4-12 仲直り
十二日目。
昨夜のぎすぎすとした空気のまま、俺達は朝食を食べ、昼食を食べ、寝た。その時二人は離れていた。
起きた時に挨拶も交わさず、俺達は夕食を食べ、監視しようとした。その時、外に人の気配がしたので、俺は構えを取りながらドアに近づき、ドアを開けた瞬間に気配のした方向へダッシュで向かい、向こうが驚いている間に攻撃しようとした。が、出来なかった。なぜなら、
「いきなり攻撃とは穏やかではないな。しかし、殺気もなしにこれほど鋭い攻撃が出来るとは。流石に驚いてしまった」
「なんだ、爺さんのSPか。気配の消し方が雑だから、殺人者でも来たのかと思った」
爺さんのSPが両手をあげていたからだ。どうやら交戦の意思はないらしく、紙袋を両手に一つずつ持っていた。
そうなると中身だが、俺はもう見当がついていた。なぜなら、爺さんのSPが持ってきているという事で、一つの事実しか思い浮かばないからだ。
ちなみに、翠は俺の行動に呆気に取られていた。ま、無理もない。突然構えを取って、ドアを開けたと同時に姿が見えなくなったのだろうから。
SPは俺に紙袋を渡してから、「中身の説明は?」と訊いてきたので、「どっちがどっちだ?」と訊いたら、「右が君。左は彼女だ。ルートの説明とかは、明日説明しに来る」と答えて、旅館に戻っていった。
俺は紙袋を持ったままログハウスに戻った。翠はなおも呆然としたまま。
ドアの近くで呆気に取られている翠に、「ほれ」と言って、左側の紙袋を渡した。
翠は紙袋を慌てて受け取り、「あ、ありがとう」と言ってきた。
「どういたしまして」と答えて、俺は紙袋の中身を取り出した。そこから出てきたのは、何と小悪魔的なコスチュームだった。
「・・・・・・・・・・・」
「ぷっ」
俺がどういう訳だか考えていたら、翠が吹き出した。
これはどう考えてもサキュバスだよな? どうしてだ? 俺は確かに左手に持っていた紙袋を渡したはずなんだが・・・・・・・・・・・。
どうしてだから分からず深く考えている俺を見て、ついに耐えられなかったのか、翠が笑い出した。
翠が笑っている理由が分からなかったので、俺は素直に訊いてみた。
「どうして笑っているんだ?」
翠は、これ以上ないほどの大笑いをしながら答えてくれた。
「だ、だって! つとむったら、こんな簡単なことに気付かないんだもん!! SPの人と自分での手の見方が逆だってだけなのに!! あははは!!!」
そう言われて、俺は納得した。そして、それは大分初歩的なミスだな、こんなミスをしたのは久し振りだと思いながら、いつまで翠は笑っているのだろうか観察していた。
十分後。翠は腹筋が割れんばかりに笑ったせいか、お腹を押さえて座っていた。
俺は、持っていた紙袋(中身は戻した)を翠の方へ持って行き、それを置いてから、翠が笑ったせいで落ちた紙袋を拾った。
本当に大丈夫なんだろうかと思いながら翠を見ていたら、急に立ち上がってこう言った。
「いや~、こんなに笑ったのは久し振りだよ。それに、つとむが失敗するなんて初めて見た」
俺は呆れながら言った。
「俺は完璧な人間じゃないからな。失敗だってするさ。喧嘩だって、最初は負けっぱなしだったし、料理だって、最初はお袋に怒られたし」
「へぇ~、意外。最初から何でもできてたのかと思った」
「出来るわけねぇだろ。俺はただの目つきが悪い子供だったんだから。喧嘩に負けたのが悔しくて鍛えたり、上手くなりたいから料理の練習してたんだ。今の俺があるのは、努力と経験のおかげだ」
翠は、本当に意外だという顔をしながら、ふと思い出したように言ってきた。
「そういえば、さっきまでの変な空気、なくなったね」
そう言われて俺も気付いた。ぎすぎすとしていたのにもかかわらず、今では元に戻っていた。
「そうだな。俺としてもありがたい」
だからそう言ったのだが、翠は俺の言ったことに反応した。
「“俺としても”? どうしてそんな言い方したの?」
「いや、翠も実際ありがたかっただろう? 変な空気が壊れて」
俺がそう言うと、翠は頷いた。
「だから、ああいう言い回しにしたんだよ」
「へ~」
俺の言葉に、翠は納得したみたいだ。
さて、監視をしたいところだが衣装が届いているので、
「折角だから、着替えるか」
「えぇ!? い、いいよ! 本番の時にでも!」
着替えようとしたら、翠が最終日に着るからお楽しみは取って置こうと言い出した。
特に否定する気はないので、俺は素直に監視役に戻ることにした。
・・・・・・・・時々監視カメラの存在を忘れて素に戻っていたりしているが、このままで問題は無いはずだろう。
たまに忘れる事実を思い出しながら、俺と翠は木に登って監視した。
『報告:十二日目
イショウトドイタ。モトドオリニナッタ。
監視結果:カエリタイ』
十三日目。いつも通り。翠が最近俺の腕を自然に組むようになり、ほとんどを一緒に行動している。
監視は、特に問題はなかった。SPが、ルートの説明と驚かす位置について説明してきた以外は、誰も訪ねてこなかった。
そういや、いつき達はどういう生活しているんだ?




