2-3 監視現場到着
短いですが、区切りが良かったので。
「着いた。ここが合宿先の旅館だ」
「おぉー! すごいな! と、言いたいところだけど、俺には関係ねぇや。それより爺さんは?」
つとむは他の生徒達より二時間くらい早く着いたため、旅館の外部を眺めていた。
「おお、来たか、来たか。お前達もご苦労」
『ハッ!』
「あなたが今年の監視役さんね? 私はこの旅館の女将ですわ。よろしくお願いしますね」
「え? あ、はい」
自分から女将と名乗った人は、年は四十位だろうか。それにしては大分色香があるなぁ~、と他人事のように思った。これが大人の色気という奴だろうか。
と、そんなことを考えていたら、爺さんが俺の荷物を指さしながらこう言った。
「さて、お主には悪いが、さっさとあの山に行ってくれ。そうでないと怪しまれるからのぅ」
俺は自分の荷物を確認しながらこう言った。
「俺がいない方が怪しまれるんじゃないのか?」
「ま、そうだがの」
あっさりと肯定した爺さん。しかし、それだけでは終わらなかった。
「そこは何とかできるからの。さっさと行ってくれ」
俺はこれを引き受けた時点で諦めていたので、それに従った。
そして、俺が山に入ろうとすると、爺さんが最後にこう付け足した。
「そうそう、その山には熊が出てくるからのぅ、気を付けるのじゃぞ」
「ふざけんな!!」
で、山に入ってみたのはいいんだが、深刻な事態が発生した。
どこで監視すればいいんだ?
俺は、この山のどこで普段先生が監視していたのか分からないので、思いっきり悩んだ。
そしてある結論に至った。
毎年監視役がいるなら、何か目印があるんじゃないか?
そう思って山の中を歩いていると、案の定目印が見つかった。いや、目印なのだろうか。
だってそれは、
明らかに人為的に作られた、
ログハウスだったのだから。
「……」
俺は迷わず爺さんに電話した。
『なんじゃ? もう着いたのか?』
「多分。一つ訊きたいが、ログハウスが建っているんだが、この場所で合っているのか?」
『そこから旅館が見えればいいんじゃ。どうだ、見えるかのぅ?』
「・・・・・・・・・・あ~、見える、見える。大丈夫」
『そうか。ならよろしくのぅ』
と言って切られた。しかし、誰がつくったんだろう? このログハウス。そう思いながら、不要になったテントと寝袋をどうするか、俺は考えた。
しかしそれは無駄だと思ったので、とりあえずログハウスに入ることにした。
「うわ~、汚ねぇな。掃除してねぇだろ、これ」
ログハウスに入った時の第一声。俺はもう顔をしかめるしかなかった。
これは掃除するしかないか~、となまじ暇な時間があったのでその時間の潰し方が決まった。
それから二時間。
俺は掃除道具を探し、水道が通ってることに驚き、掃除をしていた(ログハウス内を)。
「ふぅ。これくらいでいいだろ。これで荷物がここに置ける」
大体綺麗にして(外と中じゃ一目瞭然)、自分の荷物をこの中に置いた。
改めて中を見てみると、テーブルが一つ、キッチンあり、風呂あり、トイレありと、なんだか至れり尽くせりの状態だった(使い方が間違っている気が、しないでもないが)。
しかし、なんで鍵がかかってなかったんだろう? そう思ったが、今は相当楽になったと感じたので、深くは考えなかった。
補足すると、つとむが見つけたログハウスは山の中腹辺りにあり、旅館からは見えないがこっちからは見えるという、監視には好条件な場所だった。
一方、つとむから電話を受けた学園長は、何やら考えていた。
「どうしました?」
「あの山にログハウスなんてあったかのぅ?」
黒服の人から尋ねられた学園長が答えた時、女将さんが驚いた顔をしていた。
「え? ご存じなかったのですか?」
「ん?」
「あの山に熊が出てきて以来、山の監視という事でログハウスが建てられたのですよ。もっとも、ほとんど使われなかったみたいですが」
と笑いながら言う女将さん。それを聴いた学園長は、苦い顔をしていた。




