4-6 とある事件
次の日。合宿九日目。
寝ていたら、何かいい匂いがした。でも、起きたくなかったため、俺は寝ていた。
目を覚ましたら、翠が俺の横で寝ていた。今何時なのか分からなくて時計を見たら、午後八時。どうやら、半日は爆睡していたみたいだ。
俺はその事実に驚きながら、何故かそのまま残っていた飯(恐らく翠が作ったもの)を食べて外に出た。シャワーを浴びようか悩んだが、どうせ明日の三時まで起きないといけないので、俺は双眼鏡を持ってそのまま外に出た。
いつもの所へ登って、てっぺんで監視をしていた。携帯の電源は点けといた。何かあった時に爺さんに連絡できるように、という考えからだ。
俺は駐車場とかを監視してみたが、怪しい人影は見当たらなかった。
今回も暇な監視になるだろうなと思ったら、旅館の入り口から走ってくる人影が見えた。
俺はそいつを双眼鏡で見た。そしたらなんと、緑川円花だった。
「あいつ・・・・・どうして今頃ここに?」
そう俺は呟いてから、爺さんに連絡した。
「おい爺さん。寝てないだろうな」
『問題ないわ。何か用か?』
「今旅館から緑川円花って女が出て行ったんだが……何があったんだ?」
『緑川円花…? お主、よく人物の把握なんてできたのぅ』
「知っているやつしかできねぇよ。で、何があったんだ?」
『いや、知らぬ。だからSP二人に追いかけさせるわ。ありがとの』
「別に。こっちも仕事だからな」
電話を切ってから、俺は双眼鏡に集中した。どうやら焦っているらしく、その顔には余裕なんて表情は無かった。
しかも、浴衣姿だった。これは、何かあったとみて間違いはないだろう。
俺は、ずっと観察しようか悩んだが、別に爺さんに訊けば問題は無いから普通に監視するかと思い直して、旅館の方へ視線を戻した。
その時、電話が鳴った。相手は光だった。
ピッ!
『もしもしつ――』
「じゃかしい!! 毎日電話かけてくんな、馬鹿野郎!」
『え・・・・・』
「心配してくれるのありがたいが、ウザったいんじゃボケェ!」
思わずヤクザ口調になってしまう俺。これはさすがにやり過ぎたと思ったが、これであいつから話しかけてこないだろうと思うと、これで良かったと思った。
しかし、予想以上に怖かったのか、電話越しで光が泣き出した。
『・・・・うぅ。す、すみません・・・・ヒック……ごめんなさい…うわぁぁん!!』
これはやってしまったと思った俺は、嫌な予感がしたため面倒ながら謝ることにした。
「すまん! すまん! 泣くな! 悪かった。どうせ他の奴ら聴いてるんだから泣くな!」
『・・・・え?『ガタン!! ガタン!!』・・・・その、すみませんでした・・・』
光が力なく謝ったが、俺は合宿が終わってからまた親衛隊の相手をしないといけないのかと思うと、気が重くなった。
「で? お前はまた面倒事増やすためだけに電話してきたんじゃないだろうな?」
『そ、そんなつもりはなかったんですけど・・・・・・先程はすみませんでした。でも、あれはつとむさんが悪いですよ! 怖すぎます!』
「それでビビるなよ。・・・・・・で?」
『あ、はい。えっとですね……いつきさんと仲直りしたんですよね』
「ああ」
『そうですか。それで、要件なんですけど、今ちょっとした騒ぎがおきていまして……』
「騒ぎ?」
俺は円花が旅館から飛び出した理由がそこにあるのだと思い、光の話を聴くことにした。
『はい。誰かは知りませんが、あなたに対する誹謗中傷が書かれたポスターを張ったみたいなんですよ。それを見た先生方が、今犯人を探してるみたいです』
俺に対する悪口か……。光の話を聞いた俺は、どうも黒幕がいるんじゃないかと思った。
なぜなら、円花は見たままの性格だろうから、そんな事をするような奴には見えないと思ったからだ。しかも、俺に対する悪口に関しては身に覚えがありすぎるので、きっと脅されてやったんだろうとも推測できる。
