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アイドルッ!  作者: 末吉
第四話~八日目から十三日の出来事(及び風井翠の回想)~
66/205

4-9 それぞれの十日目

お気に入りが増えて嬉しいものです

 同時刻。一年生たちは、もはや合宿時の日課となっているマラソンをやっていた。

 その中で、いつものように先頭集団にいるいつき達は、余裕が出てきたからか、多少はお喋りをしていた。

「昨日のアレってつとむを馬鹿にしてるよね、絶対。犯人見つけたら絶対に報復してやる」

「い、いつきさん。怖いですよ、それ」

「しかし、誰だったんすかね。アレやった人。アニキだったら分かってそうすけど」

 走りながらいつきと光が話をしていたところで、慎が混ざってきた。

「菊地君。いたの?」

「いたっすよ! 初日からずっと!」

「でも、どうしてつとむさんならわかるって思うんですか?」

 光の尤もな質問に、慎は真剣な眼差しで前を見ながら言った。

「アニキはすごい人なんですから。お二人も知っているっすよね?」

 それに対し、付き合いが長いいつきはすぐさま頷き、事故に遭った時のつとむを目撃した光は少し間をおいて頷いた。

 それを見た慎はなおも前を向きながら本音を口にした。

「僕、本当は役者じゃなく裏方になろうかと思っていたんです。でも、その時にアニキに出会った。その時の言葉で、僕は今ここにいる。辞めようと考えていた僕を留まらせたアニキだから、これくらいわかってると思ったんです」

 それを聴いたいつき達は驚いたが、なんとなく慎が言いたいことが分かった気がして、顔を見合わせ、笑った。

 それを見た慎はちょっと拗ねながら、

「せっかく見せ場だと思ったのに……」

 下を向きながら走っていた。

 そんな慎を見ながら、いつきは宥めた。

「ごめん、ごめん。でもそうだね。確かにつとむなら分かっていそうだ。更に言うなら、自分がどうなろうと、誰かを幸せにさせるのが得意だからね」

 それを聴いて、光や慎は納得した。

「確かに。アニキは絶対にやります」

「そうですね。つとむさんは、ああ見えて人を見捨てませんからね」


 そんな話を聴いていた甲斐は、こんなことを考えていた。

(人を見捨てない、か。確かにそうだろうな。今までのあいつを見れば。だが、あいつは平気で蔑ろにできる。人も、情も、信頼さえも。だから――――)


(つとむ。お前のような非情な奴に、俺は負けない! あの時とは違う!!)



 同じく、いつき達の話をそれとなく聞いていた美夏は、前を向きながらこうつぶやいた。

「流石に本宮さんは分かっていますね。でもそれだと、私達が抱いている気持はどうすればいいんでしょうか?」

「会長?」

「なんでもありません。ではちょっとスピードを上げましょう」

「わかりました」

 もう一人の生徒会役員に呟きを聴かれそうになったので、美夏はそれを消すようにスピードを上げた。それに気付いたいつき達は、同じくスピードを合わせた。


 緑川円花は、最後尾にいた。

 昨日の事が気がかりで、学園長の部屋でそんなに寝れなかったからだ。

 普通に寝ていた学園長にどうして寝られたのかと尋ねたら、教師の処分だけ考えれば楽じゃから、と返ってきた。

 事実。その日の朝に職員会議が急遽開かれ、教唆した先生をその場で解雇した。

 その時言い訳めいた言葉をその人は喚いていたが、学園長は憮然とした態度で「警察は呼んである。マスコミにも発表するつもりじゃ。お主はもう終わりじゃ」 と言い放ち、その場を後にしたという。

 私のせいで大変なことになったなぁと思いながら、円花は一人走っていた。

 そしたら、岡部ともう一人の生徒会役員が円花を挟むように走りながら訊いた。

「どうした? 元気がないぞ?」

「元気がないよ~? 大丈夫~?」

 その質問に、「は、はい。大丈夫です」と言いながら走る円花。

 しかし、岡部たちは並走しながら言った。

「何を隠しているんだ?」

「怪しいね~、オカミ―」

「オカミ―とは私の事か!?」

「そうだよ~」

 そんなやりとりを聴いた円花は、昨日のことについて言おうかどうか悩んだが、学園長に「このことは誰にも言うでないぞ。忘れてもらっても構わない」と釘を刺されていたので、何も言えなかった。

 それを見た岡部たちは言った。

「・・・・・ま、隠し事の一つや二つ、誰にでもある。言いたくないのなら、別に構わない」

「そうだよ~。誰にだって隠し事くらいあるもんね~」

「・・・だが、それで悩むのだったら、悟られないようにしろ。真剣に悩んでいたら、獲物にされるぞ。それか、誰か信頼できる人・口が堅そうな人にでも話したらどうだ? 気が楽になるだろう」

「でもそれって隠し事って言えなくなるんじゃ~?」

「・・要するに、隠し事で悩むのだったら、それを演技で隠せ! ここがどういうところか憶えているなら、それくらいやれ!!」

「わ~お。オカミ―流石~」

「皆木! お前は少し黙ってろ!」

 そうしたら、皆木と呼ばれた女の人は「オカミ―。あんまり怒ると駄目だよ~」と言ってから黙り、走ることに専念した。

 それを見た円花はこう思った。

(そうだ。私達の学科はテレビに出る人を育てる学科なんだ。テレビに出たら、今より多くの人に見られる。ということは、こうやって悩んでいるとすぐに気付かれちゃう。それを悟らせないために、『悩んでいない』という演技が必要なんだ)

