5-5 かくて彼は信念を
一幕終了までもう少しですね。二幕を多少修正し終えたので、三幕を書き終えようと思います。まだ半分ぐらいなんですよ
俺が戻ってきたら、揉め事は終わっており、全員で仲良く観ていた。俺はそのまま眺めていたら、俺の視線に気づいたのか、茜が振り返った。
「あ、お兄ちゃん。今までどこ行ってたの?」
「そこら辺を散歩」
俺の答えに茜は『?』となっていたが、それ以上考えるのをやめたらしく代わりにこう言った。
「今ね、中盤のところでね、光さんも出てるところなんだよ」
俺はどうでもいいのだが、それを言ったら怒られそうなので、俺はこう言った。
「実際に見てどうだ?」
「うん! とても綺麗な人だった! ……私もあんな風になれるかな?」
最初の方は嬉しそうに、後の方は切なそうに言った。
「気にすんなって。お前はお前で良い所があるんだからよ。今でも充分だろ」
と俺が言うと、
「えぇ!! お、お兄ちゃんが、ほ、褒めてくれた!?」
「何故そこで驚く?」
顔を赤くしながら、茜がこんなことを言った。驚くようなものか?
「だ、だって、いつもはそんなこと言ってくれないじゃん……」
茜は、うつむきながら喋っているせいか、だんだん声が小さくなっていった。そのせいで、表情が見えない。だが、多分赤くなったままだろう。これをどう対処しようか考えていたら、
「ん? 撮影が終わってるぞ」
「え!?」
驚いて茜が後ろへ振り返ると、そこには片付けが始まっていたところだった。
「いや~結構よかったな。あのシーンのところとか」
「いや、もっと始めの方っすよ」
「それよりもうちょっと中盤よりの方っす」
と言いながら俺達の方に寄ってきた飛翔たち。その光景を見た茜は、「しまった」という顔をした。
「さっきまで観れたからいいんじゃないか?」
「普通は最後まで観たいでしょ!? あそこまで観たんだから!」
どうやら全部観たいと思っていたみたいだ。どうするか考えながら時計を見ると、ちょうど正午だった。腹減ったなぁ~と考えながら空を仰ぐと、
「あっ!!? つとむさんじゃないですか!! やっぱり見に来てくれたんですね!?」
と声が聴こえた。――これは幻聴これは幻聴これは幻聴、と心の中で呟いていたら更に、
「なんで空を見てるんですか!? 私を無視しないでください!!」
と言いながら、そいつは俺に近づいて来たみたいだった。これ以上現実逃避は無駄だと思って俺は視線を戻した。そこにいたのは、
「やっぱりあんたか」
「名前を憶えているなら名前で呼んでくれませんか!?」
長谷川光だった。そいつの恰好は、ヒロイン役の服装だと容易に推測できた。しかし、長谷川がなぜこんなに怒った声を出しているのかは想像できない。面倒だなぁと思っていると、飛翔と茜が、俺に寄ってきてこう訊いた。
「「つとむ(お兄ちゃん)、光さま(さん)と知り合い?」」
息が合ってんな、お前ら。そう思いながら俺は、
「そうだよ」
と答えた。その答えを聴いた飛翔たちは、何故か変なテンションになっていた。
頭大丈夫かお前ら?
