1-2 緑川円花
やっと40話……前回投稿した時はこの時で70いってた気がしなくもないんですがね
昼休み、食堂。しりとりをやっている途中で集合をかけられ、俺達はそれで終わりにした。その後、疲れてる奴らを尻目に俺は食堂まで急ぎ足で行った(甲斐は弁当派だった)。
甲斐ってどこのクラスだっけ? と思いながら、券売機でいつものを買い、おばちゃんたちと軽く話しながら料理を受け取り、適当に四人くらい座れる席が空いていたのでそこに座った。
そしてしばらくすると、
「早いね、つとむ。どうしてだい?」
「アニキ、見学者が何であんな速さで行けるんですか。反則ですよ」
いつもの料理を持ってきたいつきと、俺に対する不満を言いながら来た菊地慎が席に座った。
いつきが女子だと言ってからまだ一日しか経ってない。普通の男子ならまだ女子の制服を着てることに違和感があるのだろうが、俺はそんな違和感はなかった。
なぜかというと、昨日言われた時点で今まで疑問に思っていたことが氷解したからだ(いつきの気持ちに対しては謎のまま)。
それに、いつきの制服姿はどっちでもよかったというと語弊があるが、女子の制服の方が似合っていたと思ったからだ。
無論、口には出さない。そんなことを言ったら、何か勘違いをされそうで怖い。
そんなことを思いながら料理を食べていると、慎が突然こんなことを訊いてきた。
「そういえば、アニキはなんで新妻さんと話してたんですか?」
「ん? あいつから話しかけてきたんだよ。それがどうしたんだ?」
と、慎に訊いたら食べながら説明してくれた。
「あの人、クラスでは結構浮いてるんですよ。誰も寄せ付けないというか、圧がすごいんす」
「俺は感じなかったが?」
「そうなんすか? あと、ここだけの話なんですけど」
「ん?」
説明していた慎の声が小さくなった。何か聞かれたくない話なんだろうか?
「ここだけの話、彼はヤクザの若頭らしいんすよ。迎えにも車で、柄の悪い人たちが新妻さんを乗せていく現場を何度も目撃されてるんです」
「へ~」
慎の説明を聴いた感想はまさに、へ~だった。ヤクザだったら別に怖くねぇし。っていうか、少なくとも親父以外は男の中で怖いと思える奴がいない。
そんな俺の言葉を聴いてか、慎が何か言おうとしたがいつきがそれを遮った。
「新妻君か。僕は、君と接触しないだろうからあえて調べなかったけど、今日中に調べないと駄目かな。その話の真偽を確かめたいから」
「お前はもしかして、俺と接触する奴をいちいち調べてるのか? なんだってそんな真似するんだよ」
「へ!? そ、それは……」
普通に訊いただけなのに、いつきが狼狽えた。それを見た慎は、「アニキって分かってないんすか?」と呟いた。なんのことだろうか?
ようやく落ち着きを取り戻したのか、いつきが咳払いをして話を進めた。
「と、とにかく、僕は新妻君を調べるから。いいね?」
「俺に確認を取るな」
とのんきに食べていたら、
「あの、席空いてますか?」
と声をかけてきた奴がいた。俺達は自然にその声の主に向いた。
その子は、
どこか自信がなさそうな雰囲気を出しており、
髪のせいで顔が分からないが、可愛いの部類に入るだろう。
そんな女子だった。
「一人か?」
慎が見惚れて(?)いて声を出さず、いつきはすぐさま食べる方に集中してしまったため、俺が訊くしかなかった。
そんな気も知らずその子は、
「は、はい。そうです。今日は久し振りに食堂を使いたいと思ったので来たんですが、どこもかしこも席が埋まっていたので…………」
と答えてくれた。
「いいぜ。どうせ一つ空いてるからな」
と俺が言うと、その子は嬉しそうにお礼を言って、空いてる席に座った。
惚けたままの慎を何とか戻し、全員で食べていたらふとその子の紹介が始まった。
「あの、ありがとうございます。私の名前は緑川円花といいます。一年生です。皆さんの名前をお聞きしてもいいですか?」
「僕の名前は菊地慎です! 学年はあなたと同じです! 趣味は剣道と読書です!!」
「そ、そうですか。ところでほかの二人の名前は何と言うでのすか?」
と熱心にアピールする慎。それとは対照的に、俺といつきは普通の自己紹介をした。
「僕の名前は本宮いつきで、同じ一年だよ。言葉遣いはこれで定着しちゃったから、これで勘弁してくれないかな?」
「俺の名前は八神つとむだ。お前と同じで一年」
俺の名前を聴いた時、緑川がちょっと驚いた。
「どうした?」
「あ、いえ……なんでもないです」
と言って、それ以降緑川は話さなくなった。それを気にせずに、話題は合宿の話になった。
「合宿の舞台って、確かここから離れたところっすよね?」
「そうだね。田んぼや畑が近くにあるんだろうね」
「のどかそうな所だな。ところで、お前たちの準備物にテントや寝袋はなかったか?」
「いや、そんなものなかったすけど」
「僕もだよ。言っとくけど、僕はパンフに細工はしてないからね」
「そうなのか。じゃ、どうして俺のところに書いてあるんだろう?」
と悩む俺達。この会話を聴いていた緑川は、何故か落ち着きがなかった。
「どうしたんだ? さっきからキョロキョロして」
「え! そ、それは……そ、それより! 皆さん、私たちの事見てませんか?」
言葉を濁しただけでなく、強引な話題替え。
あまりにも怪しかったが、ここは見逃すことにした。
「・・・・・ん? いつもだろ?」
「そうだね。僕達はいつも見られてるんだよね」
「僕、皆さんみたいに感覚が鋭くないのですが、いつも注目されてますよね。これもアニキのご活躍のおかげでしょうか?」
「そうだよね。学園内外問わずに様々なことを解決してるもんね。僕としても鼻が高いよ」
「いや、お前のせいだろ」
と話していたら、もうすぐ授業が始まる時間だった。
「おいやべぇ! もうすぐ授業始まるぞ! 急げ!」
「待って下さいっすよアニキ!!」
「あ、待ってよつとむ~」
「え!? はわわわ! い、急がなきゃ!」
そう言いながら、俺達は食器を戻し、食堂を後にした。
…………結局、緑川の目的は分からなかったな。
「あ、あの人が八神つとむくん…………見た目アレだけどいい人そうだったなぁ。そんな人にやるなんて気が引けるなぁ」
やっぱり一気に増えるなんてうまい話早々ありませんねー




