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アイドルッ!  作者: 末吉
第四話~八日目から十三日の出来事(及び風井翠の回想)~
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4-2 風井翠の回想その2

更新すると増え、一定期間更新しないと減る。それは当たり前の事なんですかね


 そのベランダへ行ったら、人だかりが沢山出来ていた。どうやら、先程からそれは始まっていたみたいだ。

 私は、人だかりはかき分けてベランダへ向かった。その時にこんな声が聴こえた。

「どうしたんだお前。さっきからずっとそのままじゃないか。何かしたくてここに入り込んだんじゃないのか?」

 誰かに話しかけている感じがした。私はすぐに話しかけられている人が庶民の服を着ている人だと分かった。

 しかし、相手側は無視しているのか答えなかった。それがまずかったのだろう。

 甲斐、と呼ばれた人は反応しなかった人に対して、とうとう怒ったみたいだった。

「テメェ! さっきから黙ってばっかじゃねぇか!! どうして何も言わないんだよ!? 俺の事おちょくってんのか!!」

 そう怒鳴ってもその人には効果が無いみたいで、何も言わなかった。

 その態度に頭に来たのだろう(実際見ている人達は、ひそひそと黙っている方の悪口を言っていた)、甲斐と呼ばれた子はその人に殴りかかろうとした。丁度その時に私は人混みから脱出して現場に出てきたので、すぐさま「なにしているんですか?」と声をかけた。


 その時になって、どういう状況か正確に把握できた。


 甲斐って子が殴りかかろうとしているのは知っていた。けど、さっきから黙っている子はどういう人だか分からなかった。

 その人は、夏だからか服装は半袖半ズボン。しかも普通の服屋さんで売っているらしいもの。

 だから庶民だなんだと言っていたのかと、今更納得する私。

 その子は、ベランダに座ったまま甲斐と呼ばれた子に背を向けていた。だから、どういう表情をしているのか分からなかった。

 私の声が聴こえたのか、甲斐って子は殴るのをやめ私の方へ寄ってきた。

 殴られそうになった子は、振り向きもせずベランダからの景色を眺めていた。


 それから私はそこに集まっていた人全員と話をして、なんとか殴られそうな人と二人きりになった。

 二人きりになった途端に空気が重くなった気がしたけど、めげずに話しかけた。

「楽しんでいますか?」

 そしたらその子は私の方を向いてきて、

「誰だ、お前?」

 と真顔で訊いてきた。

 その子の顔つきは、目つきが鋭いだけだけど、凄い大人びていた。いつき君も大人びていたけど、この人の方がずっと深い所にいるのではないかと思ってしまった。

 私は彼の言葉にイラッときたので、

「知らないんですか?」

 と言った。返ってきた言葉は、

「知るわけねぇじゃん。あいつが無理矢理連れてきたんだから。それに、こんな退屈な場所で行われる退屈なやつなんて、教えられても覚えねぇよ」

 だった。

 あまりにも堂々と言っていたけど、私はその言葉にキレた。

「どうしてそんなこと言うの!? せっかく父さん達が催してくれたんだから! あなた、自分がどれだけひどいこと言ってるか分かってるの!?」

 その言葉を聴いた彼は、

「こんなの、ただ単に親の自慢パーティだろ? こんなもののために張り切っている奴の気がしれないぜ。しかも、ほとんどが下心丸出し。お前は単純に嬉しいだけだろうが、参加している親にとっちゃぁ、いかにお前の親に気に入られるかを競っているだけだぜ? そんな欲望丸出しの誕生日会が、退屈じゃないわけないだろ」

 と吐き捨てた。

 明らかに年下の人に思いっきりそんなことを言われたので、私は混乱した。

 でも彼はそんなことを気にせず、

「あいつを除けば、本気で祝っているのはお前の親父と他数名。それ以外はみんな、欲望で動いている。もっとも、子供にそんな気はないだろうがな……あ~あ。空を眺めてた方がよっぽど楽しいぜ」

 私にそう言った後空を見上げた。

 いまだに混乱している私だったけど、彼はこういう集まりが嫌いだと分かった。

 彼が言っていたことを何とか理解できたのは、それから十分くらい経った後。理解した私は、良くこんなことを平然と言えるものだと逆に感心した。そして、彼の事がちょっとだけ気になった。

 どうして彼はあんなことを言ったのか、また、どうして彼はここに来たのか興味を持ったからだ。

 黙って空を眺めている彼に、私は何か話しかけようと考えた結果、

「そういえば、さっきはどうして黙ったままだったの?」

としか言えなかった。

 彼は私の事など見ずに空を見上げながら、理由を語ってくれた。

「ああ? ……あんなガキと口論しても得は無いだろ。それに、殴って来たとしても簡単に避けられたし。俺一人だったら殴り返してトラウマ植えつけたのになぁ」

 それを聴いた私は、彼は優しいんだなと思った。それに、我慢強いとも。でも最後の方の言葉には、思わず笑ってしまった。

 彼はその笑い声に呆れながら、

「あ~帰りてぇ。もうこんなところ嫌だ。つまらない、退屈、面倒。あんたはどう思う?」

と言ってきた。

 そのことに私は驚いた。彼はちゃんと私と会話をしてくれるという事に。正直、話しかけて答えるだけじゃないかと思っていた。

 私は少し考えてから答えた。

「・・・楽しいと思うよ」

 彼は振り返って私を見た。その時の彼の顔は、なんだか笑っているように見えた。私は、その顔を見て胸の奥がキュンとした気がした。これが何の感情なのかは、その時の私は分からなかった。ただ、彼の笑顔は見た目や雰囲気とは違い、とても子供っぽかった。そして、