茜はというと、興奮を抑えきれずに長谷川にサインをねだっていた。ねだられた本人は、怒っていたのはどこへやら。笑顔でサインをしていた。それを見た飛翔たちもこぞってサインを要求し、それに長谷川も戸惑いながら、サインをしていった。その途中、俺はここから近い店まで歩き出した。最初にサインをしてもらった茜は、俺の行動を見てすぐに後を追った。
それを見た長谷川は、「あっ!! せっかく一緒にいられると思ったのに……」と言っていた。
ご愁傷さま。
全国展開されているレストランの店内にて。
「お兄ちゃん。みんな放っておいて良かったの?」
「終わったらここに来るんじゃないか? 一番近いんだから」
「だといいけど・・・・・・・・・・」
と話しながら食べていると、ケイタイが鳴った。発信者は飛翔。周りがうるさそうにしたので、俺は席を立ち、外で話すことにした。
「なんか用か?」
『どこに居るんだ?』
俺がそのレストランの名前を言うと、
『俺達は人が少ない食堂にいるからよ。食べ終わったらさっきの場所に集合ってことで』
と言われて、電話が切れた。その後自分の席に戻ると、茜が訊いてきた。
「お兄ちゃん、誰から?」
「飛翔」
「なんて?」
「食べ終わったらさっきの場所へ集合だってよ」
「ふ~ん」
これで会話は終了。俺は黙々と料理を食べ、茜はそんな俺を楽しそうに眺めていた。
会計を済ませて店を後にし、再び公園に向かう途中。俺は気になったことを訊いた。
「なぁ」
「なに?」
「俺を見てどこが楽しいんだ?」
「ふぇ!? わ、私、そんな顔してた?」
「してた」
俺が言い切ると、茜は顔を赤くしながら何も言わなくなった。
それから、先程まで俺たち(俺はほとんどいなかったが)がいた場所に着いたら、長谷川が一人立っていた。俺が見つけると、長谷川も俺を見つけたのか、俺に走ってきた。
「わざわざ走ってこんでも良かったんじゃないのか?」
「いいじゃないですか。少しでも長く話したいんです」
なぜって? それを訊くのは野暮だな。
そう直感した俺は、妹の視線に気付いた。
「どうした?」
「別に」
訊いたら明後日の方向を向かれた。何か気に障ることがあったのだろうか?
まぁ考えても埒が明かないので、長谷川にこう言った。
「取りあえず、場所変えないか?」
歩きながらも俺たち(茜もついてきた)は、会話をしていた。
「ここ最近、ずっとこのドラマの台本読んでたのか?」
「はい。八神君の言葉のおかげでだいぶ自信がつきました。ありがとうございます」
「別に。解決したのは長谷川自身なんだから、お礼を言われる覚えはない」
「そうかもしれませんけど、あのアドバイスが無かったら、私は変わってませんでした」
そういうもんか~? と呟くと、はい、そうです。と笑顔で返された。
と、今まで黙っていた茜がいきなり爆発した。
「ちょっとお兄ちゃん!!? どうしてそんな風に普通に話しかけられるの!!?」
「どうしてって、言われてもなぁ……」
「・・・・・・・お兄ちゃん・・・?」
茜が言った一言に、気になった単語があったのだろうか。長谷川はその単語を呟いた後、こういってきた。
「八神君、もしかしてその子、妹さんですか?」
「もしかしなくてもそうなんだが」
俺が肯定すると、長谷川は顔を赤くして「私、もしかして勘違いでもしてたんじゃ………」と言っていたのには、さすがにツッコムべきだろうか。
気分転換、という事で俺達は、公園の入り口近くで話をしていた。
「しっかし、なんでそこまでやる気なんだ?」
俺は当然の疑問を口にした。さっきから話していると「頑張る」や「みんなに見てもらっているから」とかをよく耳にしたからだ。長谷川はその質問にちょっと驚いたが、真顔でこう言った。
「それはあなたのドラマ嫌いを直すためです!!」
このセリフを言った時の効果音は、きっとデデーン!! だと思った。本人は「決まった…」と思っていそうだが俺は、そんな理由かよ・・・・と頭が痛くなりそうだった。
そんな俺を無視して、長谷川はなおもヒートアップした。どんなことを言っていたかというと、なんか突拍子もない感じだったので、もはや聞き流していた。
だから、だろうか。
何気なく公園の入り口―――歩道と道路は区分されている―――の方を見たのは。
その時に見た光景は、横断歩道を走ってくる一人の少女と、それに気付かないトラック。少女の方は途中で気づいてしまったため、道端で立ち止ってしまった。
茜はその少女を助けようと動くが、それより先に―――いつも巻き込まれているから体が普通に動ける―――俺が動いた。
当然、俺が慌てて動いたのだから長谷川は話を中断し、俺が行く先を見た。その瞬間、長谷川は口に両手をあてて座り込んでしまった。
俺の目測では、トラックと少女の距離はせいぜい二十メートル。今から走っていくと、俺は確実に怪我をする。いや、怪我だけじゃすまないかもしれない。
それでも俺は、こう思った。
見殺しになんてできるか。
それが俺の本音。水上が俺に訊ねた時に答えた、俺の守りたいと思うもの。
トラックは俺が飛び出してきたから慌てたのだろう。ブレーキを思いっきり踏む音がして、ハンドルを思いっきりきったみたいだった。
その間に俺は少女を抱きかかえ、
そして、




