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アイドルッ!  作者: 末吉
閑話・俗に言う昔話
35/205

本当に最初の出会い

昨日今日で書き下ろしました。おかしな点があったらよろしくお願いします

 長谷川光はモデルをやっていた経緯が加味され学園に入学した……と、本人は思っている様だが実際は単に学園長の目に留まったからである。ぶっちゃけこの学園の――特に彼女が在籍する学科の大半はそんな感じである。


 彼女は姉が一人住んでいる部屋に居候してモデルの仕事をしていた。スカウトされた場所は違うが、本拠地が姉が働いている近くだったために転がり込んだのだ。


 まぁそんな彼女の内情は今のところ関係ないので多くは語らないでおくが、ともかく入学式の彼女はとても不安になっていた。


 モデルという仕事でマネージャーがついていたため今回スミレ学園に入学した話をしたところ『仕事の幅が広がるわね』と言われて慌てたのは記憶に新しい。


 ともかくそんな臆病な彼女は、入学式の日に周りの人がやる気満々でいる姿が羨ましいと思いつつ流されるように歩いて割り当てられた教室へ向かった。


 割り当てられた教室で自己紹介を軽く済ませ、周囲の生徒に驚きと関心を持たれたことに怯えながら入学式をやる体育館へ向かった。


 騒がしい列。それもそうだろう。何せ彼らはまだ中学から卒業したばかりなのだから。

 その列に紛れて歩いていた彼女だが、騒がしい中でもふとある声が聞こえた。


 その声は周囲の騒がしい会話のように弾んでいるわけでもなく、かといって感情を押し殺したような背筋が凍る声でもなかった。


 聞いた言葉はただ一つ。たったそれだけなのに、彼女の耳にやけに残った。


 ――さっさと帰りたい。


「え?」


 一瞬立ち止まりそうになった彼女だったが流れを止めることができずそのまま歩いていく。その間に彼女は聞いた言葉を復唱し考える。


 今、帰りたいと言った? 男の人だというのは分かったけど、気怠そうな声で帰りたい? 一体どうして?


 順番に割り当てられたクラスの席に座ってからも彼女は考えようと思ったが、入学式が始まってしまったためにそちらの方に集中した……かったが、やはり耳に残った言葉に思考が行ってしまう。


 この学園の特にこの学科は競争率が高い。その前提条件が頭に残っているからか、ついつい『帰りたい』の意味を考え込んでしまう。


 条件とはしてとてつもないこの学園に不満があるのかやそれとも家の用事があるのか。他にも色々な考えが浮かんでは消えていたところ、『続いて、本学年のアイドルを発表いたします』というアナウンスがあったために現実に戻った。


 アイドルとは優先的に仕事を回してもらえる女生徒の事。それも報酬の払い方など色々待遇が違うらしい。そして、一流の女優になり、なおかつこの学校の卒業生の全員がアイドルに選ばれたという事実がある……それが彼女の認識だった。


 合格できただけでもよかった彼女にとって私は絶対にないなと思いながらその発表を待っていると、『今年のアイドルは長谷川光さんです』というアナウンスが聞こえ、彼女の頭が真っ白になった。





「へぇ、良かったわね。父さん達も喜ぶんじゃない?」

「他人事だと思って! 私本当に無理だからね!?」

「まったく光は……こういう時にはいらないプレッシャーに負けちゃって……」

「だ、だって!」


 その日の夜。仕事が定時で帰れた姉と一緒に夕食をとりつつ自分がアイドルに認定されたことを報告すると、案の定他人事のように言われて項垂れることになった。

 昔からの彼女を知っている姉にとってはもっと堂々としても罰は当たらないと思っているのだが、当の本人が涙目になって子供のようにいやいやと首を振っているのだからどうすることも出来ずため息をつく。


「……で? その事を事務所のマネージャーに報告は?」

「…………『良かった。これは絶対にあなたの人生のプラスになるわ!』って…」

「普通はそうやって喜ぶものよ……」


 この子は肝心なところで変に気を遣うのがなければね……と遠い目をする姉。そんな彼女とは対照的に、光は「他の人に出来ないのかな!?」と言い出す始末。


 そりゃ無理でしょと一刀両断した彼女は、この子のこれを直してくれる人が現れてくれないかなと切に願った。





「え? ドラマの助演……ですか?」

「ええ。アイドルに選ばれたあなたの最初の仕事よ。どうする?」

「他に……あるんですか? こう、目立たないようなお仕事……」


 翌日。

 職員室に呼ばれた光は担任に仕事の紹介を受け困惑した。

 アイドルがどういった存在かは入学時のパンフレットで読んで知っていた彼女だったが、いきなり準主役といっても過言ではない役を紹介され非常に申し訳ない気持ちになっていた。

