4-7 真相
仕事の方頑張ってます。
ここは学園長の部屋。
円花は、とても後悔していた。いくら脅されていると言っても、やっぱりこんな事をしたくなかったからだ。
緑川円花はそれほど裕福な家庭という訳ではない。それでもこの学校へ入れたのは、書類審査だけだからだろう。
入学したかった理由は、お金を稼いで家族に少しでも裕福になってもらいたいから。こういう健気な理由。それでよく採用されたものだと、本人は不思議に思っている。
ちなみに、つとむの入学理由は、おおよそ本人が書かなそうな理由である。
それはともかくとして、今は円花の話である。
彼女は奨学生である。この学園は無駄に金持ちが多いため、奨学金は返さなくていい。
それで何とかやっていたが、父が入院したことでさらに状況が悪化。奨学金では足りなくなった。
バイトをしようと思ったが、彼女は引っ込み思案な為なかなかバイトが出来なかった。
途方に暮れていたら、ある人が提案した。
それが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「全く余計な騒ぎをつくるでないぞ、お主」
とここまで回想したところで、学園長――鯨井朱雀が円花に声をかけた。ちなみに、ケイタイはつとむにつながったままである。
円花は恐縮しながら、「すみません」と謝った。
学園長は謝罪の言葉を聴いた後、本題に入ることにした。
「さて・・・・・本題に入るとするか。お主、どうしてここに連れられてきたのか、分かっておるのじゃろう?」
「はい・・・・・・」
うつむきながら話す円花を見て、学園長はケイタイを自分と円花の中間に置いた。
その行動の意図が分からなかった円花だったが、ケイタイの通話機能がそのままだという事に気付き、意図を悟った。
そんな円花を見て、学園長はケイタイに話しかけた。
「さて・・・・・・・つとむよ。お主に任す。一応被害者じゃからな。頑張れ」
『思いっきり人任せじゃねぇか。しかもなんで一応が付くんだ?…まぁいいか。俺に任せていいんだな?』
「うむ。お主がこういう時に一番立ち会ってあるからの」
『調べたな。・・・・・・ハァ。結局俺がやるのか。しょうがねぇ。…おい緑川』
「は、はい!」
突然つとむに呼ばれて――しかも一度しか会っていないのに憶えられていることに――驚いた円花は、思わず顔を上げた。
反応した声が向こうにも聞こえたのか、つとむが話し始めた。
『驚くなよ。・・・・・・で、お前がやったポスター騒ぎだが・・・・・・・誰の指示だ?』
「「!?」」
いきなり直球過ぎる質問に、円花を含め、その場にいた人は全員驚いた。
「待て。どうしてあれが誰かの指示でやったと言えるのじゃ?」
いきなりすぎて理解できなかったのか、学園長がケイタイに話しかけた。それに対して電話の向こう側にいるつとむは、いつもの口調でこう答えた。
『一度会っただけだが、緑川の性格はおそらく人見知り。しかも、嫌と言えないお人好し。そんな奴が自分で計画して実行しようと思うか? 少なくとも、俺が今まであって来た奴にはいなかった。大抵が強要されて、とか、脅されて、とかだったぜ。緑川もそうじゃないのか?』
円花含めその場にいた一同は言葉を失った。あまりにも口調が普通過ぎるが、人間の性格を一度で判断したと言っているようなものだ。
さらに続けて、
『最初に学食で会った時から様子はおかしかったんだ。俺の名前を聴いた時の、あの不自然な驚き様。しかも、席が埋まっていたというが、実際は一人で食べる席は空いていたんだ。いつもどうしているか分からないが、少なくともあの時のよそよそしさはおかしかった。その時にはこういう計画が考えられていたんだろ?』
誰も言葉を発しない場で、つとむは自分で考えていたことを言葉にしていった。
円花はそれを聴きながら、この人には敵わないと思った。
学園長はそれを聴きながら、これまでのつとむの人生の波乱万丈さが理解できた。
話しながらつとむは、円花の処分をどうしようか考えたが、慎が泣きながら抗議する光景が思い浮かんだので、根源だけ潰せばいいかと考えた。
つとむが言い終わったあと、みんな黙ってしまった。が、すぐにつとむがそれを破った。
『で? どうなんだ? 緑川。俺の予想、当たってるか?』
急に振られた円花は、少し考えてからおおよそ当たっていると思い、頷いた。
それを見た学園長は、
「当たってる様じゃ。これからどうするんじゃ?」
と言ってつとむに指示を仰いだ。
つとむはさして変わらない口調で、
『事情でも訊いたらどうだ?』
まるで適当な感じに答えた。
「ま、それしかないかのぅ。・・・・・さて、聴かせてくれるか?」
学園長もつとむの言葉に賛成のようで、円花に事情を話すように促した。
