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アイドルッ!  作者: 末吉
第二幕・第二話~合宿初日からの面倒事
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2-4 遭遇

一気に長くなりましたよ。



「ここら辺がどうなっているのか分からねぇと駄目だな。今日は何事もないだろうから、散策するか」

 俺はそう呟きながら(一人なので何も言われない)、双眼鏡と貴重品だけを持った。鍵は、そこら辺にあったワイヤーで何とかした。

 ワイヤーでロックした状況をつくってから、俺は散策を始めた。と言っても、山の下と山頂部分は、人にばれる恐れがあるので無理なのだが。

 とりあえずは中腹部分を一周するかと思い、歩いていた。そしたら、ガサリ、と茂みから音がした。俺は、もしかして熊でも出てきたのか? と思い身構えていると、飛び出してきたのを見て俺は驚いた。そこにいたのは、

「・・・・・・・・・・・・・・誰?」

 人だった。しかも、女。

 全体的に痩せこけていて、何日もろくに飯を食べていないのだろう。身長は、百六十位。恰好はボロボロの白いワンピースで、裸足。顔が焦っているところを見ると、どうやら逃げてきたみたいだ。

 と、その人が俺を見てこう言ってきた。

「助けてください!! 私、追われているんです!!」

 やっぱりか、と内心自分の勘の鋭さに呆れつつ、俺はこう言った。

「いいぜ。その代り、話は聴かせてくれ」

「分かりました」

 なんだか監視どころじゃなくなったなぁ~、そう思いながら俺は、その人と一緒に俺が元来た道を引き返していった。


「畜生! どこ行きやがった!」

「まずいぞ、あの女は俺達の顔を覚えてる。確実にな。もしあの女が警察に行ったら、俺達は終わりだ」

「どうする!?」

「取りあえず近くを探そう。まだ遠くへは行ってないはずだ」


 何事もなくログハウスに着き、チェーン代わりにしたワイヤーをほどいてから俺達はログハウスに入った(内側からロックはできる)。

「あの、先程はありがとうございます」

 と、入って早々お礼を言われた。

「いや、そんなことよりも、だ。とりあえず事情を聴きたいんだが……風呂入るか? その恰好じゃなんだから」

 そういうと、その人は何故か驚いてこっちを見た。

「え? いいんですか?」

「いいんじゃねぇの? 使ってないんだし」

 その人は少し悩んだようだが、綺麗になりたいのか頷いた。それを受けて俺は、持ってきた荷物の中からバスタオルを出して、その人に渡した。

「え……」

「これ使え。拭くものねぇんだろ? 俺は予備に何枚か持ってきてるから心配ないぞ」

 その人は、「ありがとうございます」と言ってお風呂場に行った。

 その間俺は、風呂場に背を向けてバックの中身を出していた。

 これからここで二週間近く生活するのだから、一日一日に使うものをきちんと整理して分けておかないと、何を使ったのか分からない状況が起きる。それを回避するために、こんなマメなことをしている。

 全部分け終えたのと彼女が風呂場から出てきたの、はほぼ同時だった。

「お風呂、というかシャワーだけでしたが、ありがとうございました」

「おうそうか」

 と言って振り返ったら、一瞬誰だか分からなかった。その理由は、まぁシャワーを浴びたからだろう。っていうか、雰囲気からして全く違かった。

 なぜなら、顔がとても凛としていて、さっきまで焦っていたやつと同じだとは思えなかった。顔だけじゃない。全体的な雰囲気も凛としていた。なんか年上の様な気がした。

「どうしたんですか?」

「いや、人は変わるものだな~と」

「どういう意味ですか?」

「こっちの話」

 俺が誤魔化すと、そいつは首をかしげながら俺を見てきた。

 いたたまれなくなった俺は、

「座れよ。まずはそこからだ」

 椅子に座ることを促した。そいつは黙って椅子に座った。

 座ったことを確認してから、俺はとりあえず自己紹介した。

「俺の名前は八神つとむだ。あんたの名前は?」

「私の名前は…………あれ? 思い出せません」

 え? もしかして記憶喪失? と思い、俺はとりあえず確認を取ることにした。

「あんた、どこから来たんだ?」

 すると、そいつは首をかしげながらこう言った。

「え~と……分かりません。何も覚えていないんです」

 確定。この人は記憶喪失だ。

 とはいったものの、本人に「あなたは記憶喪失だ」と言っても何言ってるのか分からなそうな顔で返ってくることは薄々わかっていたので、とりあえず無難なところで、

「名前、何がいい?」

「名前、ですか?」

「ああ。名前がないと何かと不便だろ?」

「誰のですか?」

「誰って、あんただよ」

 と言って指をさすと、そいつは驚いた。

「私ですか?」

「他に誰がいる?」

 という事で名前を決めることにした。

 三分後。

「かぐや、はどうだ?」

「いまいちですね。もうちょっといい名前が欲しいです」

「う~ん……美咲は?」

「もう少しといったところでしょうか?」

「う~ん……」

 ム、ムズイ。まさか名前を決めるだけでここまで悩むとは。っていうか、さっきから否定ばっかじゃねぇか! ちったぁ自分で考えろ! と思いながら考えていたら、ふとそいつの方からこういってきた。