 それを見た担任は髪を掻き揚げながら「まぁ自信がないのは分かるけど……」と気持ちを汲んでから言った。


「いい? あなたに自信が無くてもうちの学園のアイドルという称号はこの業界ではブランドなのよ。例年その名に恥じぬようにみんな頑張って卒業してきた。その重圧はものすごいけど、その分あなたに対する協力は惜しまない。他の生徒もそうだけど、あなたという目標が活躍してほしいの」


 長年教師として、女優として担任の彼女は目の前にいる今年のアイドルを見て本心を語れば頑張ってくれると経験で見抜いていた。だから彼女は偽りなく本心を光に教えた。

 それを聞いた彼女は担任の言葉に渋々ながらも納得し、「そういうものですか…」と引き下がった。


 まぁこれからその自覚を持ってくれればいいわね。そう長い目で見ることにした担任は「まぁ今はもらった役を精一杯演じていけばいいわ。アイドルという称号を気にせず」と言葉を掛けた。


 光は「はい……」というしかなく、その助演の仕事はなし崩し的に決まった。


 光が職員室を出て行った後。


 昼食を食べようと担任の教師が弁当を広げたところ、隣の先生がはぁとため息をついて気落ちしている姿を見て声をかけた。


「どうかしたんですか?」

「ああ、ちょっとうちのクラスにとんでもない問題児が来ましてね……なんでこの学園に学園長が入れたのか全く分からないんですよ」

「問題児……ですか?」

「はい……見た目が完全に不良というだけならまだ可愛かったんですが、あいつ……演技の授業の説明を聞かず寝てたんです」

「そういう生徒ならいくらでもいますが……見た目が不良というのは珍しいですね」

「いやまぁ……それだけならいいんですけどね」

「?」


 何故か遠い目をし出したので首を傾げると、隣の男子教師は頭を抱えて言い出した。


「教師に対して敬語は使わないわ、説明は寝てたのに完全に同じこと言われるわ、苛ついたから実践させたら余裕でクリアするわ、もう完全に興味が無くなったのか話振っても無視するわ……あー考えただけでもイライラしてきた!!」

「それは……」


 どうなのだろう? と男子教師の評価を彼女は考える。

 敬語を使わず、話を無視するというのは確かにマイナスではある。が、説明を完全に復唱できる能力と、身体能力はプラスと評価してもいいのではないかと。

 少し気になった彼女は、盛大にため息をついている隣に「その生徒の名前は?」と訊ねると、こう返ってきた。


「八神つとむ……入学式の日の自己紹介で『ただ過ごすためにこの学校に来た』とのたまった、何考えてるか分からない奴ですよ」






 それから数日が経過した。


 クランクインして撮影が始まった光は、学校へ行くこともなく撮影現場で一生懸命、初めてながらも頑張っていた。

 午前中で終わったら次は学校へ行って授業。午前中で終わらなかったらそのまま帰宅。その繰り返しで過ごしており、出来なかった勉強は自宅でやっていた。


 現場の雰囲気や感触も上々。先輩の女優からも声援を受けるなどした光は、その期待に応えるよう頑張らないとと気合を入れていた。


 だが、心のどこかでは不安だった。




 入学して初めての土曜日。

 あっという間に過ぎた日々に驚きながら、今日は外のシーンの撮影をやるということで監督が指定した場所ショッピングセンターに来ていた。


「スゴイ人ですね……」

「そうね。ここに集まっている人達はみんなあなたみたいな女優を見に来てるから」

「わ、私はまだ女優じゃありませんよ桐子さん!」

「何言ってるのよ。うちの事務所じゃ光ちゃんだけこうやってドラマに助演として出演してるのだから胸張りなさい」

「もう!」


 さばさばというマネージャー――桐子の言葉に膨れっ面で返すとおかしそうに笑われてしまった。


「ま、なんにせよこのドラマが終わるまで女優であるのだから頑張りなさい」

「……はい」

「そんな顔しないの。現場では元気でやってね」


 そう言って先に車から降りてしまったので、光はため息をついて車から降りることにした。



 そうして撮影が始まった。それを見ようとする野次馬との境界線を主張するロープは張り巡らして。

 最初の方は光も多少怒られながらも頑張って演じていた。しかし、野次馬というモデルの時と同じ存在でありながら圧倒的に違う数に徐々に集中力が途切れミスを連発。それを見かねた監督は、いったん休憩を入れることにした。


