3-5 ランニングと事情
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その時のいつき達はというと、今日は最初に体力作りという事でランニングをしていた。一年生全員で。
ランニングコースは、旅館をスタートして近くのホールを通り過ぎ、そこから役場までほぼまっすぐ行き、帰ってくるというコースだが、往復が十四キロという、結構というか物凄い長いコースである。
これはもはや伝統らしく、別名「試しのランニング」と言われている。これは毎年一年のみ、しかも午前中かけて行われる。
その間二年生や三年生たちは、演技力に磨きをかけるために練習をしたり、台本を覚えたりしてる。
しかし、一部例外がいる。
それが生徒会である(つとむも例外だが、意味が違う)。
生徒会は、合宿の時に一年生に指示を出したりする。また、こういうランニングの時は先導する人と、何かあった時のために後ろにいる人を生徒会でやらなくてはいけない。なぜなら、先生達は別な意味で忙しいからだ。
いない人の確認・部屋の見回り・二年生や三年生の監視等々。
それらで人員を割くため、一年の世話を必然的に生徒会がやることになっていた。これももはや伝統である。
今は丁度、ホールから役場までの中間地点にあたるところに全員居た。脱落者が一人もいないのに、白鷺達は驚いた。去年でさえここまでで十人近くは脱落していたのだ。それが誰も脱落していないのは、素直に賞賛に値する。
どうしてだか白鷺は走りながら考えたら、確信にも似た考えが浮かんだ。
(やっぱり、八神君の影響でしょうね。ふふっ。彼はよく人を刺激するところがありますからね。無自覚で)
そう考えていたら、ふとつとむの事が気になった。
(そういえば、結局どこに居るのか分かりませんでした。それに、私だけ八神君の事を名前で呼んでいませんでしたね。でも、今まで名前で呼ばなかったのにいきなりで呼べるのでしょうか?)
う~んと悩みながら走っていたら、生徒会の一人にこう言われた。
「会長、ペース配分を考えてください。ちょっと早いです」
「え?」
そう言われて白鷺は後ろを振り返ると、一年生たちがほとんど後ろにいなかった。
ちょっと早すぎましたと心の中で反省して、白鷺はペースを落として一年生たちを待つことにした。待っている間、白鷺はまた考えていた。
(さっきペースが速いと言われましたが、八神君だったらあのぐらいのペース、平気な顔をしてそうな気がします。あ、つとむ君でした。でも面と向かって言えるでしょうか? つとむ君って)
すると、また言われた。
「会長。考え事をしていないでもう行きましょう。だいぶ人が集まりましたから」
その言葉に、白鷺はこれが終わるまで八神君の事を考えない様にしようと決め、
「みなさん、再開と行きましょう」
と言って再び走り出した。
一方、そのランニングをしている人達はというと。
「結構きついよね~、これ」
「だったら、どうしてそんな涼しい顔をしているんですか・・・?」
頑張っていた。
「そうでもないよ? 流石にリタイアまでとはいかないけど、苦しいよ? これでも」
「笑顔で言われても説得力ないんですけどね・・・・・・・・・・」
実は結構疲れていると主張するいつきに、だったらその笑顔はなんなんだと訊く光。
二人は、先頭集団の中にいた。先頭集団には男子もいたが、比率的には六対四と女子が若干多かったりした。