俺は少し考えて、光に言った。
「ポスターを剥がすだけにしとけばいいぜ。犯人捜しなんて、やるだけ無駄。どうせ俺に対する嫌がらせなんだろうから、ほっとけ」
しかし、光は黙ってなかった。
『どうしてそんなに普通にできるんですか!? 誰だって悪口を言われたら普通怒りますよ!』
俺はそれを聞き流しながら、
「別に、そんなの今に始まったことじゃねぇし。いちいち全部に腹立ててたら、こっちの身が持たないぜ? そういうのは、無視すりゃいいんだ。無視すりゃ」
完全に投げやりに言った。光は何か言いたそうだったが、『・・・・・・そうですか』と納得してくれた。
俺の町なんて罵詈雑言は当たり前。脅しや強請はさすがに袋叩きにされるが、悪口の言い合いなんて日常茶飯事だ。もっとも、俺は脅迫状とかを何回かもらっている。で、送り主を容赦なく警察に送る。六人ぐらいから送られてきたが、全員留置所へ送った。
光が納得したようなので、俺は話を進めることにした。
「というわけだ。お前も無視すりゃいい。それと、合宿中は電話してくるなよ。じゃぁな」
そう言って電話を切ろうとしたら、光が慌ててこう言ってきた。
『それはないじゃないですか! せめて二日に一回はいいですよね!? ね!?』
俺は顔をしかめたが、光が何度も『お願いします…お願いします………』と言ってきたので鬱陶しくなり、渋々ながらも「わかったよ」と言った。
光は俺の了承がうれしかったのか、『本当ですか!!? やったぁ!』と喜んでいたので、今のうちにと、電話を切った。
再び監視をしようとしたら、またケイタイが鳴った。発信者をみると、白鷺からだった。
この忙しい時に何の用だと思いながら、俺は電話に出た。
『あ。もしも―――――』
「テメェも毎日電話してくるな!!」
『・・・・・ご迷惑でしたか?』
「当たり前だ!」
『・・・すみません。ではまた後日ということで―――――』
「俺が言っているのは、毎日用もなく電話してくるなってことだ!! どうせ俺が来るかどうかの話だろうが、いちいち電話やメールをしてくるな!!」
『そうだったんですか。それはすみません。なにぶん心配してるものですから』
「明日から合宿中は電話してくるな。・・・・・で? 何の用だ? ポスターの件か?」
『誰からか聴いたんですか?…ええ。実はそうなんです。誰かにやられるような心当たりありますか?』
「直球だな。まぁ、いろいろと恨みを買ってるからな。心当たりが多すぎて見当がつかない。しかも、学校以外のほうで恨みを買っているのがほとんどだから、あんたらはお役に立てないぜ」
『では生徒会関係なしで、あなたのことを手伝いたいと言ったら、なにかありますか?』
「ない。手伝ってくれる気持ちはありがたいが、特にやってもらいたいことはない。どうせ何もできないだろうから」
『勝手に決めつけないでくれますか?』
「残念ながら、犯人の目星は付いてるから特に問題はない。それに、簡易的な事情聴取は爺さんに任せるからこれも問題ない。というわけだ」
『そうですか・・・・・・・わかりました。あなたの言うことを信じて私は何もしませんが、生徒会としてなら動きますから。では』
「ああ」
電話を切った後、白鷺ってやっぱり大人だなぁと思って三度監視をしようとしたら、また電話が鳴った。
俺は、今度は爺さんからだろうなぁと思いながら電話に出た。
「もしもし爺さん? 円花捕まえたか?」
『お主は一体予言者か?・・・・・ああ。今は儂の部屋におる。旅館から一番遠いところに止めてあった車の近くに隠れておった。今から話を聞くから、お主もどうかと思っての』
「そうか。じゃ、始めてくれ。仕事はやらなくて構わないよな?」
『しょうがない。一種の非常事態だと思って見逃すかの』
「サンキュー」
こうして、電話越しでちょっとした事情聴取が始まった。




