の方で全く進む気が無い様子だった。何ともまとまりのないグループである。
で、ここで頼りになるリーダーの美夏が先に進むよう促したので、皆は先に進むことにした。
そのまましばらく歩いていると、先生が扮したミイラ男で林の中からできてきた。
「ウバァ~」
「「「キャー―!!」」」「こ、怖いわけありませんわ!」「ギャー!」「落ち着け、慎」「岡ちゃんたちも落ち着いて、ね?」「あ、三奈木先生」「全然怖くないなぁ」
とそれぞれ反応を示してから通り過ぎていった。しかし、九人中四人がちっとも動揺しないというのは、如何なものだろうか。
さて、それから幾人の脅かし役を平然と通り過ぎたり驚いていたり腰を抜かしそうになりながら、山頂の近くまで来ていた。
「もうすぐ山頂ですね」
「そうですね。でも、さっきの雪女、見覚え在りませんでしたか?」
「そう言われれば。俺も見た事がある気がする」
「そ、そうかしら? あまり顔を見なかったからわかりませんでしたわ」
「怖いです……怖いです……」「ううぅぅ・・・・・・・」「あれは先生達だ、あれは先生達だ……」「結構迫力ありますね、これ・・・・・」
「みんな~、大丈夫~?」
と、皆木が怖がっている人達に話しかけたら、シュッ、と何かが顔を横切った音がしたので動きを止めざるを得なかった。話しかけられた光たちは、皆木を横切った何かに「「「「キャー――!!」」」」と、へたり込んで叫んだ。
当然。それに美夏たちは反応し、どうしたのかと思い話を聴き、横切った何かを探したが、全く見つからず見間違いじゃないかという結論を出した。が、今度は甲斐の顔の横を何かが横切ったのを全員目撃してしまったので、先程の結論はすぐさま崩れた。
先程と同じように横切った先を探したが、肝心の物が見つからなかったので、ここまで平然としていた、いつき、美夏、甲斐、皆木まで怯えてしまった。
「え? ま、まさか・・・・・」
「本物、なのか・・・・?」
「そ、それは・・・」
「大丈夫、だよね・・・・?」
そう言いながら周囲を警戒する四人。ルカは他の四人同様腰を抜かしている。
みんなで固まりながら周囲を見渡していると茂みからガサッと音がしたので、全員がその音がした方を見た。
しかし、
「何用だ?」「ここから先は行かせぬ」
彼らが見ている方向と反対側から二人の声がした。それに反射的に振り返ったが、そこに二人は居らず、代わりに、
「おとなしく立ち去るがよい」「悪いことは言わぬ」
全員で固まっている周囲の林から、反響するように声が聴こえた。
それが合図となったのか、光たちは逃げ、いつき達は「こ、これどうしよう!?」「落ち着け、と言いたいが、俺もなんだか身の危険を感じる。逃げた方が賢明かもしれない」「か、会長! どうするんですか!?」「皆さん! これ以上行かないでもう引き返します! いいですね!?」と言って後を追うように引き返していった。
その場に誰もいないことを確認した俺は、木から飛び降り、先程までいつき達がいた場所に着地した。服部は俺の隣に音もなく飛び降りてきた。
引き返していった方向を見ながら、服部はつぶやいた。
「貴殿の能力は素晴らしいものだな。生まれている時代が時代なら、立派な忍になっていただろうに。・・・・それはともかく。肝試しというものに参加させてもらい、ありがたく思う。拙者も久し振りに腕を試せたしな」
その言葉に、俺は同じくいつき達が戻っていった方向を見ながら、
「拙者も、貴殿の様な凄腕な忍者と一緒にこのようなものをおこなったこと、良かったと思ってる。学ぶものが多かったし、色々と気になることが出てきたからな」
感謝の気持ちを言った。すると服部は目を閉じてから、
「左様か」
と言ってきたので、俺は服部の横顔を見ながら、
「左様だ」
と返し、それから二人で拳を合わせ、笑い、別れた。「また会おうぞ!」という言葉と共に。
肝試し終了。
結果。
どのグループも山頂に行けませんでした(過去類を見ない記録)。
最後が一番怖かったという報告あり。証言によると、忍者の恰好をした二人組。
最後のインパクトが強過ぎて、他全部忘れたという証言多数。
この報告をログハウスで聴いた爺さんは、
「忍者の恰好をしたやつが二人? 儂は忍者の服を一着しか持ってきておらぬぞ?」
と呟いたので、俺は反論した。
「嘘つくなよ。俺より古い忍者の恰好して、肝試しそのものを知らなかったが俺より強そ…………ん?」
否。反論しようとしたところ、自分で言っていることに違和感を持った。
なぜなら、学校の先生で俺に匹敵するほどの強さを持った奴は、俺が所属している学科じゃ誰もいないと分かっていたからだ。
俺が黙ったことにより、爺さんがまとめた。
「ひょっとすると、お主が忍者の恰好をしたから、霊が身内か何かと勘違いして実体化したのではないか? となると・・・・・・・・お主が一緒に脅かしていた奴は……」
その言葉で、俺と爺さん以外のログハウスにいた人全員が一斉に悲鳴を上げた。
まさか、こんな季節外れ・時期外れの肝試しで、本物の幽霊と遭遇かつ一緒に脅かしていたなんて…………。
そう思うと俺は背筋が凍ったが、色々と参考になったから怯える必要はないかと思い天井を見上げた。
きっとこの光景を天井裏からでも服部がのぞいていそうだと思いながら。