「私は、八神さんが提案してきた名前もいいと思いますけど、みどり、がいいです」

 今までの俺の提案はなんだったんだぁ!! と内心怒りながら思ってそいつ――みどりを見ながら言った。

「・・・・・・・分かったよ。みどりだな」

「はいっ!」

 と嬉しそうに返事をしたみどり。これを見ると、年はどのくらいなのだろう?と疑問に思ったりするが、触れていいことでもないと本能で知っているため、訊かなかった。

 名前も決まった所で、俺は肝心なことを訊いた。すなわち、なぜ逃げていたのか、だ。

「なぁみどり。訊きたいことがあるんだが」

「なんですか?」

 と訊いてきたので、俺は訊こうとした。その時、ドアの方から声がした。

「すいませーん。誰かいませんかー?」

「!? みどり、こっちだ!!」

 声がした瞬間、俺はとっさにみどりの手を引いて風呂場に駆け込んだ。そして、こう指示した。

「いいか。多分、お前を追っている奴が来てる。だから、ここから出てくるなよ。俺が何とかするから」

 それを聴いたみどりは、一瞬ビクッ、と体を(ちぢ)こませたが、何とか頷いてくれた。

 その間にも「誰かいませんかー?」と何度も言ってきた。なので、俺はドアに向かった。

「はーい」

 と言ってドアを開けると、そこには二人組の男がいた。

「すみません。ここら辺で人とはぐれちゃって探しているんですけど、どこに行ったか知りません? 特徴としては、白いワンピースを着ているんですけど」

 この二人の恰好は、結構カジュアルで、二人ともサングラスをつけているせいか表情が分からない。そう観察しながら、俺は答えた。

「いや、知りませんねぇ~。俺、ついさっきここに来たばかりなので。それに、ここに来たのは久し振りだったので、結構汚くて。今の今まで掃除してたところなんですよ」

「そうなんですか? 大変でしたね。それなら、さっき言った特徴の人を見かけたらよろしくお願いしますね」

 そう言うと二人はそそくさと去って行った。その後ろ姿を見ると、どうも雰囲気としてはヤクザに近いが、ヤクザじゃない気がする。二人の後ろ姿が見えなくなったのを確認してから、俺はドアをロックして、風呂場に向かった。

「大丈夫か~?」

「大丈夫です。でも、これからどうするんですか?」

 風呂場に隠れていたみどりと一緒にリビングに行き、俺達は向かい合うように座った。

「どうするって、まずどういう状況か見極めなきゃいけないから、どうして追われていたのか聴かせてくれよ」

 そういったら、みどりはうつむきながら答えてくれた。

「私もよく覚えてないんですけど……確か、こことは別なところに最初はいたんです。それから……何があったのかは分かりませんが追われて…………気付いたらここに居ました」

「追ってきた奴って、二人組の男?」

「確かそうだったような気がします……すみません。これ以外は覚えてないみたいです」

「いや。これで大分わかった」

「そうなんですか?」

「ああ」

 つまりあの二人にとって見られては不味い「何か」を目撃してしまったため、追われていたと。

 驚きだったのは、最初はここにはいなかったという事だ。だが、ここじゃないにしろ、数日逃げてるだけならここからそう遠くはないと思った。と、ここで、俺はふと気になることを訊いた。

「なぁ、荷物はどうした?」

「え? 荷物ですか?」

「ああ。逃げる時にも荷物は持ってきてたんだろ? だったら、それはどこにあるんだ?」

「それは・・・・・・・・・・すみません。憶えてません」

「いや、いい。ま、何か思い出したら言ってくれ」

「分かりました!」

 と言ったみどり。いい返事だ、と思いながら、俺はこいつをどうするか考えた。

このままここに置いても良いんだが、そうすると、二人組がまたここに来るだろう。かといって、こいつを追い出すと一人で逃げることになる。どうしたものか、と考えていると、一ついい案が浮かんだ。

