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アイドルッ!  作者: 末吉
第四話~八日目から十三日の出来事(及び風井翠の回想)~
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4-5 仲直り

お気に入り二百件行きました記念がこのお話となりました。運がいいのやら悪いのやら


 戻ってきて監視を再開させて三十分後。ケイタイが鳴った。発信者はいつき。

 俺はもう我慢する気が無かったので、

 ピッ!

『もしもしつと――――』

「いい加減にしろ!! ずっと電話かけてきやがって!! いちいちうぜぇんだよ!! お前はあれか、俺の保護者か!? 心配するのにしても毎日はかけ過ぎだろうが!!」

 いつきが何か言う前に俺は怒鳴った。この合宿の間、いつきが毎日のように電話をかけてくるのに俺はうんざりしていたからだ。あと、他の二人にも。

 あの二人は明日電話してきたら怒鳴るかと考えながら、俺はいつきの言葉を待った。それでも、俺は監視を続けていた。ふむ。未だに異常はないか。

 それから二分くらい沈黙が流れたが、いつきがこう言った。

『・・・・・・ごめんね、つとむ』

 俺はケイタイを片耳に押しつけながら、「謝って許すと思ってるのか、テメェ!」と言った。

 いつきは、

『――そうだよね。つとむは……そう言う人だよね。…でもね、本当に謝ったら……許してくれるって言う人でも・・・・・あったよね』

 まるで泣いているかのような不自然な間の空き方で、そう言っていた。

 それを聴いた俺は、一瞬演技じゃないかと疑ったが、それにしても素が出過ぎていると思い直し、本気だと推測できたので、真剣に聴くことにした。

『・・・・思えばいつもそうだったよね。僕の我儘に、文句も言わないで付き合ってくれてた。だから僕は、心のどこかで君に甘えていた。君ならどんなことでも付き合ってくれるんじゃないかと、ね』

「・・・・・・・・・・・」

 実際は何回か断ったのに強制的に連行された時があるのだが、それは言わなかった。言う雰囲気でもなかったし。

『最初のアレ、憶えてる?』

 いきなり話題が変わったので、俺は一瞬追いつけなかった。

「アレ?」

『合宿が始まる前の喧嘩の話』

「ああ、あれか。ありゃ―」

『分かってる。僕に頼りたくないからあんなこと言ったんだよね』

「そうだが・・・・・・ひょっとしてお前」

『うん。勘違いしてたみたいだよ。僕の事を嫌いになったと思っちゃった』

 勘違いって。まぁ、するかもしれないかな、俺が言った言葉だと。

『でもね、勘違いが解けたとしても、君が頼らないという事実には変わらないんだよね。だから僕は怖くなった。君に頼ってもらえないことで、君が離れることが』

 俺だったら泣いて喜ぶが、いつきにしたら重大な問題なんだと思った。でも、そんなことで俺は離れる気はないんだがな。

 それはいつきも分かっているらしく、

『君の事だからそれで離れるなんてことは無いだろうけど、僕は不安なんだ』

 と言った後に、

『だから、ごめんね、つとむ。あんなこと言っちゃって。それと、電話ばかりしてごめん。君があまりにも遅いから心配になっちゃったんだ』

 きちんと謝ってくれた。あいつがここまで神妙になるのは何かあるのかなと思ったりするが、さすがにここではないだろうと思った。

 俺が何て言おうか考えていたら、いつきは更に声のトーンを落として、

『・・・・やっぱり、許してくれない? ……許してくれないか。じゃ、切るね』

 と言ったので、俺はもう考えるのをやめて言う事にした。

「おい。勝手に切ろうとするじゃねぇよ」

『・・・・え?』

「お前、俺が謝罪の言葉聴いただけで終わると思ってないだろ? だから、切るんじゃねぇよ」

『つとむ?』

 なんだか驚いている声だが、俺には関係ない。言いたい事だけ言って、俺はさっさと仕事に戻る。

「お前は俺の事どう思っているか知らないが、俺はお前に感謝しかないぜ。たまにムカつくときもあったが、それ以上に感謝してる」

『え?』

「だってそうだろ? お前にいつも助けられてばかりだ。バイトの話とか、勉強とか、事故の時とか」

『でも、それ以上に僕は助けられてるんだよ? 君は気付いていないだろうけど、いろんなことで助けられている。僕ばかり助けられてるから、君にその恩を返せていない。むしろ増えているだけだ。だから―』

「だから、なんだ? 友達ってのは、そう言う損得で成り立つのか? そうじゃねぇだろ? 仲良くしたい。面白そう。そんな理由で充分だろうが。その上で助け合いが生まれるんだよ。どっちが多いじゃない。単純な理由で友達になれるもなんだ。・・・で、長々と友達の講釈を垂れたが、言いたいことは、つまり、」

『釣り合いを求めるな。付き合っていく上で勘定は余計?』

「そう! それだ!」

 俺がそう言ったら、いつきは呆れだした。

『まったく、最後の最後を人に言わすなんて。君は肝心な時でも頭は回るはずだろうに』

「今回は忘れただけだ」

『まったく。でも、そう言うものかもしれないね、友達と言うのは』

「知らなかったのか?」

『友達、というより、知り合いという感覚が強かったから。友達は君ひとりくらいだったよ』

「俺よりまずいじゃないか。もっとクラスメイトと仲良く話せよ」

『君の場合はクラスメイトじゃなく、町民だろう? まぁ、学園に舎弟がいることだからあながち間違っちゃいないのかな?』

「舎弟は友達なのか?」

『カウントしても問題は無いと思うけど?』

 こうやって話していたら、いつの間にか元に戻った気がした。だから俺は、

「おい。どうやら、俺達は喧嘩が長続きしないらしい」

 と言った。そしたらいつきも、

『そうだね。僕達の間の喧嘩は、どうも不毛にしかなりえないみたいだ』

 と言った。

 それから、二人で笑った。一週間ぶりだというのに、何か月ぶりにいつきと笑った気がした。


 ひとしきり笑った後、俺は大分前にいつきが言ったことを訊いてみた。

「なぁいつき」

『なんだい?』

「お前、新妻甲斐を調べるって言ってたが、どうしたんだ?」

 俺がそう訊くと、

『珍しいね、君が僕の調べた人に興味を持つなんて。う~ん、どうしようかな~?』

 もったいぶっていた。

 俺はなんだか嫌な予感がしたので、

「言いたくないなら切るわ。じゃ」

『あ! ちょっ―』

 ピッ!

 いつきが何か言う前に電話を切った。そして電源まで切って、俺は監視を続けた。



『報告:八日目。

 衣装がおかしすぎるだろ!!

 監視結果:特に問題なし    』

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