4-14 十四日目
今回は短いです。
十四日目(五月二十日)。最終日。ま、明日帰るから実質合宿は十五日くらいあるだってことに、今更気付いた。
俺は、いつもの時間に起き、翠を起こすこともせずに朝食をつくった。だって、あいつテーブルの方だし。俺キッチンの方だし。
最終日だし荷物の片付けしないとなぁと思いながら、俺は朝食をつくった。
テーブルに二人分の朝食を並べ、起きない翠をそのままにして、俺は一人で食べた。食べながら、今日のスケジュールを立てた。
立てた、と言っても簡単なこと。昼までに片付けをして、夜まで寝て、肝試しで人を脅かす。次の日の朝一に車に乗って家に帰るので(翠も同様)、はやめに帰る準備をしないといけない。
食べ終わった俺は、食器を片付けてから、自分で持ってきたバックに同じく持ってきた荷物を詰め込んでいった。
その音がうるさかったのか、翠が「うるさいよ~」と言いながら起きた。そして匂いを嗅いだらしく、「つとむ、ありがとうね!!」と言いながら起きて、椅子に座って朝食を食べ始めた。
俺はそんな翠に見向きもせずに、使ったもの、使わなかったものを分けて、バックに詰めていった。そういや、あの鍵がかかっている部屋って、結局どうなってるんだろうと思いながら。
翠が食べ終わったらしく、食器を流し台に持って行く音を聴きながら、俺は荷物をまとめ終えた。
ふぅ。これでもう忘れ物が無いか。そう思いながら、俺は部屋の中を確認するという意味で歩き回った。
その時に、ケイタイが鳴った。発信者を見ると、いつきだった。時計を見ると、午前八時半。
朝から電話を掛けられる状況のはずじゃないだろうに、なんて思いながら、俺は電話に出た。
「もしもし。何か用か、いつき?」
『あ。つとむ? えっとさ、これ終わったら、明後日と明々後日は休みなんだってことは知ってるよね?』
「ん? ああ」
『なら話がはやいね。明後日さ、一緒に遊園地いかない? 場所は橘巳町のだから知ってるよね。そこの駅前に九時に集合ってことで』
「は? ちょっと待て。提案から決定事項になってるぞ?」
『じゃね』
そう言って、電話を切られた。
あ、ありえねぇ。俺の事情ガン無視で決定させやがった。これは行くしかないのか……。
なんて落胆していると、翠が声をかけてきた。
「いつきちゃん、なんて言ってたの?」
ただしその声に冷たさが感じられたのは、俺の気のせいだろうか。
下手に正直に答えたらまた何を言われるか分からないと思った俺は、
「明日には帰るんだから、荷物の整理位したらどうだ?」
話題を変えることにした。
翠は不信感を見せたが、「ま、そうだね」と言って自分の荷物を片付けていった。
今更だが、翠は白いワンピース以外の服を持っていなかったので、それが乾く間(乾いてからも)俺の予備の服を着ていた。俺の身長のせいで上が結構ぶかぶかだったが、それでも着れないという訳ではなかったため、そのまま何着か貸した。「洗って返す」と言われたが、女子に貸した服を着るのも嫌なんで、「捨てて構わない」とカッコつけてしまった。ハァ、無駄な出費だな。これは。
翠が片付けをしている間、俺は忍者の恰好をしてどうやって驚かそうか考えていた。自分がいる場所に人の気配がするまで隠れて、人が目視できたら気配を消したり出したりって、ことでもするか。でも、それで驚くかどうかわからないんだよなぁ。いっその事、態と足音が聞こえるように歩いて背後から近づくってのはどうだろう。気付かないうちに後ろをとられるのはさぞかし驚くだろう。
そう考えていたら、視界に何か見てはいけない光景が映った気がした。
「なぁ。どうしてあげた服に顔をうずめているんだ?」
俺が貸した服(あげたと同じ)に、翠が顔をうずめていたのだ。
翠は俺の言葉を聴いていなかったのか(あるいは聞こえないふりをしていたのか)、そのまま顔をうずめていた。
と、ここでメールが来た。送り主は爺さん。
『今日の肝試しの最終確認じゃ。
ルートは、山の入り口から螺旋のように山頂まで登って、そこからまた降りる。その時、ログハウスには行かないようにしてある。
人数は十人一グループ。脅かす順番は、おぬしが最後で、翠がお主の前じゃ。
ログハウスは拠点として使うので、よろしく。ちなみに、四時には行く。人数は十人。
追伸:これが終わったら、二人ともばれずに山を下りてくること。そして、車の前に集合』
俺がメールを熟読していたら、翠がいつの間にか俺の後ろに来ていたらしく、
「へぇ~。朱雀さんも考えてるんだね~」
後ろのほうからそんな声が聴こえた。
俺は振り返らないで訊いてみた。
「爺さんって何考えてるんだ? 季節外れの肝試しなんて」
すると翠は俺にしなだれかかってきてから、こう答えた。
「単にやりたいだけかもしれないけど、驚かす側にはそれっぽく、驚く側には反応を演技してもらいたいんじゃないかな?」
翠の答えに納得しつつ、俺は早口になりながら言った。
「俺だったら、驚かねぇだろうな。寧ろあっちがビビって逃げそうだ」
「ありえるね~」
翠はなおも、俺にのしかかっていた。
なぁ翠。お前はわざとやっているのか? 胸が当たっているぞ?
そう思いながら、俺は翠が飽きるまで耐えることになった。
翠から解放されて、俺は寝た。昼食はとらなかった。とにかく三時半まで寝ることにした。
翠も俺を真似て寝るようだ。俺の近くに来て、寝袋に入っていた。
翠は、何故か俺の隣で寝る。俺は最初から断っているのだが、俺が寝た後に寝袋を隣に持ってきて寝ている。
翠が静かに寝息を立てているのを聴いた俺は、翠から少し離れて眠りについた。