「なぁ、ちょっといいか?」

「なんですか?」

「俺はしばらくここにいるつもりだが、お前はどうする?」

「私は・・・・・・・・・・」

「ここに居なくても安全なところがあるぞ?」

「え?」

 と不思議そうに俺を見てくるみどり。俺はその顔に苦笑しながらこう言った。

「いいか。この山を下りると旅館があるんだ。そこに行けば多分、あいつらは見つけられないぞ? それに、俺の知り合いがいるからな。信用はできるぞ」

 そう言うと、今度は心配そうに見てきた。

「八神さんはどうするんですか?」

「だから言ったろ? しばらくはここに居なきゃいけないんだよ」

 すると、みどりは俺に近寄ってきてこう言った。

「どうして?」

 この場合のどうして、は、どうしてそこまでしてくれるのか、と、どうしてここに居なきゃいけないのか、の二つの意味にとれるだろう。俺は、後者の方には触れずに言った。

「そりゃ、『助けてください』って言われたら、やらなきゃいけないだろ」

 そう答えたら、みどりは驚いた顔をしていた。そんなに驚くようなことか? これ。

 驚きから戻ってきたみどりに、俺は確認した。

「どうするんだ? 旅館に行くか、ここに残るか。旅館に行けば、殺される確率は無くなるだろうな。ここに残れば殺されるかもしれない」

 あえて脅すようなことを言う。それだけ旅館にいてもらった方が、俺としては楽だからだ。

 するとみどりは、俺の言葉にちょっと怯えながらもこう答えた。

「なら・・・旅館に行きます」

「そうか」

 何やらさびしそうだが、俺としてはこいつの危険が無くなると思うとうれしかった。

「じゃ、迎えに来てもらう様に電話するわ」

 と言って、みどりの目の前で爺さんに電話した。

『もしもし。どうした? 何か異常でも見えたか?』

「それどころじゃねぇ。今はそっちの様子を見てる場合じゃなくなったんだよ」

『どういう事じゃ?』

「説明するとだな、追われてる奴を保護したからそっちに向かわせたい。ついては、あんたのところの黒服を数名こっちに寄越してくれ。男の二人組が近くをうろちょろしてるから、そこには注意してくれ」

『………分かったわい。四名くらいに行ってもらうとするわ。こっちは全員揃った、という報告くらいじゃな』

「急げよ。人の命が懸かってるんだからな」

『なんじゃと?』

 そんな声が聴こえたが、俺は無視して切った。

 ふぅ。このまま待っていれば何とかなるだろう。そう思っていたら、みどりが俺の近くに来ていた。

「どうしたんだ?」

 俺の身長は百八十に近いから、自然と見下ろす形になってしまう。それでもめげないで、みどりはこう言ってきた。

「あの、ありがとうございます。何から何まで・・・・・・・・」

 何だ、そんな事か。俺としては、これぐらいするのが当然なんだけどなと思いながら、

「いいさ。それより、一つ約束してくれないか?」

 と言った。するとみどりが、

「薬草ですか?」

 と言ってきた。どこをどう聞き間違えたらそうなったんだ?

「違う。約束だ。や、く、そ、く」

「約束ですね。なんですか?」

 本当に記憶喪失か? そう思いながら、俺は約束してほしいことを言った。

「旅館に着いたら、俺の事は言うなよ。俺はここに居なきゃいけないからな」

 その言葉を受けてみどりは若干渋ったが、俺の言葉に何か感じたのか、コクンと頷いた。

 よし、このぐらいだろと思ったら、みどりがこう言ってきた。

「そのかわり、私も約束してほしいことがあるんです」

「なんだ?」

「絶対に死なないで下さい」

「・・・・・・・・それ位ならお安い御用だ。ぜってぇしなねぇよ」

 そんなことをしていたら、ドアをノックする音がした。

「誰だ!」

「私だよ。今日君と一緒に来た人だよ」

「そうか。ちょっと待ってろ」

 そう言いながら俺は、みどりを後ろに匿いながらドアに近づいていった。

 ドアを開けると、黒服の人たちがいた。

「君が保護したという人を連れてくるように言われたんだが――ひょっとすると、君の後ろにいる子か?」

 開けたままじゃ何かと不味いので、黒服の人達にはログハウスに入ってもらった。その時にそう訊かれた。

 隠す必要はないので、「ああ。みどり、っていうんだ」と言った後、「記憶がない」とそいつに耳打ちした。

 そいつは一瞬驚いたが、すぐさま表情を消してこう言った。

「我々についてきてもらうが、構わないな?」

 その言葉にみどりは頷いて、黒服たちに連れられるように出て行った。その時に、みどりが俺にお辞儀をしていった。

 お辞儀された俺はというと、なんだか気恥ずかしくなって、手を振って送り出した。

 全員が出て行った後、俺は結局散策できなかったなぁ~と思い、今度は木刀も所持してまた散策に出た。ついでに、ロープも。


 あ、昼食ってね。


ではそう遠くないうちにまた。

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