ちなみに、先頭集団からざっと五百メートル離れたところに次の集団があり、さらにそこからぽつぽつと集団があり、最後列には残りの生徒会がいる。
そんなことはどうでもいいとして。
光に笑顔の理由を訊かれたいつきは、前を向きながら答えた。
「いつなんどきでも笑顔でいないと、考えていることがばれそうだからね。良く言うでしょ? 笑顔は人の考えを読めなくするって」
「そうでしたっけ?」
いつきの答えに、光は首をかしげた。けど、考えても分からなかったので、考えないようにした。そしたら、いつきが質問してきた。
「長谷川さんって、結構体力あるね。やっぱりドラマとか出演してるからかな?」
それに対して光は、
「まぁそうですけど。実際は違うんですよ」
と答えた。
「へぇ? そうなんだ。・・・・・・・・ま、詳しいことは聴かないでおくよ」
「ありがとうございます」
走っている中こうやって喋っているのは、結構稀だろう。
しばらく互いに黙ったが、光がふと思い出したかのように、
「そういえば、つとむさんってどうしているんでしょう? 先生に訊いたらまだ来ていない、と言ってましたし」
そう呟いた。それに反応したいつきは、
「う~ん。今回ばっかりは来るかどうか分からないなぁ」
と言った。今回は色々なことがあり過ぎて、どうやって考えればいいのか分からなくなったからだ。それだけ見れば、昨日のような事件はカモフラージュとして役に立ったのかも知れない。
それから二人は悩んでいたが、結局答えが出なかったのか顔を見合わせ苦笑した。
「分かんないですね」
「そうだね。・・・・・・・・でも、」
「でも?」
「もしつとむがここに居たら、『ダリィ』とか言ってまともに走らないと思うよ」
「それは言えますね」
と言って、二人は走りながら笑っていた。
途中、先頭のペースが上がったので二人もペースを上げたが、すぐに遅くなったのでその間歩く形となった。
また、先頭集団に残っていた新妻甲斐は、
(どうして八神はいないんだ? あいつの事だから意地でも食いついてきそうなものなんだが……)
仏頂面のまま、そんなことを考えていた。
どうでもいいが、菊地慎も先頭集団にいた。流石に剣道が趣味なだけあって体力はあるようだ。
「僕だけ扱いおかしくないっすか~?」
「誰に言ってるんだ? 菊地」
「い、いや。ただ言わなくちゃいけなかったような気がしたから……」
ところ変わって、ログハウスでは。
「zzz・・・・・・・・・・・」
「暇だ」
寝てしまったみどりを見ているため、俺はものすごく暇だった。
あ~どうすっかな~。何か暇つぶしの道具ないかな~? と俺はログハウス内をしらみつぶしに捜すことにした。
探すこと十分。
特に何もなかった。
ただ、鍵がかかった扉だけ見つかった。俺は好奇心で開けようとしたが、その鍵がピッキング対策をされていたので、開けられなかった。
ピッキングはどこで覚えたのかって? そりゃ、地元の不良たちやヤクザ達からだよ。犯罪に使った事は無いぞ? 鍵を忘れた時などに使ったりするだけだ。
さてこれからどうすっか? と考えていたら、寝袋の方がもぞもぞと動いた。
起きたのか? と思い寝袋の方に近づいた。そしたら、起きたばかりのみどりを目が合ってしまった。どうも寝ぼけているらしく、しばらく俺に目を向けたまま固まっていた。
…………。
「キャー――――――――――――――――!!!」
「どうしてだ―――――!!」
そして、しばしの沈黙の後、絶叫された。
俺が何をしたと・・・・・?
