3-7 三日目から七日目ダイジェスト
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三日目。
何事もなく一日が過ぎていった。ただ、いつき、白鷺、光の順に電話が掛かってきて、それの応答が面倒だった。それと、電話が終わるたびに翠からしつこく今の電話は誰ですか、という質問が来た。記憶がまだ戻っていないのに、どうして俺の事でこんなにしつこくなるのか本当に不思議だった。
四日目。
監視している最中に翠が眠たそうにしていたので、俺は文句を言われながらもログハウスに入れた。その時の抱え方がお姫様抱っこだったからか、翠の文句を言う声が少しだけ小さかった。まだ記憶は戻らないらしい。
それと、爺さんから、俺の居場所を探ろうとしている人が何人かいるらしい、という話を聴いた。その時俺はすぐさま三人ほど想像し、ばれなきゃいいなと思った。
五日目。
この生活にも慣れた。とか言っていたら、翠から「適応能力高いですね。」と尊敬された。自覚は無かったが、どうやら俺は適応能力が高いらしい。
翠は相変わらず。適応はしているみたいだが、記憶が戻っていない。これで連れ戻されそうになったら、完全に邪魔をするしかない気がした。
六日目。
二日目に覗きっぽい奴が出てきて、何があったか知らないが出てこなかったんだが、再び現れた。俺は報告しようとしたが、同じ場所でやろうとしたらしく先生に見つかり連行されていった。懲りない奴らだな。
翠は寝ている。今日はちょっと現場の近くまで行ってから疲れたのだろう。記憶が戻りそうになったみたいだが、駄目だった。
そして、七日目。
三日目以降も毎日かかってくるいつき達からの電話に俺はうっとうしく思い、ケイタイの電源を切った。非常事態に使えなくなるが、自力で何とかすると決めた。
そして、俺が初日に拾ってきたバックを開けることにした。翠の目の前で。
「いいか? これ開けても」
「私のかどうか知りませんから、何とも言えないんですけどね」
俺が確認を採ったら、翠は二日目に似た答えを返してきた。
ま、開けたら誰のかはっきりするか。そう思って俺は、バックを開けて中身を出した。
その中に入っていたのは、ケイタイと食べ終わっていた弁当、水筒など、山登りに必要な最低限なものしか入っていなかった。道理で軽いわけだ。
中身を全部出して、俺は財布を見つけた。翠は、「これ、見たことがある…?」と出されたものを見ながら呟いていた。
その財布の中身を、俺は失礼だと思いながら出した。小銭、札、カードを入っているだけ出して、何かこのバックの所有者を示すものが無いかと探していった。そしたら、割と早く見つかった。
見つけたのは服の高級店の会員カード。名前は『風井翠』。
「見つけた―!」
「あ―――!!!」
俺が叫んだのと、翠が叫んだのが重なった・・・・・・・・って、どうしたんだ翠? 何か思い出したのか?
俺はすぐさま叫ぶのをやめ、翠の方を見た。そしたら、翠も俺の方を見た。
「どうしたんだ?」
俺がそう訊くと、翠は俺の方をじっと見て黙ったままだった。ただ、その目には今までは違い、ちゃんとした自分がある気がした。
そうやって黙っていると、翠の方が口を開いた。
「ありがとう。そして、何年振りかな?・・・・・・・・つとむ」
俺はその言葉を聴いて、記憶が完全に戻ったんだと思ったと同時に、やっぱり俺は彼女と会ったことがあるんだと思った。でなきゃ、挨拶に『久しぶり』とか『何年振りかな?』とか入れないだろう。
しかし、俺には翠と出会った覚えがない。ということは、おそらく小学生のころくらいだろうと自己分析できた。なので、
「十年くらい経っているんじゃないのか?」
と答えるくらいしかできなかった。
それを聴いた翠は首を傾げてからこう言った。
「十年かぁ。確かにそうだね。何せ私の誕生日パーティの時の一回だけだもんね」
本宮君、いや、今は本宮ちゃんと一緒に来てたもんねと言いながら昔を懐かしんでいる翠を見て、俺は完全に思い出した。
「あの時は、いつきが無理矢理連れてきたんだよ。『暇なら一緒に行こう?』とか言っておきながら、実は縄で縛られて強制連行したんだ。しかも受付の時に『連れです』と抜け抜けと言いやがったんだ」