「お前がそう言うんだったら、別にいいか。俺には関係ないしな。さ~て、帰るか。こっから家まで面倒だが、費用はちゃんと返してもらおう」

 と言っていきなり準備体操をしだした。私はいきなりやるから驚いて、

「どうやって帰るの?」

 と訊いた。彼は準備体操をしながら、

「こっから飛び降りて、敷地内から駅まで走って、電車に乗って地元に帰る。終電まで時間があるから問題は無いし、あいつの事だから、俺が勝手に帰ることも分かるだろう。じゃ」

 と説明してくれた。

 私は、正直無謀だと思った。今私達がいるのは三階。高さは十メートルくらいあった気がする。そんなところから飛び降りて、無事でいるはずがないと思えた。

 同時に、そんなことをして欲しくないとも思えた。そんなことをされたら、彼とはもう二度と会えない気がしたからだ。

 表現しがたいモヤモヤに考え込んでいたら、彼がベランダの手すりに立っていた。もう飛び降りるつもりなんだと、私は思った。だから私は、

「最後に一つ、いい?」

 飛び降りる前に訊きたいことを訊くことにした。

「なんだ?」

「君、名前は?」

 彼は手すりに立ったまま少し考えてから、こう答えた。

「あんたは?」

 私は何故だかその質問に嬉しくなって、自分の名前を答えた。

「翠。風井翠」

 それを聴いた彼は、

「翠か。ふ~ん。答えてもらったし、俺も質問に答えるか。俺の名前は八神。八神つとむだ。呼ぶのはどっちでも構わないぜ。じゃぁな、翠!」

 と言ったと同時に飛び降りた。

 私は、すぐに手すりの方へ駆け寄って、「またね~、つとむ!」と暗闇に向かって手を振った。見えていたかどうかわからなかったけど、私は満足した。


 つとむが飛び降りた先をしばらく見つめていたら、後ろから声をかけられた。

「こんな所では風邪をひきますよ?」

 振り返ってみると、いつき君が後ろにいた。その後ろには、SPが二人。この二人はデフォでいるのだろうかと、私は思った。

 私は後ろを気にせずに、いつき君と一緒に部屋の中へ戻った。その時、いつき君とつとむが知り合いだという事に驚き、少し話を聴かせてもらった。


 こうして、パーティは終わった。

 みんなが帰る時、ちょっとした騒ぎがあった。

 それは、入り口にいた私の家のSP数人が、何者かに気絶させられたことだった。しかも、犯人は的確に攻撃したらしく、たいした怪我はないようだった。

 それを見たいつき君が、

「やっぱり帰ったか。お金の請求されるんだろうなぁ、今回も。ま、つとむのおかげで多少気が楽だったし、警備に関しても意見を言えるから、それ位なら大丈夫か」

 まるで、つとむがやったかのような言い方をしていた。それがどういう意味なのか、私は全く分からなかった。



 それからちょっとして、私は役者になった。そうすれば、きっとつとむに遭えるだろうと思ったからだ。親も役者だったから、とても喜んでくれた。

 でも、結果はダメだった。いくら売れても、つとむは会いに来てくれなかった。誕生日会でも、つとむは来てくれなかった。でも、いつき君は来てくれた。

 だから、つとむの事をいつき君に訊いていた。本人も、つとむの事を語る時は嬉しそうだった。でもその顔を見るたびに、私は不快な気持ちになった。つとむの話自体は聴いていてうれしいけど、話しているいつき君の顔を見ると何故だかイラッとした。

 そしてある時、いつき君に訊いてみた。

「どうしてつとむの話をする時嬉しそうなの?」

 いつき君はちょっと考えてから答えてくれた。

「だって、つとむは僕にとって恩人みたいな人だからね。いつも言われるんだ。『家の名前はただの飾りだ。そんなものが無いお前として生きた方が、人生楽しめるんじゃないのか? 俺は少なくともそう思うぜ』って。だから、つとむの話をする時は自分を出してるんだよ」

 私はその言葉を聴いて衝撃を受けた。そんな考えを聴くのが初めてだという事もあるけど、家の名前で生きている人なんか人生を損していると解釈出来たからだ。

 その言葉を聴いて以来、私は親の名前で使ってもらおうとせずに自力で売れるようにした。

 その時、私がつとむに対して恋をしていたことに気付いた。でも、叶うかどうかは分からない恋だとすぐさま思った。


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