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アイドルッ!  作者: 末吉
第四話~八日目から十三日の出来事(及び風井翠の回想)~
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4-8 十日目朝

そう言えばこの作品エントリーしていたんですよね今更ですが。

 十日目。

 俺は電話のコールで目を覚ました。起きてケイタイを見ると、午前九時。翠は俺の事を、椅子からじっと見ていた。

 俺は眠いと思いながら、電話に出た。

「もしもし~?」

『ようつとむ。今日は眠そうだな。まぁ、昨日あんな時間に電話してくりゃ誰でも眠いか』

「菅さんか。何の用だ~」

『顔洗ってから教えてやる。それまで切るなよ』

「う~す」

 菅さんに言われるまま、俺はケイタイを置いて顔を洗った。ふぅ。すこしすっきりしたぜ。

 俺は顔を拭いた後、菅さんに訊いた。

「昨日言ったこと、どうなった?」

 それに翠は首を傾げたが、俺は気にせず菅さんの話を待った。

『どうもこうもねぇよ。あれからお前が言った場所に行ったら、なんと集団暴行してやがったからよ。とりあえず現行犯逮捕して、余罪でお前が言っていたことを追及してる。ただ奴らが強情でよ。「俺はそんなこと知らない」の一点張り。でも時間の問題だぜ? 今家宅捜索やってるから。まぁったく、面倒な事やらせやがって』

「すまん。その面倒事の一つとして、頼みがある」

 俺は菅さんに謝った後、頼みごとをしてみた。

『どういう内容だ?』

「簡単だ。そのヤクザグループの一人と今電話したい」

 それに若干渋った様子を見せた菅さんであったが、

『・・・・いいぜ。事情聴取の手間が省ける。頑張れよ』

 了承してくれた。本当にありがたいぜ。

 ちょっとの間待ってくれということで、俺はケイタイをテーブルに置いてから背伸びをした。

 そしたら翠が椅子に座ったまま俺に訊いてきた。

「昨日のことって何なの?」

 俺は椅子に座りながら、

「ちょっとした騒ぎが旅館で起こったんだよ」

 細かいところはあえて言わずに何が起こったのかを説明した。その時、電話から『代わるぜ』という声がしたので、俺はケイタイを手に持った。

「よう。お前ら、また高利貸しなんて懲りないことやってるな。ん?」

『テ、テメェは・・・・・・・八神つとむぅぅぅ!!』

『暴れるんじゃねぇ!!』『抑えつけろ!』

「落ち着いたか?」

『落ち着けるかよ! テメェが俺たちの人生めちゃくちゃにしたんだろうが!』

 俺はその言葉に、遠慮・容赦・手加減の三つがなくても構わないと判断した。

「めちゃくちゃにした? どの口がほざいてるんだ? お前らのほうが人生めちゃくちゃにしてるだろうが!! テメェらのせいでどんだけ人生狂ったやつらがいると思ってるんだ! それなのに自分たちが同じになるのが怖い? そんな半端な気持ちでヤクザやってんじゃねぇ!」

 さらに続けて、

「……………お前ら、生きて出所できるとは思うんじゃねぇぞ。お前らが犯した罪、残りの人生で償えると思ってたら大間違いだ。脱獄でもしてみろ。・・・・・・・・今度は殺す」

 最後のほうを思いっきり低い声で言ったら、『ヒ、ヒィィィィィィ!!』と怯えだした。

 全く。これくらいで怯えるんだったら犯罪なんてやらなきゃいいのにと思いながら、翠のほうを見たら、若干泣きそうになっていた。あんた、俺より年上だろう?

 そうやって翠を見ていたら、電話の相手が菅さんに代わっていた。

『やり過ぎだ、と言いたいとこだが、こんな奴ら相手だったら別に構わないか。これで取り調べが楽になる。ありがとよ』

「すまないな、本当」

『だったら今度、一緒に飲もうぜ』

「未成年に酒勧めていいのか?」

『バカ野郎。お前にはジュースだよ。じゃぁな』

 最後に菅さんはそう言って、電話を切った。

 奥さんいるはずだろうに、そんなことしていいのか? なんて思ったが、普通の家は連絡すれば別にいいのかと納得した(俺の家は、連絡しようがしまいが、外で飲むときはお袋が一緒にいる、らしい)。

 ふぁ~あ。ねむ。最近山菜採りに行ってねぇんだったな。これから採りに行くか~なんて思って欠伸をしながら背伸びをしたら、翠が俺へと寄ってきてこう言った。

「あ、ああいう声出すんだったら、ちゃ、ちゃんと、い、い言ってよね!!? こ、怖かったんだから!!」

 よく見ると、少し涙目だった。これは悪いことしたか? なんて思ったが、勝手に怖がる方が悪いと思って何も言い返さなかった。

 俺が何も言わないことが気に入らないのか、「怖かったんだから!! 怖かったんだから!!」と騒ぎ出した。

 俺が悪いのかよ…と思いながら謝ろうと思ったが、

「勝手に怯える方が悪い」

「ヒドイよそれ!!」

 しまった。本音を言ってしまった。そのせいで、翠が「怒った! 今からいつきちゃんにこの場所連絡してやる!!」と言ってケイタイを取り出したので、俺は慌てて謝った。

「すまん! 今度があるかどうかわからないが、あの声を出す時は離れる!!」

 翠はその言葉でボタンを押そうとする仕草をやめ、こちらを見た。その顔は、いたずらが成功した時に見せる、子供の笑顔にそっくりだった。

 だ、騙された…。どうやら俺は、いつきの名前を出されると本能的に危険を感じてしまうようだ。くそっ。これはやばい。なんとかしないと!

 なんて自己分析していたら、翠が笑いながら言ってきた。

「嘘だよ。う・そ。だって、そんなことしたら、折角の二人きりが台無しになっちゃうじゃない」

「折角の二人きり?」

 俺は翠が言っていることに首を傾げた。確かに二人きりだが、それが一体どうしたんだ?

 俺が首を傾げたのを見て、翠は慌てだした。

「え!? あ、そ、その! そ、そういえばさ!」

 どうやら失言だったらしく、話題を変えようとしているのが丸わかりだったが、俺は気にしなかった。

「なんだ?」

「今更なんだけど、つ、つとむってさ! いつきちゃんとどういう関係なの?」

「いつきと? ・・・・・・・・ただの幼馴染だが?」

 俺がそう言うと、翠は「なぁんだ、そうだったんだ。私はてっきり・・・・」と言いながらホッとしていた。なんでホッとしているんだ、翠は?

 女の考えてることってさっぱりわからねぇと思いながら、朝食ついでに山菜を採りに行くことにした。


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