2-6 踏み入れた場と相性最悪の二人
まぁ、学園長がそんなことを考えてるなんて知るわけもなく。
とりあえず俺は、みどりと会った場所に来てみた。彼女が出てきたところから行けば、何かが分かるだろうと思ったからだ。
なので、俺はみどりがここまで来た道をたどることにした。
「結構道としてできてるんだな。・・・・・・・・・・ん? ひょっとすると獣道か?」
俺は、歩いてる道が随分綺麗なことに気付き、獣道の可能性を考えた。
そして、その可能性を裏付けるように俺の前に動物が出てきた。その動物が……
「熊か? デケェなぁ」
そう熊だった。しかも、全長が目測で二メートルくらいの奴。そいつが俺の目の前にいた。
やっぱり出たかー。
こいつとやって生きて帰れるかなー、とか、間違いなく死ねんじゃねー?とか、ネガティブな考えをしながら立っていた。
俺が邪魔だと思ったのか、それとも敵と認識したのか分からないが、俺を攻撃しようとした。
しかし、俺に何を感じたのか俺の目の前で攻撃をやめた。そして、俺から逃げ出した。
「は? 一体何だったんだ? ま、このまま進めるからいいか」
何で逃げたか分からなかったが、俺としてはありがたかった。なので、このまま進んだ。
獣道を進んで十分後。
俺は何か落ちてることに気付いた。
「ん? これは・・・・・・・・・・・」
と言いながら落ちているリュックを拾ってみた。
「これはもしかして…あいつの荷物か? やけに少ない気がするが、持っておこう」
そしてまた歩き出したら、後ろから人の気配がした。俺は反射的に茂みに隠れた。
「結局あいつは見つからなかったな。どうするんだよ、一体?」
「考えられるとすれば、さっきのガキが匿っていることだな。だが、肝心のガキがあそこにいなかった。ひょっとすると山にはいないかもしれん」
どうやらさっきの二人組のようだ。しかし片方は頭がキレるなと思いながら、茂みに隠れていた。
「それがホントなら俺達どうすればいいんだよ!?」
「俺達も山を下りるしかないだろ。そうしないと探せないからな」
「でもよ、俺達が離れたら誰もあそこにはいないんだぜ? あの場所は俺達の隠れ家であり、俺達の大事な取引場所でもあるんだぜ。そこを離れたら、またあの女のように来ちまう可能性があるだろ?」
「すでに俺達はあの場所から離れている。いまさらどうこう言ってんじゃねぇ」
「すまん」
「だが、その可能性も捨て切れねぇな。こうなったら明日から見張りをするか。当番制で」
「分かった。明日は誰が?」
「お前からだ」
と言いながら、そいつらは通り過ぎて行った。俺は、そいつらが完全に行ったことを確認してから、茂みから出た。そして、あいつらの会話を反芻していた。
「『取引場所』に、『あの女』ねぇ・・・・。これだけでも収穫だと思って一旦戻るか」
ヤレヤレ。なんだか物騒な話になったぜ。
そう思いながら、俺は山菜採りをしてログハウスに戻った(それらで昼食をつくった)。
その頃、いつき達はホールで話を聴いていた。
今話しているのは学園長こと、鯨井朱雀。これが終わったら、男女別で練習する。のだが、
「・・・・・・その時に儂は・・・・・・・・・・・」
話がとても長かった。ホールに着いたのは一時。本来なら三十分程度で終わるはずの話が、ずれては修正、ずれては修正の繰り返しでかれこれ一時間になっている。
当然、生徒たちはそんな長話に耐えられるわけもなく。
辺りを見ると、ところどころ騒がしかった。先生がたまに注意をするが、それでも騒がしくなった。
なので、朱雀は話を強引に打ち切り、そのまま練習させることにした。
「ふぅ。やっと練習できるけど………誰とやろう?」
と、いつきが辺りを見渡しながら言った。
この場合の練習は、一年生が教えてもらうという事であり、二年生と三年生は、一年生に分かりやすく教える必要がある。これは、上級生が下級生に教えることによって、上級生自身がどのくらいちゃんと出来ているのか理解させることが目的となっている。
要するに、下級生より下手だったら面目丸つぶれという訳である。
「う~ん・・・・・・・・女子の方で知ってる人がいないからなぁ~」
と言っているが、実際つとむと行動しすぎて男子にも女子にも知っている人が少ないのである。
