2-2 拘束移動
タイトルの字、間違ってはいませんよ?
一方、集合時間がつとむより二時間くらい早かった人たちは、バスの中で騒いでいた(ちなみに、高速道路を走っている)。
もっとも、静かな人たちもいたが。
その一人であるいつきは、窓を見ながらこんなことを呟いていた。
「つとむはいつものように遅刻だろうなぁ。普通なら電話が来るんだけど……どうして来ないんだろう?」
それはつとむの仕事(監視役)の関係上、集合時間がみんなと違っていたからである。
しかし、いつきはそんなことを知らないので(知っていたらまず間違いなく、学園長を問い詰めていただろう)、なおも愚痴は続く。
「大体、昨日のあの態度はなんなだよ。僕だって悪いとは思ったけど、話しかけるなって。……もしかして、嫌われた?」
愚痴を言っていたら、ふと自分にとって最悪な考えが頭をよぎった。
そんなことはないはず、と思っていても、最悪な方を考えてしまうのは人の業だろうか。
いつきもその方向を考えてしまっていた。
「確かに嫌われるようなこと沢山してたけど。・・・・・・はっ! もしかして、ついに耐えきれなかったのかな? その結果ああいう態度に出たんだとすれば……」
何やら納得してしまったいつき。つとむがあの態度に出た本当の理由は、いつきにこれ以上頼りたくないからなのだが、最後に言われた言葉がよほどショックだったのか、すっかり忘れていた。
さらに別のバスでは。
「八神君、遅れてくるんですか?」
「ああ。どうもそうらしい」
長谷川光は先生に、つとむについて訊いていた。ちなみに、先生方はつとむが監視役に間違ってなってしまったことを知っており、その口裏合わせを(学園長の指示で)していた。
その言葉を聴き長谷川はホッとしていたが、一つ気になることを訊いた。
「その理由はなんですか?」
その言葉を受けた先生は、内心動揺しながらもなんとか答えた。
「確か……自転車が壊れたからじゃないのか? あいつ、自転車通学だろ? 荷物も多いし」
「そうですね。……でも、それならどうやってここまで来るのですか?」
納得したのは純粋だからか。しかし、それでもまだ質問はあったようだ。それに対して先生は、『待ってました』と言わんばかりに答えた。
「学園長の手配した車で来るそうだ。だから、多少遅れるだろう」
「そうなんですか。じゃ、来れるんですね」
と嬉しそうに言う長谷川を見て、若干の罪悪感を感じながら、先生はため息をついた。
同じころ、別のバスでも似たような話をしていた。
「そうなんですか。でも意外ですね。八神君なら集合時間の一時間前くらいに来てそうなんですけど」
と言ったのは白鷺美夏。この印象は確かに正解だが(余裕を持って行くのに、結局はギリギリになってしまうことが多い)、この場合は不正解だ。どうやら、生徒会長でも監視役の事は把握していないらしい。
つとむが、もはやこの合宿に参加しないも同然だと知らない白鷺は、先生にこう訊いた。
「あとどれくらいで着きますか?」
「そうですねぇ……二時間くらいじゃないでしょうか」
「その間は暇ですねぇ。何をしましょう?」
と考えながら窓のほうへ目を向けた。すると、明らかに法定速度を無視したスピードで走っていくポルシェが、バスの横を通り過ぎた。
その光景をみて、随分急いでいますねぇと思ったのは、彼女の性格ゆえだろうか。
そのポルシェ車内。
「おい!! なんだこのスピード! 明らかに法速無視だろうが!!」
「それは警察とは示談済みだ。我々は事故を起こさない。それと、君には早く着いてもらわないといけないと、朱雀さまの話だ」
俺は今、大変貴重な体験をしているのだろう。なぜなら、
多分、これからは縁がないであろうポルシェに乗って、
黒服の人たちに囲まれて、
スピード違反の真っ最中なのだから。
・・・・・・・・・・・・・・・何、この状況?
