1-4 口喧嘩
まぁ人気ないのは分かってましたけどね…
イテテテ……、あ、危なかった。食器は無事だ。弁償なんて面倒だからな。
それにしても誰がぶつかってきたんだ? そう思い俺は後ろの方を向くと、
「僕は何もしてないじゃないですか!!」
「うるさい! お前は我らが『アイドル』の光さまに近づこうとしたではないか! それは許されない行いだぞ!!」
「そ、そんなことはないですよ!」
なんか言い合っていた。それにしても、『アイドル』?『光さま』?こいつら、新手の宗教団体かなんかか? こいつらが何を言っているのか分からないので俺は、
「何言ってんだ? こいつら」
正面にいるいつきに訊いた。すると、
「君って、本当に知らないよね。確か、入学式にいろいろと説明があったでしょ?」
「寝てた」
「はぁ…」
いつきがため息をついた。この学校にいたくないと思っていたら、いつの間にか寝ていた。
だから俺は、何の話だか分からない。それに、俺は教室にいる時はほとんどが寝ているため、誰も(いつき以外)俺に話しかけてこない。廊下を歩いている時は、俺の外見のせいか話しかけてくる奴はいない。せいぜい、俺の事を見てひそひそと話すだけだ。
「いつも思うんだけど、君は友達をつくった方がいいんじゃない?」
「そんな事より早く説明してくれ」
「わかったよ。…僕達の学科ではね、入学式に『アイドル』を選ぶんだよ。そのアイドルってのはね、僕達と違って優先的に仕事がまわされるんだよ。彼女たちは将来を嘱望されているからね、結構僕達とは違うカリキュラムを受けているんだって」
「へぇ~…ん? ちょっと待て、今『彼女たち』って言わなかったか?」
「うん。各学年に一人ずついるんだよ。だから言ったでしょ? 入学式に選ぶ、って」
なるほどな。だからあんな奴らが出てくるのか。そう思いながら、静かに成り行きを見守ろうとしたら、
「ん? なんか静かじゃないか? それと、なんで俺らを見ているんだ?」
「そりゃぁ、君が何も知らないからだよ……」
と、ため息を再びはくいつき。え?それが何か問題でもあるのか?そう思っていると、
「おい、貴様。貴様も同じ学科なんだろ? ならば、光さまのことを何故知らない?」
さっき、俺に人をぶつけたやつが威圧感を出しながら訊いてきた。・・・・・・正直これくらいなら普通だな、さっきの奴はビビっていたが。そんなことを考えながら俺は正直に、
「興味がない」
そう言ったら、
「な、なんだと!? 貴様、それでもこの学園にいるものか!?」
と、なんだか役者めいた反応を示してきた。そういえばこいつらも役者志望なのか。
「別にいいだろ。そんなのは人の勝手だ。それと、さっきの話を聞いて思ったんだが、別に話そうとしたりするのは良いんじゃないか?」
「光さまは『アイドル』に認められた方だぞ!! そのような方が、こいつみたいなやつと喋るなんて言語道断!!」
「かっこいいこと言っているように聴こえるがお前ら、自分が何のためにここに入学したのか、忘れたのか?」
「なに!?」
「お前らは『テレビ』に出たいんだろ? それなのにそんな親衛隊みたいなことしたり、追っかけみたいなことしたりと、普通の人たちとなんら変わらないじゃねぇか」
『うっ……』
俺が言った一言で、いつき以外の奴らは全員黙った。俺としては当然だと思ったんだがな、この考えは。と思っていると、
「そうだな!! 俺達テレビに映りたいからここにいるんだったよな!!」「そうね! ちょっと目標を忘れていたわ!!」と急にあたりが騒がしくなった。俺にぶつかってきた奴は、「かっけぇ……」とか言っていた。
……はっ! しまった! つい、いつものノリで言ってしまった!役者とかそういうのになりたくないのに、何を言っているんだ俺は!?と顔には出さずに一人で葛藤していると、
「…ふん!! とりあえず今日のところは見逃してやる。次我らに口答えするなら、容赦はしないぞ」
捨て台詞を吐いて去っていった。・・・・・・・・俺に言われてもな、そんなこと。それに、容赦しないのはこっちの方だぜ。なんて思っていると、
「あ~あ、本当に役者向きのような気がするんだけどなぁ~」
「おいこら。てめぇ、さっきの事を肴にしながら飯食ってただろ?」
「そんなことないよ」
「…感想は?」
「楽しかったよ。…はっ! ず、ずるいよ! 誘導尋問だよ!!」
「誘導尋問の意味を辞書で引いて確認して来い。今のは自爆というんだ」
「うぅ、卑怯だよ」
「そんなことより、さっさと食堂出ようぜ。授業の準備しねぇとな」
「うぅ、君のスルースキルが時々憎くなるよ」
? 何の話だ? と心の中で首をかしげながら俺達は食堂から出た。その時に、
「あ、あの! 先程は助けてくれて、ありがとうございました! 僕の名前は菊地慎です。あなたの名前は?」
「…………八神つとむ」
「僕は本宮いつきだよ」
「八神つとむさんですか。あなたの先程の言葉、とても心に響きました!これからあなたのこと、『アニキ』と呼んでもいいですか!?」
「はぁ!? なんでそうなる!?」
「だって、先程のあの親衛隊に一歩も引かないあの態度! みんなの目標を再確認させるあの言葉! それらを見て僕は感動しました!! だから呼んでもいいですか!?」
「ははは。この学校でも『アニキ』呼ばわりか。君はつくづく人を惹き付けるね」
「うっせ。……いいぜ。アニキでもなんでも」
「本当ですか!? ありがとうございます! 僕の事は、『慎』と呼んでもらって結構です! それでは!」
言って、俺にぶつかったやつ――菊地慎――は食堂を後にしていった。やれやれ、変な奴に気に入られたな、なんて思っていると、
「友達できたじゃん。よかったね」
笑いをかみ殺している感じでいつきが言ってきた。
「どちらかというと、舎弟に近いような気がするんだが」
「はははは。地元じゃぁ、君は『皇帝』って呼ばれているんだもんね」
「そこに触れるんじゃねぇよ」
等と言いながら、俺達は自分の教室に向かって行った。
さて。のんびりとやりましょうかね