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アイドルッ!  作者: 末吉
第一幕・第五話~事故と地獄は紙一重~
30/205

5-4 確保

後一、二話とエピローグぐらいですかね……

 なにかとんでもないことが起こってそうな気がする。

 しかも、ピンポイントで俺に降りかかりそうな。

 そんな気がする。

 と考えてしまう今日という日。今の状況を確認すると、

・飛翔と茜は撮影を見るのに夢中。

・飛翔の仲間たちは、誰が良いかという事で揉めている。

 そして俺はというと、そんな奴らを尻目に散歩していたはずが、


 捕まっていたというか、取り押さえられていた。


 この場合、誰に、というのは愚問だろう。なぜなら、これを実行させるのは一人しか考えられないからだ。

 こうなった経緯を話すか。

 事の起こりは、俺達が飛翔の仲間たちと合流してからだ。合流した時の茜の反応は、「これ、ホントにお兄ちゃんの知り合いなの?」だった。飛翔の仲間たちは俺の妹だと知って、平身低頭だった。これに茜は驚き、何とか敬語を使わせないようにした。

 その後、撮影にまだ時間があるらしいので話していたら、仲間内で勢力が分かれていることが判明した。

 その勢力とは、『今売り出しているアイドルの中で、誰が一番か』という話である。それは大きく分けて二つあり、『光』ファンと『白井美夏』ファンだ(飛翔は中立、俺は無関心)。ちなみに白井美夏、とは白鷺美夏のタレント名だった。

 ・・・・・・・・・ここまで関わってくると、泣ける。

 そこから揉め事が始まったのだが、奇しくもその時に撮影が始まったので、茜と飛翔だけ見始めた。

 その時俺は、その前から適当に歩いていた。歩いていたら、見てはいけないものを見た気がして、俺は後悔した。そして、戻ろうとした。だが、こちらが見つけという事は、あちらにも見つかったという事だ。すぐさま黒服が俺に立ち塞がった。 数は四。俺は抵抗したが、それもむなしく(黒服の一人を倒しただけは、彼にとってむなしい以外に感じない。)、先のような状況となる。

 で、この状況を作り出した張本人はというと、

「やぁつとむ。僕を見た瞬間に逃げるなんて……そんなに僕の事が嫌いかい?」

 椅子に座りながらこう言った。俺はあれか、罪人か。って言うか、ビニールシートに椅子って意味あるのか? と俺のそんな思いはつゆ知らず、いつきは話を進めていった。

「まぁいいけど。今日はそれを不問にしてあげるよ」

 それは俺に危険が無くなったと捉えていいのか?

「でもさ、なんで電話したのに気付かなかったの?」

「は?」

 俺は解放された体をほぐしながら、いつきが言ったことに疑問を感じた。そんな馬鹿な、と思いながらケイタイを見ると、今日の日付の着信履歴を見た限り発信者はいつきで埋まっていた。

「・・・・・・・・・すまん」

「君が直接来てくれたからいいけどさ。それで、僕がなぜここにいるのかというと……こっちに来たら?」

「?」

 いつきが何で呼んだのか分からなかった為、呼んだ方向を見ると、

「あ、どうもこんにちは。昨日は助けてくれてありがとうございました」

 と礼を言っている篠宮妹がいた。

「まだいたのか。篠宮妹」

「私の名前はレミです!! 最初に言ったじゃないですか!!」

「で? どうしてここに?」

 態々こんな所まで来なくても良いじゃないか、という本音は置いておく。

 それが伝わったのかいつきが、

「礼を言いに来たんだって」

 単純な目的だけを言った。俺としては、大した事をしたつもりはないんだが。

「もう礼は言ったんだ、用は無いんじゃねぇのか?」

 そう言うと、いつきがヤレヤレ、といった感じで首を振った後にこう言った。

「あのね? いつも言うけど、僕達はお礼を言ってハイ終わり、じゃ駄目なんだよ。君も知ってるよね?」

「知ってるが、それはそっち側同士だろ? 俺は関係ないはずだが」

「君の立場じゃなくて、僕達が助けられただけってのは、こっち側じゃ結構な問題なんだよ」

「そういうもんなのか?」

 昔からそんなやりとりをしてる気がするが、俺としてはイマイチ納得がいかない。

 だが、たまにいつきの事を助けたりすると(厄介事に巻き込まれた時)、謝礼という形で何かが送られてくる。それが結構高そう(というより、実際高いのだろう)なものなので翌日返したりするのだが、いつき曰く『返却不可だからね』と言われ、返せなかった。結局、それは自分の部屋に置いてある(確認行為以外では開けた事は無い)。