俺が目を覚ましたのは殴られてから十分後。俺はなんでこんなことになったのかと考えながら辺りを見渡してみると、黒服の人達と目が合った。その直後、
「もう起きたようだ。予想より早い。だが、好都合だ。リミッターを外して構わない」
と言ったことにより、穏やかだった走りが、突如レースのような走りになった。
という事があり、先の場面に戻る。
「どういう事だ!?」
「監視役という仕事のため、君は生徒より早くか、遅くに着かないといけない。しかし、朱雀さまは君の荷物を持っているので、早く着かないといけなくなったという訳だ」
「じゃぁ爺さんはもう旅館にいるんだな!?」
「いや、旅館にはいない」
「は? じゃぁ、俺の荷物はどこにあるんだよ?」
「それは朱雀さまが預かっている」
「じゃぁ、爺さんはどこに居るんだ?」
「まだ旅館についていないだけだ。我々や学園の生徒よりも早くから、朱雀さまは向かっておられる。もう少しで朱雀さまの方は着くはずだ」
「そうかい。なら心配いらねぇな。……俺は俺のことを心配するか」
「?」
と黒服の一人(さっきまでつとむと会話していた人)が疑問に思った時、つとむが窓に映る光景を見ていた。
「あ。あのバス、うちの学校が貸切ったやつだな。俺達よりだいぶ早く出発したみたいだが、やっぱりこのスピードのせいか。あ。バス追い抜きやがった」
と言いながら窓を見ている姿は、高校生というよりは子供みたいだった。
ここで、黒服の一人に電話が掛かってきた。
「もしもし」
『今どこらへんじゃ?』
「今はうちの学校の生徒を乗せているバスと同じところにいます。予定より我々はちょっと早いですね」
『そうか。なら、そのスピードを維持しろ・・・・・と言いたい所じゃが、そろそろ燃料が切れるのではないのか? サービスエリアで一息入れて来たらどうじゃ。もちろん、バスとは違うところでじゃ』
「わかりました。では」
と言って電話を切った。その時に、つとむがこちらを見ているのが分かった。
「何か用か?」
「いや、サービスエリアで止まるんだよな? バスとは違う」
「聞こえてたのか?」
その人は驚いた。学園長の指示した声は決して大きかったわけではない。それなのにも関わらず、つとむはその声を聴いたのだから。
「ああ。別に大したことじゃねぇけどよ。それ位なら聴こえる」
と言ったらまた、つとむは窓の景色を眺めていた。どうやら、旅行にはあまり縁がないと見える(家族旅行はいったことがない)。
彼は一体どのような環境で育ったのだろう? と黒服の人達は疑問に思いながら、バスとは違うサービスエリアまで、ほぼブレーキをかけずに走って行った。
サービスエリアで燃料補給をして、それが完了したら再び走りだした。
無論、スピードはさっきのままで。
「またかよ!!」
「これぐらい見当ついてたんじゃないのか?」
「そりゃ、ついてたけどよ・・・・・・・・・」
と、納得いってない様子。
だが、その間にも目的地には近づいていた。
そのころ、再びバスでは。
一通り(?)愚痴を言ってすっきりしたいつきは、普通に女子たちと会話していた。一応、本宮して社交的な態度をとっているが、本心かどうかは分からない。
そして、女子の会話の定番と言ったら好きな人だが、この場で話される事は無く、合宿先の旅館で話すこととなった。
そんなことがいつの間にか決定していて、いつきは内心焦っていた。
(どうしよう。何故か話題があんなことになっちゃった! これは僕も言わないと駄目なんだろうか?)
こう考える時点で、わりと普通の会話ができていない証拠だった。
また、慎が乗っているバスでは。
全体的に見れば騒がしいが、ある一帯が物凄い静かだった。
いわずもがな、新妻甲斐の周辺である。
彼は、まぶたを閉じながらこんなことを考えていた。
(八神、か。あいつには悪いが勝たせてもらう)
これはこれでツッコミどころ満載なのだが、とりあえず妥当なのは、彼はこの合宿には参加しない、あたりだろうか。
また、別なバスでは。
「きょ、今日から二週間かぁ……。あの人に言われた通りの物を持ってきちゃったけど、どうしよう?」
一人早くも後悔しているものがいたとか。
PVが大体平常通りに戻ったことに安堵してしまった私。卑屈になっているのか自己評価が正確なのか分かったものじゃありません。




