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アイドルッ!  作者: 末吉
第二幕 第一話~合宿へ行く前の話~
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1-3 事情説明

普通に参加できないのがこの主人公

 午後の一コマ目が終わり、休み時間になったころ。いつもならいつきだけと会話しているのだが、今日は違った。いや、今日も違った、の方が正しいか。その理由は、

「それでなんですけど、ここの台詞ってどういう感情で言えばいいんでしょうか?」

「いちいち俺に訊くなよ。大体、お前の方が俺より慣れてるだろ。人に頼るのもいいが、たまには自分なりの答え出せ」

「うっ! ・・・・・・じゃ、せめてここだけでもお願いできませんか?」

 光が俺のところに来るのである。

 最近(と言っても昨日からだが)、光は俺のところに台本の読み方について訊いてくる。

 俺は、最初は先生に相談しろと言っていたのだが、それを無視して訊いてくるので、今では(と言っても昨日から始めたんだが)面倒だと思いつつ俺なりの考えを言っている。

 ちなみに、俺は本当に大変不本意ながらやっている。

 何故かって? そりゃ、この「相談」が終わるまでいつきはジト目でこっちを見てくるし、他の奴ら(主に男子)は今にも俺に攻撃しそうな空気を醸し出している(ただし、俺にだけ分かる程度の)。さらに、たまに親衛隊が出てくるんだからもう堪ったもんじゃない。生きた心地がしない、ってこういうことを言うんだろうな。

「自分で考えろ」

「ひどいですよ! 私なんてこれくらいしか接点ないんですから……」

「は?」

「い、いえ! なんでもないです!」

 ? 何をそんなに慌てているんだ? そこまで必死に否定して。

 …………分からん。

 と、ここまで慌てていた光がいきなり話題を変えた。その話題はもちろん、

「そ、そういえば、もうすぐ合宿ですね」

「楽しみなのか?」

「つとむ君は楽しみじゃないんですか?」

「生憎と。バイトができないから」

「それだけじゃないですよね」

「ま、そうだけどな。どうしてそんなに楽しみなんだ?」

「だって、先輩方に教えてもらえるんですよ! テレビに結構出てる人たちからの話も聴けるんですからいいじゃないですか! そういうつとむ君はどうして乗り気じゃないんですか?」

「先のとおり。あとは……面倒」

「何事も面倒だ、と言ったらできませんよ」

「安心しろ。これだけだ」

「堂々と言わない方がいいと思いますけど」

 と話していたら、休み時間が終わり、二コマ目が始まるくらいの時間だった。

 光は、「また来ますからね!」と言って自分の教室に戻った。

 俺はというと、

「随分楽しそうに会話していたね。最近思うんだけど、君は僕と話すのが嫌なのかい?話す時間が減ってるような気がするんだけど?」

 いつきになじられていた。

「いや、変わらないだろ。むしろ今までの方が結構話しこんでいたような気がするだが」

「どうせ君は頼るだけ頼ってサヨウナラってするんでしょ?」

「そこまで言うのか……なら分かった。もういい。頼らん。という訳で、これからはあまり話しかけるなよ」

「え?」

 俺の言った言葉が意外だったのだろうか、いつきが俺を驚いて見たが、先生が来たので慌てて前を向いた。

 いつきが言った言葉にも一理あったので、俺はこれからいつきに頼るのは止そうと考えての言葉だった。普段から頼りっぱなしだと俺も思っていたから、その時のいつきの言葉はいい機会だと思った。これからはいつきに頼らずにやる。俺はこの時そう決めたのだった。


 放課後。三コマ目の終わりごろに、先生が「学園長がお呼びだから学園長室に行って来い」と言われたので、電話でマスターに「ちょっとバイトに遅れる」と言っておき、俺は学園長室に向かった。いつきは、二コマ目の休み時間に話しかけてきたみたいだが、俺が無視してるのが分かるや、さっさと帰って行った。

「邪魔する」

「普通に言えんのかね?」

「言えるが、言わない」

「やれやれ」

 と首を振る爺さん。

 爺さんの説明? いらんだろ。

「儂だけ扱い酷くないかのぅ?」

「あんたは『爺さん』で充分だろ」

 まったく、爺さんの説明だろ。カッタリィ。

 俺を呼んだ爺さん。その正体は、この学園の学園長。名前は、鯨井(くじらい)朱雀(すざく)。どうも役者としては現役らしい。観ないから知らん。

「随分簡単じゃな」

「これ以上知るか」

「そうじゃな」

 と笑う爺さん。忘れそうになったが、呼ばれた用件はなんなんだ?

「用って何だよ?」

「ふむ。それなんじゃが…おや? 本宮の子はどうしたんじゃ? いつも一緒にいるじゃろ?」

「あいつは今日先に帰ったよ。それに、いつもあいつと一緒にいるわけじゃない」

「そうか。さては、喧嘩でもしたのか?」

「喧嘩、か?とりあえず頼ることはしないと決めたわけだが」

「ま、それはおいとくかのぉ」

 と、散々いつきについて訊いてきた爺さんがいきなり話題を変えた。

「さて、お主を呼んだのは他でもない、明日から始まる合宿の話なのじゃが」

「金でも払ってなかったのか?」

 だとしたら俺にとってはラッキーだ。気にせずバイトができる。

 そう思っていたら、爺さんが横に首を振った。

「違うわ。お主のパンフの準備物にテントとか寝袋とか書いてあったのではないか?」

「書いてあったけど、それが? 一応準備はしたが」

 どうやら俺が今日疑問に思っていたことに対するものだった。なので、俺は注意深く聞いた。

「準備したのか。よく全部揃えられたのぅ。それもおいといて。今はお主が、それらが書かれたパンフも持っていることが問題なのじゃ」

「? どうしてだ?」

「それは教師用なんじゃよ。毎年、この合宿は教師を山に一人だけ野宿させて旅館の監視をするという方針だったのじゃが、何を間違ったのかそれが生徒の方と混じってしまったのじゃ」

「ということは?」

「大変申し訳ないんじゃが、お主にその監視役をしてもらえぬかのぅ」

「……は? マジで?」

「マジ、じゃ」

「ざけんじゃねぇ!! 今からは無理なのかよ!!?」

「無理じゃ。もう日がないどころではないのじゃ」

「……もういい。が、爺さん。一つ訊きたい」

「なんじゃ?」

「それをやってる間は他の奴らに見られちゃまずいんだろ?」

「昼間はの。夜だったら、顔さえ隠せば何とかなるからの」

「そうなのか。ん? ということは、だ。合宿全部出なくて良いってことか!」

「よくみるんじゃよ。一つだけお主にも参加してもらわなくてはいけないものがあるんじゃ」

「は? んなこと言ったって、みんなにばれちゃいけない、昼間は会えないで何に参加させるんだよ?」

「肝試しじゃよ」

「夏の風物詩を五月にやるんじゃねぇ!!」

「ちなみに脅かすのは主と儂らじゃ。期待しておるぞ」

「ざけんじゃねぇぇぇぇ!!」

 何だこの学校。季節感無視かよ。ヤベ、泣きたくなった。

 そう思っていると、爺さんが確認するようにこう言った。

「で、やるのか?」

「――――やるよ。仕方ないが、サボれることに対してはありがたい」

「まったく、主の演技力を合宿で更に上げようとしたんじゃがのぅ」

 そんなこと考えてたのか、この爺さん。

 そう思ったがそろそろバイトの行かなくちゃいけないので、さっさと引き上げることにした。


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