「いや――!! 近づかないで―――!!」
「ちょ、ちょっと待て!! 落ち着け!」
「やめて――!!」
「落ち着け――――!!」
そんなこんなで二分後。
みどりはようやく落ち着いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「な、なぁ。大丈夫か、みどり? ていうか、記憶戻ったのか?」
俺はキッチンの方でみどりに話しかけた。みどりが寝袋、つまりテーブルに近い所であるのに対し、俺はキッチンの方にいた。これ以上近づくなら、さっきの二の舞になりかねん。
なおも無言でいるみどりに、俺はどうやって話してもらおうか悩んでいたら、
「・・・・・・・・・・・・・あの」
みどりの方から話しかけてきた、のか? 小声でちょっと聴き取りづらかったんだが。
「どうかしたのか?」
「・・・・・・・・・すみません。昨日助けてもらったのに」
どうやら、昨日の事は憶えているようだ。
「気にするな。それより、昨日の夜に記憶が戻ったんだろ?」
「・・・・・・・少し、ですが」
少しでも思い出せてよかったのではないかと、俺は思った。そして、それと同時に俺はあることを思い出した。
「そこのテーブルにお前の荷物が置いてあるはずだぜ? 確認してみたらどうだ。ちなみに俺は開けてないから心配するなよ」
その言葉にみどりは反応して、テーブルの上に置いてあるバックを見つけ、中身を確認しようとしたら、止めた。
「どうかしたのか?」
「・・・・・いえ、これが私のかどうか分からないので・・・・・・・・」
そこまでは戻っていないのかと思いながら、俺は訊いた。
「どのくらいまで記憶が戻っているんだ?」
「名前とどうしてあそこにいたのかくらいしか・・・・・・・・」
それを聴いた俺は、無理を承知でこう頼んだ。
「だったら、せめて記憶が戻っているところまでは話してくれないか? そこからまた何か新しいものが分かるかもしれない」
俺の頼みにみどりは戸惑ったみたいだが、
「・・・・・・分かりました。あなたには助けてもらいましたので、それくらいはお話ししましょう」
と言ってくれた。ありがとよ。
「・・・私の名前は風井翠っていうんです。年齢は今年で十九歳です」
俺より年上だったのか。そんな感じがしたが。そう思いながら、俺は続きを聴いた。
「私は休日を利用して、久し振りに山に登ろうと考えてここに来たのですが、道に迷ってしまったんです。お恥ずかしい話ですよね」
最後の方を苦笑しながら言う翠に対し、
「そうだな。でも、よくあるだろ、そんな話」
と俺は言った。その答えをどう捉えたのか、
「優しいですね、八神さん」
と、翠ははにかんで言った。その顔がふとどこかで見たことがある感じがして、俺は疑問に思った。
俺、こいつとどっかで会ったことがある・・・・・?
そんな俺の考えを知らないで、翠は話を続けた。
「それで適当に歩いていたら、山小屋にたどり着いたんですよ。その時中を覗いたら、何かを売買していたところを目撃してしまって。そのまま動かなかったら気付かれまして、それで」
「逃げていた、と」
「はい。ただ、その時に足を踏み外したらしく滑り落ちてしまったんです。・・・・・・そんなことくらいです」
ふぅ、と息を吐きながら話し終えた翠。俺はその話を聴き終えた後、ふと気になったことを訊いた。
「なぁ、それだけ思い出したら他の事も思い出してるんじゃないのか?」
それに対し、翠は首を横に振りながら、
「いいえ。まだ色々と思い出せると思うんです。私がどこの者なのか、とか。あなたの事とか」
と言った。その顔にはどこか真剣みがあって、俺は驚いた。
そして、俺は未だに寝袋の上に座ったままの翠に、こう言った。
「だったら、しばらくここで生活したらどうだ?」
その言葉に、今度は翠が驚いた。
「え?」
「迎えが来るか分からねぇ、記憶が戻らないと帰っても意味がねぇ。それに、ここからどこかに行く当てがあるのか?」
そう言ったら、翠はうつむいてしまった。たぶん、言われたことが正しいと思っているから、何も言えなくて下を向いているのだろう。…前にもこんな状況があった気がする。
翠がうつむいてしまったので、俺は確認の意味でこう訊いた。
「どうする? ここでしばらく生活するか? ただし、ある程度は一人でやってもらう」
その言葉を受けた翠はしばらく黙ったままだったが、やがて、
「・・・はい」
と言った。
これで決まったなと思い、俺は立ち上がって言った。
「さてと、これから山に入って食材取りに行くか!」
それを聴いた翠は、
「はい!」
と言って俺の後をついて来た。
「……あの、寝袋はどうすれば?」
「今日からお前が使っていいぜ。俺は床でも寝られるから」
「すみません」
「いいってことよ」