それから、円花はどういう経緯でこうなったのか話した。たびたび泣きそうになっていたが、つとむが『気にするな。こんな事やられたのは久し振りだが、慣れているから別に問題ない』とざっくばらんに言ってきたので、泣くより先に驚きしか出てこなかった。
事情は聴いたつとむと学園長は、
『爺さん。あんたも耄碌したな。教師が犯罪教唆かよ』
「それに関しては全力で謝ろう。それに、緑川さんにもの」
片方は呆れ、片方は謝っていた。
学園長に謝られた円花はアタフタしていたが、学園長が「すまなかった。儂の管理不届きでこのような目に遭わせてしまって。申し訳ない」と言いながら土下座をしてきたので、もっと慌てることになった。
話が進まないと思ったのか、つとむが強引に元に戻した。
『正式な謝罪くらいあとでしろ。問題は、教唆した馬鹿な教師の処罰と、それの裏にいる奴を炙り出すことだ』
円花はその言葉で自分にどうして処罰が無いのか不思議に思った。
だが学園長はそれを気にせず、
「裏じゃと? 教師だけの問題じゃないのか?」
と、つとむに訊いた。その質問に対しても、今までと同じ口調で答えた。
『当たり前だろ? 教師が俺に嫌がらせをするんだったら、点数引けば問題ないだろ。それをこんな大騒ぎにさせたってことは、更に裏がいるって事だろ? となると・・・・・・俺が俺の地元以外で潰したヤクザやそこらか。その教師の金の事情を調べるから、明日にでも電話する。緑川はそこで預かっとけ。今出たらその教師に殴られたりされる可能性があるからな』
円花は、つとむが平然とヤクザを潰したと言えることに恐怖心を抱いた。さらに、同い年にも拘らずしっかりして、その上自分の心配をしてくれるつとむに感謝もした。だから、
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
とお礼を言った。それは小さい声だったがしっかりと聴こえていたようで、
『礼は菊地慎ってやつに言いな。あいつ、最初にあった時にお前に見惚れていたからよ。きっとお前が犯人だと分かったら、あいつは俺の所に来て土下座でもしてお前の無実を言ってくるだろうから。ま、要するにあんたの事が好きなんだろうな。じゃ、切るぜ』
と、いつものように締めて電話を切った。
切れたケイタイを見ながら学園長は、
「まったく。気障っぽく言っておるのにそうとらせんとは。やはり役者に向いておるのぉ。…しかし、あそこまで頭がキレる奴じゃったのか。正直末恐ろしいわい。・・・・・・・ところで、緑川さんをここに匿うとして、儂はどこで寝ようとするかのぉ」
と言ってから、二人でもここは十分に広いことを思い出し、もうひとつの布団を離して自分で敷いた。
円花は、「菊地、慎君か…最初に出会った時にやけに張り切っていた人だよね? そうかぁ、あの人が……」と言いながら、心の中でおぼろげな菊地慎に感謝した。
電話を切った後、俺は息を吐いて空を眺めてから呟いた。
「これで慎にも春が来るか?・・・・・・いらぬお節介をした気がするが、まぁいいか。それはともかくとして、起きてるかどうか怪しいが、久し振りに電話するか」
ま、これも兄貴の努めかなと思いながら、俺は久し振りにあいつに電話をかけた。
プルルル!! プルルル!! プルルル!! ガチャッ!!
「もしもし? 寝てたら申し訳ないんだが、大丈夫か?」
『お前がこんな時間に電話なんて珍しいし、ずいぶん久しぶりだから、許す。今合宿中だろ?何か用か?』
「ああ。実は俺の学園にいる教師を調べてほしいんだ」
そう言って、俺はその教師の名前を言った。そしたら、電話の相手は『何かやらかしたのか?』と訊いてきたので、さっき発生した騒ぎを説明した。
説明を聴いたそいつは、
『だったら、そいつの情報はタダでいい。お前にいたずらした落とし前、裏にいる奴含めてつけてやれよ』
と言って、その教師の情報を教えてくれた。
どうやらそいつは、俺が潰したヤクザ(どうやら、今も活動しているらしい)に借金をしているらしい。余程のギャンブル好きがあだとなったらしく、額は二百万を超えるとか。
払えないと言ったら、どうやらそいつらは俺に復讐しようと思い立ったらしく、その教師に「払えないなら、お前の所の生徒の八神つとむを退学させろ」と言ってこの計画を持ち出したそうだ。
それを聴いた俺は、ため息をつくしかなかった。それと同時に頭にきた。
さらに、そいつらは他の奴らにも高利貸しをしているらしく、払えない奴には色々としているらしい。
それら全てを聴き終えた俺は、
「ありがとよ。今から菅さんに連絡するから。今度俺が料理作る機会があったら、あんたの所の魚を買いに行くぜ」
と言って電話を切った。
さて、と。
俺は木のてっぺんに立ちながら、菅さんに連絡をした。そして、出てきた菅さんの挨拶を無視して、俺は言った。
「捕り物、しないか?」
今度こそ壊滅させてやるぜ、馬鹿どもが。




