4-11 誘いと喧嘩
更新してない作品がガガガ
「う。うぅ・・・・・・・・・ん。今何時だ? ていうか、重い……?」
目が覚めて時間を確認しようとしたら、誰かがもたれかかっていた。
いや、誰かは分かっている。翠だ。この部屋には俺と翠しかしないからだ。
起きたかったのだが、翠が覆いかぶさっているので無理に起きれない。その上、翠の体温がもろに伝わってきたので、俺は身じろぎすらできない状態で、翠が起きるまで待つ事にした。
ていうか、当たっているのって…………胸?
そう考えてしまったせいで、俺は更に動けなくなった。
翠が起きたのは、俺が目を覚ましてからおそらく三十分後。
「うぅ・・・・・・・。って、あれ? 私、いつの間に寝ちゃったの?」
と言って目をこすりながら、翠が起きた。そして、現状を確認した瞬間、一気に翠の顔が赤くなった。それにつられて、俺は顔を背けた。
翠が顔を背けたのが分かったら、俺は体を起こした。それから翠の方を見たが、翠は俺と一切目を合わせようとしなかった。まぁ、さっきの事があるからなぁ。
そんな翠を放置して、俺は夕食をつくることにした。その間も、翠は「私、あのまま寝ちゃったんだ……。ああ! 恥ずかしくて死んじゃう!!」と言いながら俺の方を向かなかった。なにがあったんだろう、俺が寝ている間に。
「夕飯出来たぞ~」
翠がそっぽを向いている間に、俺は夕食をつくり終えテーブルに置いた。翠はまだキッチンの方にいる。何故か、悶えながら。
仕方ないのでそれを見ながらひとりで食べていると、電話が鳴った。発信者は白鷺だった。
その時の時刻は午後七時だった。
俺は夕食を食べる手を一旦やめ、電話に出た。
「もしもし」
『あ。八神君ですか? 私です。白鷺美夏です』
「今まで言わなかったのに、どうして今更?」
『え? ちょ、ちょっとだけ趣向を変えてみたくてやってみたんですけど……どうですか?』
「どうですかって、俺としては普通に用件だけ言ってくれればいいんだが」
『用件、ですか・・・・・・・・。あ、思い出しました。合宿、来れないんですよね』
「ん?・・・・ああ。行けない」
『そうですか・・・・・・』
なにやら落ち込んだ声の白鷺。どうしてなんだろうか?
気を取り直して、俺は訊いてみた。
「それだけか?」
『いえ。今まで遅れてくるとか言いながら、最後の方で来れないと聴かされたのが凄いショックだったので。・・・・・・・来てくれるのばかり思ってましたよ。悲しいです』
「・・・・いや、俺に言われても」
『まぁ過ぎた事はもういいです。それより、昨日の騒動のことなんですけど。あれって、先生がやったんですね』
「誰から聴いたんだ?」
『先生に訊きました。理由は、貴方の態度が悪いからだそうです』
「そうか。だから直せと言われても、俺はとても困るんだが」
『そうですね。あなたはこの学園が嫌いのようですから。それが態度に出てしまうんでしょうね』
「それだけなら切るぞ。もう話すことは話したようだから」
『あ、待ってください。まだあるんです』
「なんだ?」
『合宿が終わったら、二日間休みがあるじゃないですか。良かったら遊びに行きませんか?』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
どうして合宿後の話になったのか分からないが、どうやら白鷺は、俺の事を遊びに誘っているらしい。なんで俺なのか、という疑問が出てきたが、それよりどうしてそんな話になったのか、という疑問が頭の中を占めた。
俺は、いつきや茜が誘ってきたときくらいしか、どこかへ行かない。バイトがあるし、なかったとしても一人でフラッと散歩して何かに巻き込まれる。ごくたまに、地元のヤクザ達と賭け事をやったりするが、そんなに儲けは無い。
唯一普通に誘われた時があるのは、小学生のころ。いつきが仲間外れという状態で、俺はクラスの友達と遊んでいた。それ以降は一切なかった。
だから俺は警戒心を持ちながら答えた。
「いきなり言われても困るんだが。ていうか、どうして俺? 他の奴らいるだろ?」
『それはですね、あなたが暇そうにしていそうでしたので』
「・・・・そうか。バイトを入れる予定だったんだが」
『それもあると思いまして、こうやって早めに訊いているんです。で、どうですか? 行ってくれますか?』
普段はのほほんとして何考えているか分からないが、ここまで頭がキレる奴だったのか。
そう思いながら、俺はため息をついて答えた。
「はぁ。参った。あんたの勝ちだ。集合場所と時間は?」
『それはまた後日という事で』
「言っておくが、集合時間には遅れるから」
『え?』
「詳しくは言えない(言いたくない)。だけど、遅れることくらいは知っておいてくれ」
『・・・・・はぁ。そうですか。分かりました。その辺も考慮しましょう』
そう言って白鷺は電話を切った。