そうやってその場で悩んでいると、
「あら? 本宮さんではありませんか。どうしたんです、お一人で?」
と、後ろから声をかけられた。なんだか嫌な人に会ったといつきは直感した。
そう思い振り返ると、直感が正しかったと思った。
「篠宮さん、どうしたんですか? 僕にいったい何の用ですか?」
「あなたがそこにいたから声をかけただけですわ。別に何も用なんてありませんわよ」
「そうですか。それでは」
と、そそくさと去ろうとしたいつきだったが、ルカに止められた。
「お待ちなさい」
「なんですか?」
嫌な顔を見せない時点で、いつきはもうすでに役者として結構できる方だろう。
「あなた、ひょっとして相手が見つからないのではないのですか?」
「そうですけど・・・・・・じゃぁ、先輩はいるんですか?」
普通に返しただけなのに、ルカは言葉を詰まらせた。
「ひょっとして・・・・・・・・いないんですか?」
「う、うるさいですわ! そういうあなたこそいないのではなくて!?」
「そうですよ。だからどうするか悩んでたんです」
いつきはあえて正直に言った。それにどう反応するかで決めるようだった。
それを聴いてルカは、顔をほころばせながらこう言った。
「でしたら、私とやりませんこと? ちょうど私もいませんので」
それを聴いたいつきは、
「いいですよ」
普通に了承した。
練習中。
「うまいですわね。流石に性別を偽って学校に来ていただけありますわ」
「そういう先輩こそ、指導が上手いですね。つとむに散々言われたからですか?」
褒め言葉のはずなのに、何故か言葉の端々が悪口になっている二人。
ここで、ルカが唐突に訊いてきた。
「そういえば、あの男を見ていませんわね。本宮さん、知っていますか?」
「つとむなら遅刻するんですよ。いつもそうですから」
たいして、休憩をとっていたいつきがそう言った。
「あらそうなんですの? ・・・・・・それにしても・・・・・口調に怒りがこもってる気がしますわ。もしかして、喧嘩でもなさったのかしら?」
いつきの口調の違いに気付いたらしく、ルカは挑発するように訊いた。
「流石腐っても先輩ですね。よく気が付きましたね」
対して、いつきも遠慮なく言った。この光景を見ていた女子達は、この二人は絶対に相性が悪いと思った。
「なっ!? そういうあなたこそ、喧嘩していつまでも引きずってるんじゃないかしら!?」
「っ!! そういう先輩こそ、つとむに正論で返された時無駄に抵抗したじゃありませんか!」
と、ここで更に険悪な雰囲気になる二人。今から取っ組み合いの喧嘩が始まるのかと思うと、女子達はハラハラしていた。
が、ここではルカの方が先に矛を収めた。
「・・・・ここで喧嘩にでもなったら、家に迷惑がかかるのでこの辺にしますわ」
「先輩も引き際が分かっていますね。僕もそう思っていたんですよ」
一応、この場は仲直りしたようだ。そのことに女子たちは安堵した。しかし、
「・・・・・・・・・全く、レミといい、あなたといい、あの男のどこがいいのかしら?」
と、ルカが呟いたことにより再燃した。
「つとむの事をよく知らない人が言うセリフですね。もっとも?つとむの事を『あの男』と言ってる人には関係ありませんよね?」
そして、いつきの言葉遣いが若干悪化した。
「あら? 本宮ともあろう人が、あんな一般人に随分思い入れがあるようですわね。あんな、言葉遣いがなってない男の事を!」
この言葉で、何人かを敵にしたことを彼女は知らない。知っていても、おそらく撤回する気はないだろうが。
もちろん、これを聴いたいつきは黙っていなかった。
「つとむの昔を知らない人が何も言わないでください!」
「何をいい出すのかしら?」
「……あなたは、子供の頃に事件に巻き込まれたことはありますか?」
「ありませんわ」
「だったら、この話をこれでおしまいです。僕はもう部屋に戻りますので、それでは」
毅然とそう返すと、いつきはホールから出て行った。勝手に戻るのは禁止されているが、先生達も止め難かったのか、声をかけられなかった。それを見た白鷺は、先生に「ちょっと本宮さんの様子を見に行きますね?」と言って、後を追った。