 その考えに至った円花は、今までキョドっていた眼がちょっとだけ真剣になった。

 それを見た岡部は、変わったかと思いながら、「よし走るぞ」と言って円花を先導する形で走り出した。



 その頃、篠宮ルカは。

「……ハァ。全く。あの男と来たら。どうしてこうもあの男絡みでトラブルが起きているんですの?」

 部屋で一人悩んでいた。他の人達は、どうやら友達の部屋に行ったらしい。

「大体、どうしてあの男の事を擁護する人たちが多いんです? あんな不良のどこがいいんですの!?」

 椅子に座りながら、ルカはこれまでに会ったつとむを擁護する人と、つとむの顔を思い出した。その顔がなんだか無性にムカついて、思わず机をけろうかと思ってしまう位だった。

 深呼吸して一旦落着き、ルカは再度呟いた。

「でも……少女を助けるために自らトラックに突っ込むその心意気だけは……評価しても良いかもしれないですわ。レミの事を勘違いとはいえ助けた事…もですわね」

 そう呟いたルカは、窓をぼんやりと眺めていた。



 一気に飛んで、その日の夜。

「なぁ翠」

「なに?」

「置いていったこと怒ってるのか? だとしたら、スマン」

「怒ってないよ。ただ、一人で怖かったから恨んでいるだけだもん」

「それは怒りより恐ろしいものじゃないのか?」

 木に登って監視している俺達は、片方は一人で山菜採りに行ってしまったことを謝っており、もう片方は怒りじゃなく恨みだと言っていた。

 これ以上この話題を続けるのは意味がないと思った俺は、ふと爺さんが送ってきた肝試し用の衣装について思い出した。

 翠にはまだ言ってなかったなと思いながら、俺は未だに怒っている(本人に言わせると恨んでいる)翠に訊いてみた。

「なぁ翠」

「何?」

「最終日に肝試しやるんだが、その衣装について言うの忘れてた。今から言うから、どれがいいか言ってくれ」

「それって早めに言ってほしい事なんだけど!?」

「仕方ないだろ。一昨日に届いたし、昨日は寝てたんだから。・・・・・・じゃ、言うぞー」

「ちょ、ちょっと!」

 翠の焦る様子を無視しながら、翠が着る予定の服を読み上げていった。

 読み終わった俺は、翠に訊いてみた。

「どれがいいんだ?」

 翠は少し考えてから、

「サキュバス!」

 と答えた。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「プッ」

「笑った!? つとむ今笑った!?」

 くっ。や、やばい。耐えろ、耐えるんだ俺。これは笑ったら本当に失礼だ。

 そう自分に言い聞かせながら監視をしていたら、やっと落ち着いた。

「ふぅ。・・・・・・サキュバスでいいんだな?」

 翠は意地になったのか、

「当たり前だよ! それでつとむの事を驚かしてやるんだから!!」

 と答えた。

 俺は双眼鏡を旅館に向けながら言った。

「いや、俺も脅かし役なんだが」

 それに反応した翠は、「ま、分かっていたけどね」と言ってから、俺がどんな衣装を着るのか訊いてきた。

 俺は、とりあえず書いてあった通りの衣装を全部言った。

 その時の翠の反応は、

「それ入れるんだったら、ヤクザの頭領も入れればいいのに」

だった。しかも、それは俺が全部言い終わったあとで、六分くらい笑った後だった。

「で、どれにするの?」

 翠は、俺が普通に監視しているのを見て、衣装を選ばなくていいのかを訊いてきた。

 選んでいない旨を伝えたら、「だったら、私が選んであげる!」と言って一人考え出した。

 今日も平和だなぁと思いながら俺は監視していると、思いついたのか翠がこう言ってきた。

「マフィアのドンは?」

 俺はため息をついてからこう言った。

「現実的に怖いものを肝試しに使っていいのか?」

「でも、肝試しって怖いものを見ながらやるもんじゃないの?」

「普通は、妖怪やお化けの類だ。マフィアなんて使わない」

「え~? だとしたら何があるの? ヴァンパイア? 忍者? 黒田坊?」

狼男って言う選択肢はないんだなと、監視をしながら俺は思った。

 ていうか、よくよく考えたらまともなものって、ヴァンパイアか黒田坊しか残ってないよな。忍者だって現実にいたし。

 そう考えたら俺の役って変な奴ばっかりだなぁと思っていたら、翠が次の案を出してきた。

「じゃ、あれは? 黒田坊。お坊さんの恰好して、武器を出すふりだけすれば驚くんじゃない?」

「それはいいけどなぁ。俺、持ってきてる武器木刀しかないぜ? あっちで持ってきてるならいいけどよ」

「じゃ、それに・・・・って駄目! やっぱりナシ!」

 俺が肯定したら、翠が急に駄目だしした。どうしたんだ? 自分で言った案だろう?

「どうして?」

 俺がそう訊いたら、翠は双眼鏡で旅館とは別な方向を見ながら言った。

「だって…それだったらつとむが何もしないで観てるだけだもん」

 ? 急にどうしたんだろうか、翠は?

 そう思ったが、今は仕事に集中したいので訊かなかった。




『報告:十日目。

 衣装が決定した。俺:忍者 翠:サキュバス

 連絡するのを忘れたが、裏のヤクザどもは逮捕した。緑川にも教えてやってくれ。

 監視結果:今日も暇だった                    』


これも何かの効果ですかね

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