4-16 肝試し-1
一件でも増えると嬉しいですね
「キャー!」「うおっ!」「すごっ!」
もう五月だからか、七時半でもまだ少しは明るかった。だからそんなに怖いわけではないのだが、生徒は結構驚いていた。
理由は、演技で驚きを表現しているのもあるが、思いの外似た様な姿になっていて驚いている、という事が大きいのだろう。
さて、この肝試し。ルールはいたって簡単。ただ山頂まで行って戻ってくるだけである。ただ、その道のりに出てくる先生達をいかに驚くことが出来るかという事が、生徒たちは試されているのである。
なぜなら、たまにあからさまな所に居たりするからだ(一部の先生)。
リアクションというものは、演技に何処か通ずるものがあるという考えから、大げさに驚いてもそうは見えないようにできるか否かという事を試しているのである。
ま、出来ないからと言って補習とかは無いのだが。
そんな感じで山頂付近の茂みに隠れているつとむは、少し退屈そうだった。
「暇だ。始まったばかりだからまだだと分かっているが、暇過ぎる。何か退屈しのぎになるようなものはねぇか?」
そう言いつつもしっかりと周囲の気配を探り、自らの気配を絶っている姿は、何とも真面目である。
「話し相手もいねぇし、誰も近くに居やしねぇ。どうやって遊ぶか」
もはや肝試しが暇過ぎてやる気が下がっているつとむだが、肩をちょんちょんとやられた感じがしたため、バッと振り返った。
「誰だ!?」
そう言って振り返ったら、自分と同じ忍び装束を着た人が構えを取っていた。
何だ忍者か。そう思いながら俺は視線をもとに方向へ戻した。そしたら、
「貴殿は、わが同胞か? それとも、子孫か?」
後ろからさっきの忍者が俺に向かって尋ねてきた。
どう答えたものかと思ったが、これも演技力を試させるための奴かなぁと考え、こう答えた。
「いかにも、拙者は貴殿の同胞の子孫である。故あってこの場で開かれている肝試しというものに参加している」
口調まで時代劇に似せ(見てはいないがたまに雑誌に載っているので知ってる)、俺はそいつに語りかけたら、そいつは不思議そうに訊いてきた。
「肝試し・・・・? それはどのようなものだ?」
こいつ、素で知らねぇのかよと思いながら、俺はそのままの口調で答えた。
「肝試しというものは、ある道を通ってくる人の背後をとり後ろから―――――」
「殺すのか」
「違う! 脅かすだけでいい! ただ、驚かした後は速やかに隠れ、居ること自体を怪しまれてはならないという、非常に我ら向きなものだ」
「そうなのか。それは確かに我ら向きである。しかも、修行として役に立つものだな。貴殿等の時代はそのようなものがあるのか。となると、我らが血も絶えていないという訳だ」
一通りの説明を聴いて(軽く虚偽を混ぜた)、そいつはひとしきり頷いた後、そんな事を言っていた。そして、
「ならばその肝試し、拙者も参加させてもらおう。久し振りに出てきたのだ、腕が鈍っていないか心配でな」
と言って、俺の隣に来た。
ちらっと横を見たが、俺の服装よりずっと古びていて、腰に差してある小太刀も使い込まれている感じがした。
二人で息を潜めながら最初のグループを待っていると、不意に横にいる奴が訊いてきた。
「そういえば、我が子孫だと言っていたが、貴殿の名はなんと申す?」
その質問に、俺は言葉を詰まらせた。そもそもあんたが何者か知らない上に、そこまで詳しく忍者の事を知っている訳でもない。
なので俺は、
「甲鎌流三十六代当主、木在理輝」
適当にでっちあげることにした。これくらいアドリブで返せないと、あとでジジイに何か言われそうだと思ったからだ。
俺の答えを聴いたそいつは首を傾げて「甲鎌流だと? 拙者が生きていた時にそのような流派が存在していたのか?」と呟いて考え込んだと思ったら、「ふむ。当時名が出なかったくらい新興か、弱小だったのだろう」と一人で納得していた。冗談なのに本気で信じていそうだったのが分かったが、今更言う気になれなかった。
それからしばらく黙っていたら、人の気配がした。横にいる奴は「む。人の気配がする。数は十か。では木在殿。拙者が先に行かせてもらおう」とか言って先に行きやがった。
仕方ない、俺も行くかと思って腰を上げ、気配を消して移動した。
「いや~、雪女の人結構きれいだったな」
「そうだな~」
「そうね~」
シュッ!
「ん?」
「どうしたんだ?」「何かあった?」
「いや、何かが横ぎった気がしたんだが・・・・・・」
「何? マジで?」「ホ、ホント?」
チョンチョン
「ん? なん―――」
「ここに何用でござるか?」
「「「うわぁ―――――!!」」」
ダダダダ!! ガシッ!!
「どこへ行くでござる?」
「「「「「「「ギャー――――!!」」」」」」」
ダダダダダダダダダダ!!!!
「ふむ。それにしても、存外肝試しというものは面白いものだな。しかも、余程驚いておったな。これは拙者と貴殿の能力が同じだという事か?」
「そうでござろうな」
最初のグループが逃げ出してしまったのを茂みに隠れながら見ていたら、俺の横に戻って来た奴がそう言ってきたので、俺は適当に返した。今頃、二番目のグループと接触しても脇目も振らずにダッシュで来た道を戻っているんだろうと考えられた。
となると二番目のグループは来るのかねぇと思っていたら、横にいる奴が今更のように言ってきた。
「先ほど貴殿が名乗ったのに、拙者が名乗り返さなかったことを思い出した。拙者の名は……服部とでも名乗っておこう」
「ほぅ。それはまた有名な名をお持ちのようだ」
「やはりわかるか」
「それはそうだろう。この世界では名が通っている」
「なんと。忍者である拙者の名が通っていると。……では、貴殿の名は?」
「拙者の名はそれほど通ってはおらぬ。いかんせん、新興流派なものでな」
「そうか。……む。また来たぞ」
そう言って横にいた奴―――服部はすぐに消えた。
あいつの気配の消し方などは勉強になるぜと思いながら、俺も似たような気配の消し方をして移動した。ただ、どうやら完璧には出来ていないらしく、服部から「雑な気配の消し方だ。貴殿も忍者ならもう少しうまく消して見せろ」と注意された。その声が少し離れて聴こえたので、おそらく俺の事を観察しているのだろうと思った。
あいつの技盗みたいなぁと思いながら、俺はきたる二番目のグループを脅かす準備をして待っていた。