「そうだったんだ~。…ていうか、朱雀さんと知り合いのように話していたから、スミレ学園に入ったんだ。おめでとう」
「ありがとうといいたけど、俺はここに入る気はなかったんだよ」
「え、そうだったの!?・・・・・でも、なんとなくそんな感じはするね。あの時と変わってないから。風貌とか、言葉遣いとか」
どうやら、完全に記憶が戻ったらしい。初めて出会った事をこうやって話していられるんだから、まず間違いないだろう。
そう思いながら、周囲をキョロキョロと見ている翠を見ていたら俺と視線が合ったらしく、こう訊いてきた。
「でさ、どうしてここで監視役をやっているわけ? 生徒なんだから合宿で、ヤッホー!とかしてそうなのに」
あんたはどんなイメージ持っているんだと思いながら、
「爺さんが教師用と生徒用を混ぜたからだとよ」
推測込みで経緯を答えた。大体当たっていると俺は思っているが。
その言葉を聴いて翠は「朱雀のおじさん、ついにボケたのかな?」と呟いてから、ふと思い出したように言った。
「そ、そういえばさ、わ、私達・・・・・・ふ、二人きり…なんだよね?」
何故かモジモジしていたが。
俺はそう言えばそうだなと思いながら、
「そうだな。じゃ、寝るわ。お休み」
と言って今日こそは離れて寝ることにした。俺、キッチン側だぜ、もちろん。
翠は俺の態度が気に食わなかったのか、
「どうしてそんな平静を装っているの!? ていうか、平静過ぎない!?」
翠が抗議をしてきた。
そんなこと言われてもなぁ・・・・・・・・・・・と思いながら、
「今更じゃないか、そんなの。それに、俺は夜に監視するから寝なきゃいけないんだ」
床に寝そべりながら俺がそう言ったら、
「そうだけど! 何か釈然としない! 私なんてこんなにドキドキしているのに……」
最後の方は何を言っているのか分からなかったが、どうも個人的な理由だと推測できたので、俺は無視して寝た。
つとむが寝た後。
「もう~。寝ちゃったよ~。つとむの馬鹿。薄情もの!・・・・・・だけど、それが君の良い所なのかな?」
寝顔を見ながら、翠はそう呟いた。その顔には、どこか優しい面持があった。
「あの時は驚いたよ。だって、礼服じゃない人が来ているって言われて。面白そうだと思って探したのに、全く見つからなかったんだもん。一人だけ礼服じゃないから見つけるのは簡単だと思ったのに、なかなか見つからなかったんだよ」
そう言った後、翠は寝ているつとむの横に寝そべった。そして、話を続けた。
「駄目なのかなぁと思った時、ベランダの方で誰かを馬鹿にしている声が聴こえてね。もしかして・・・・・と思って近寄ったら、君が君と同い年の男の子に色々と罵詈雑言を言われてたよね。普通なら何か反論するのに、君ったら思いっきり聞き流していたよね。正直驚いたよ。あそこまで言われてるのに、平然としている君が」
寝ているから聴こえていないだろうと言う翠の気持ちが、まだ語らせた。
「そのまま見ているとまだ悪口が言われそうだから、私は君の所に出てきたんだ。それでその男の子は私に近寄って来たけど、君はそのまま外を眺めてたよね。まるで私たちの事など興味が無いというように」
当然ながら、つとむはそんなことを聴いていない。
「ちょっとだけその子と話してから、私はつとむに話しかけたよね。『楽しんでますか?』って。そしたら怪訝そうな顔で、『お前、誰?』って言われた時は逆に言葉が詰まっちゃったよ。だってさ、知っていると思ってたのに知らないって言われれば、言葉を詰まらせたくなるよ」
つとむの横で寝転がりながら、翠は懐かしそうに、
「君との出会いで私は変われたんだよ。君の態度、言動、すべてが私に影響を与えてくれた。本当に、君には感謝してるよ。しかも、私とも知らずに今回助けてくれた。ありがとう」
と言って頬にキスでもしようか悩んだみたいだが、それをやると明日からどうやって接すればいいのか分からなくなりそうだったので、おとなしく横で寝ることにした。
ケイタイのアラームで目を覚ました俺は、どうして翠が俺の横で寝ているのか分からなかった。ただ、これをみられたら確実に人生が終わりそうな気がして、俺は背筋がゾッとした。
『報告。
翠の記憶が戻った模様。これからどうするかは明日本人にでも訊く。
監視結果:異状なし 』




