5-6 頑張れ
今日は一幕終るまで更新しましょうかね……
「あなただったんですの、本宮のものは」
「久し振りですね。まさかこんなことでお会いになるとは。偶然って怖いですね」
「図々しいですわね」
話しているのは、いつきと篠宮ルカの二人。両方とも、当家の代表としてきている。
「それで? 妹を返して下さるんですね?」
「そうですよ。そんなに身構えないでください。何も要求しないんですから」
「そこはありがたく思いますわ。……レミ、来なさい。帰りますわよ」
「ハイお姉さま」
「それではさようなら」
そう言って二人は帰ろうとしたが、いつきの方から電話が鳴った音を聴いた。それを気にせず帰ろうとしたら、
「えぇ!! つとむが事故!!? ……うん、それで状況は? ・・・・・・って言うか、自分で詳細話さないでよ。え? もう無理? 救急車とパトカーは? あ、妹さんに呼ばせてる? 運転手の人の怪我はないんだね。え? 君の顔を見て顔が真っ青になっている? それが普通だと思うんだけど。ま、急いで手配するから」
と、途中の方はなんだかおかしな話だったが、最初の方でレミが驚いて、自宅に電話をかけてるいつきに詰め寄って、こう訊いた。
「つとむさんが事故に遭ったのは本当なのですか!?」
「うん、本人が電話してきたからまず間違いないね。・・・・・・・・・あ、もしもし。僕だよ。うん、そう。救急車呼んだみたいだけど、不安だからね。大至急現場に行って。僕? 僕は搬送される病院に行くから。そう。じゃ」
いつきが電話をする前に答えた「答え」が、レミにショックを与えるのには充分過ぎた。その場に取り残された(雰囲気的に)ルカはというと、表情を変えぬまま、何かを考えていたみたいだった。
周りが暗い。これが「死」なのか、と不意に考えてしまった。あの時かばった少女は大丈夫だっただろうか。そう考えていたら、誰かに呼ばれてる感じがした。それは、だんだん強くなっていき、俺は「まだ死んでいない」と思い、目を開けた。
「うぅ・・・・・・・・・・」
目を開けてみると、真っ先に見えたのは庇った少女だった。その子は、なぜ自分が助かったのか、余り分かってないようだった。俺としては、これを忘れてもらって構わないんだが。
次に見えたのは、俺に必死に声をかけ続ける茜と長谷川だった。二人とも必死なようで、目が向けられてることに気付いていなかった。なので、俺は体を仰向けにしていった(その時には少女を道路に置いていた)。
その時に、声をかけていた二人は俺が生きているのが分かって嬉しかったみたいだが、俺の姿を見て今度は慌て始めた。やっぱり慣れてないんだな、こういうの。 そう思いつつ俺は体を起こしていった。その時、この騒ぎを知って急いで駆け付けたのだろう、飛翔たちが人混みをかき分け俺の前に来た。
「立てるか?」
「いや、多分足がイカれてるな。立てん」
「ま、そうしてるだけで凄いんだけどよ。仕切っていいか?」
「ああ」
と言いながら、俺はいつきに電話をかけた(電話もボロボロだった)。
『もしもしつとむ? 何か用?』
「あ~・・・・・・事故った」
『えぇ!! 嘘! 大丈夫なの!?』
「これで大丈夫だと強がれるほど、俺は頑丈じゃないんだが」
『そんな冗談はいいから!! 警察は!? 救急車は!?』
まくしたてるように言ってくるいつきに俺は怪訝になりながらも、辺りを見渡して説明した。
「警察は長谷川が呼んでる。救急車は茜が呼んでる」
『運転手の人は!?』
「飛翔たちに囲まれてる」
『そう……分かったよ。今からそっちにヘリ寄越すから』
「救急車無視かよ」
『そんなこと言ってないよ。・・・・・・とにかく、無事でいてね』
と言って、いつきの方から電話を切った。俺はそのままボーっとしていたら、長谷川が俺に近寄ってこう言った。
「なんであんな無茶したんですかっ! 一歩間違えたら死んでたんですよ!?」
よく観ると長谷川は涙をためていた。いますぐにでもそのまま泣きそうだ。
あまり働かない頭でそう考えていた。何て答えたものか、と。そして、
「はっ」
俺はそれを鼻で笑った。
「!?」
驚く長谷川に対し、俺はまくしたてた。
「無茶? あの状況で無茶しなきゃ、助けられなかったんだぞ。目の前で危なくなったやつを黙ってみてられるほど、俺は冷酷じゃねぇんだよ。お前だってそうだろ?」
「そう・・・・です・・・・けど」
「あとよ、」
「?」
「撮影、さっさとしないと遅れるぞ?」
「え? なに・・・・・」
「こっちは気にせずに、撮影、頑張れ」
俺の言った言葉が理解できなかったのか、長谷川はしばらく固まっていた。
「お兄ちゃん電話しといたよ! ・・・・・・って大丈夫なの!? 体起こして!?」
「ちと背中やら腰やらが痛い気がするが、これと言って問題はないぞ。だからよ、泣いてんじゃねぇよ」
「だって・・・・・私・・・・・・」
最後まで言わずに、茜は泣き出してしまった。長谷川は、俺の言ったことを理解しただろうが、それでも行こうとはしなかった。その光景を見た俺は、どうしていかないのか考える間もなく、意識を失った。