 他の出演者に気を使われながらため息をついて駐車場の一台の車の前に一人座る光。蹲って泣きたいと思いながら顔を伏せていると、この現場の近くから「待ちやがれ!!」という鬼気迫る叫び声が響いたため反射的に立ち上がった。


 この声はどうやら撮影現場(ショッピングモール前)の方から聞こえていたようなのでそのまま向かってみると、「動くなぁ!!」と脅すような叫び声が聞こえたので反射的に近くの車に隠れてゆっくり現場の方を見る。


 すると、包丁を持った男が主演女優の人を人質の様にとって周囲を威嚇していた。

 対峙していたのは一人の男子。

 見えているのが若干背中で良く分からないが、身長は百八十近くの中肉中背、目つきは鋭く、黒髪だが後ろ髪が首の真後ろから段々に短くなっているぐらいだった。


 とんでもなく自然体に佇んでいる彼の背中を見ながら状況を窺っていると、「こ、これ以上近づくんじゃねぇ! 近づいたらこの女殺すぞ!!」とナイフを彼に向けた。


 それが合図だった。


 彼は、その向けてきた腕を見た瞬間何かを呟いてその男の顔面を思いっきり殴り飛ばした。

 あまりの速さに光はおろか周囲の人たちも呆気にとられていた。

 電光石火の早業という言葉がこれほど似合う一瞬はなかった。なにせ包丁を彼に向けたと同時に向けた男が吹き飛んで柱に激突したのだから。持っていた包丁がその場に落ちて。


 人間の限界を超えたその動きに言葉を全員失くしていると、殴った男の人は人質になった人に頭を下げて一言二言言ってから「撮影の邪魔してすいません! ちょっとこっちの監督の都合で撮影場所被ってしまったようで!!」と周囲に説明してから包丁を白いハンカチで拾ってから携帯電話でどこかに掛けて柱に激突した男に近づいて持ち上げ、そのまま立ち去ってしまった。


 そのあまりにも堂々とした振るまいと度胸に彼女はとても感動した。




 ちなみに後日。撮影に乱入してきた男が実は通り魔の現行犯で、被害者は幸い一命を取り留めたという新聞を見て、あの男の人は自分達を俳優と錯覚させたという演技力に衝撃を受けた。










「――っていう話です! つとむさん憶えていますよね!!」

「どうなんだい?」


「あー……訂正するなら、あいつ通り魔じゃなくて殺人未遂だぞ? 妹主導の買い物に行く途中に悲鳴が聞こえたら腹刺されててよ、しゃぁないから犯人追うために妹に救急車呼ばせて追いかけてたんだよ」

「やっぱり覚えていたじゃないですか!!」


「お前がいたなんて知らねぇよ。車に隠れてた奴いたなぐらいで興味なんて別段なかったし、俺が直接見たわけじゃないだろ」

「それはそうですけど! あの時見たうっすらとした横顔が助けてもらった時に一致してたんです!!」


「ふ~ん。まぁ出会いとは言わないだろうけど、本人にしてみたら出会いなんだろうね」

「はい!」

「もう別にいい。さっさと次にしようぜ」


「次って……いよいよ僕達の話?」

「いんや、もしもシリーズだってよ。なんかもう自重する気ないらしい」

「ネタに走ろうってわけだね」

「……あれ? ひょっとしたら私でないんじゃ……?」

「かもしれないな」


「えぇ!? そ、それは嫌ですよ!!」

「嫌って言われても作者の野郎がこうするって天の声で言ってるし……」

「それに、僕達の話でも結局君は出てこないからね?」

「……あ」


「そんな訳だ。次は何でもアリのもしも~~シリーズ」

「次、いってみよー!!」




「…………ネタ、古いな」

「え? 知ってるんですか?」

「……」

ま、文章の方はうまくなってないんですけどね…

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