俺はケイタイをテーブルに置いて、夕飯を食べるのを再開した。そしたら、いつの間にか復活していた翠が、俺の正面で夕飯を食べながら俺の事をジト目で見てきた。
「どうした?」
どうしてそんな目で見てくるのか分からなかったので、食べながら翠に訊いてみた。
翠はすぐさま顔を背けて、
「つとむは女誑しだね」
と言ってきた。
はて? どこでそう言われるようなことがあったのだろう? 等と思いながら、夕飯を食べ終える。
食器などを片付けて、監視をすることにした。翠は何故か膨れっ面で「つとむなんて、つとむなんて・・・・・・」と言っていた。これだけ聞くと、なんだか俺の身に何かが降りかかるのではないかと心配になる。
それから監視をしていたら、翠が言ってきた。
「どうしてつとむは何も訊かないの?」
俺は何のことだか分からないので、
「何か訊くようなことあったのか?」
そう訊き返したら、翠はついに怒った。
「なにか、じゃないよ! 私がどうして怒っているのか訊くところじゃないの、普通!?」
「いや、そう言われても……」
「つとむなんて女の敵だ! 馬鹿! 鈍感! この不良少年!」
それから何個か俺の悪口を言ったが、俺が何も言い返さなかったので、不意に言うのをやめた。
やっと終わったかと思いながら監視を続行。悪口に耐えるのには慣れたから別に構わないし。
しばらく互いに黙ったままだったが、翠が口を開いた。
「・・・つとむ。どうして悪口を言ったのに怒らないの? どうして言い返してこないの? これじゃ、あの時と一緒だよ……」
あの時。翠が言ったその言葉は、俺にも心当たりがあった。というよりは、あれ以外に翠が言っている『あの時』はないだろう。
あの時とは、翠の十歳の誕生日パーティ。その当時俺はまだ七歳。小学二年生の頃だ。幼馴染のいつきに連行され、俺はこいつのパーティに(強制)参加することになった。
で、連れてきた本人はというと、「挨拶回りしてくるから、どこかでのんびりしてていいよ」と言って、俺の事を放置。
速攻で帰りたいと思ったが、すぐに帰ろうとするといつきが勘付いてきそうなので、俺はベランダで星を眺めながら時間を潰した。それは問題ない行為のはずだ。だが、ここで一つ問題があった。
俺の服装は、夏だから半袖短パン。普通ならこれで問題など起きないのだが、ここは金持ちが集まる場所。服装に気を遣うのが当たり前の場所。
根っからの庶民なので正直こんな場には顔を見せたくない。こんな場にいるくらいなら、一人で野外活動していた方がいい。
そう思いながら適当に星座の名前を頭の中で思い浮かべていたら、後ろから声をかけられた。
「そんな恰好でどうしてここに来たんだ?」
後ろの気配の数を数えながら、俺は星を眺めていた。単純に言うと、無視した。
それが気に食わなかったのか、声をかけてきた奴は次々に俺への悪口と思われる言葉を言ってきた。だが、見物する奴らが増えてきてるなぁと思いながら夜空を見て、無視した。
最終的に怒鳴り声と共に殴り掛かってきたので、俺は殴られる寸前に避けようと思っていたら、誰かが制止させるようなことを言ってきた。
そしたらそいつが殴るのをやめ、声の方へ行った。俺は、こんな意地汚いやつが居るから金持ちが嫌いなんだと思いながら、空を眺めていた。
あの時を思い返した俺は、双眼鏡で旅館を覗いたまま言った。
「あの時も言ったぜ。『俺に得は無い』って。反論してもまた言い返してくるから、単純に疲れるだけだ。昔から悪口で喧嘩が始まっていたからな。飽きたって事」
それを聴いた翠がどう思ったのかは知らない。そもそも表情を見ていないから。
「……それって、いつも喧嘩してたの? 誰と?」
だけど、どこか怖がっていると感じられた。
翠も裏をあまり知らない奴なんだなと思いながら、俺は詳しい説明せずに簡単にした。
「簡単に言うなら、悪い奴だな」
「悪いやつ? それって、犯罪者とかの事?」
翠は首を傾げたが、俺はそれ以上詳しく説明する気になれなかった。
それから何も言わなくなったからか、空気が気まずくなった。俺は仕事をしているが、翠は監視をせずに何やら考えていた。
今更だが、体質については両親といつき以外には誰にも知られていない……はず。つまり、翠も知らないという事だ。
しかし、先程の喧嘩の話をするに至っては、俺の体質を話してからの方が伝わりやすいと考える。だが、知らない人に説明するのは、どこか躊躇われた。
理由は、俺もどういうものなのか知らないからであり、体質や名称は俺が勝手につけたものだから本当の名前があるんじゃないかと考えられるからであり、心配される必要が無いのに勝手に心配されると考えられるからだ。
悩みってのは、抱え込んでいると秘密に変わっちまうのかなと思いながら、空気を壊そうとせずに監視を続けた。
『報告:十一日目
小熊を助けたら、お礼を貰った。
監視結果:暇(空気がぎすぎすした)』
次は十二日目になりますね。そろそろ二幕も終わりか……