 一通り確認が終わったので、篠宮妹が話し始めた。

「本宮君が言った通りです。先程の言葉は正式な『お礼』という訳ではありませんので、これから始めたいと思います」

「勝手にしろ」

「分かりました。では。・・・・・・・・昨日(さくじつ)は私の事情も訊かずに助けてくれて、誠にありがとうございました。それで、そのお礼なのですが」

 この時の篠宮妹の声、いや、雰囲気は、気高いお嬢様を想像させるものだった。 が、だからどうした、と俺は思った。続けて篠宮妹が、『お礼』の内容を口にした。それはいつきが驚く内容だった。

「このお礼は、わが自宅へ招待させていただくというものにしたいと思います」

「えぇ!!? それはちょっと、いくらなんでも大胆過ぎない!?」

 その内容を聴いたとき、自然とあの女の顔が浮かんだ。いつきがなぜそんな慌てているのか知らないが、俺はあの女の顔を思い浮かべた時すでに、答えは出ていた。

「これでどうでしょうか?」

 と不安を抱きながらも訊いてくる篠宮妹。こいつには悪いが……、

「断る」

「ひどくないですか!?」

 俺が即答したのに驚いたのか、つい最近誰かが言ったことと同じことを言った。ちなみに、この答えにいつきは胸をなで下ろしている。俺にはその意味が理解できないんだが。

「どうしてこれはダメなんですか!? 折角昨日考えていましたのに!」

「理由? あんたの姉に会いたくないから」

「え?」

 俺の言ったことがそんなに不可解だったのだろうか。篠宮妹は落ち着きを取り戻した。

「どうしてですか?」

「昨日言ったの、憶えてるか? 俺はそれのせいで、ちと顔を合わせたくないんだ。だから、断る」

 理由込みで断りを入れた。俺が言った言葉を覚えていたらしく、それから篠宮妹は悩み始めた。

「悩んでいるならいらないんだが」

「私にもメンツというものがあります!」

 いらないと言ったら、プライドの問題だ、と返された。このままいくと平行線になりそう(実際は既になっている)な状況だったので、

「また逢えたらでいいよ。じゃぁな」

 と言って戻ろうとした。しかし、篠宮妹は「今度って、何時会えるか分からないじゃないですか!」と言って俺を引き留めた。いつきはというと、「あれ? 僕何を考えてたんだろ?」と顔を赤くしながら呟いていた。

 何をやっているんだか。

 ここで考えがまとまらなくなったのか、篠宮妹が俺に訊いてきた。

「何が欲しいのですか?」

「俺に訊くのかよ」

「仕方ないじゃないですか! 私はそんなにあなたの事を知りません! …詳しくは知りたいと思いますが」

 こいつはなぜ赤くなったんだ? しかも最後の方、聴こえづらかったし。

「それで!? 何が欲しいのですか!?」

 もはや勢いで訊いてくる篠宮妹。欲しいもの、ねぇ………。

 俺はとりあえず考えた。お金は自分で貯めてナンボだし、平和は無理。平穏も同じ。退学はしないと言ってしまったので、これも却下。となると、あれ? 何にもない。

「何もないわ」

「えぇ!!」

 俺が欲しいものがないと言ったら、篠宮妹が驚いた。誰もそんなことを言わなかったからだろうな。そう俺は結論づけた。

「つとむはそんなに物欲があるわけじゃない・・・・・・・・というよりむしろ、物欲がほとんどないんだよね。だから僕もまいっちゃうんだけど」

 と説明するいつき。

 そうか? 俺は人並みに欲しいものはあるぞ? そういつきに言ったら、

「でも、人から貰うってしたくないんだよね?」

 と言われた。確かにそうだが、どうしても今欲しいって時は、恥も外聞も無くもらうぞ?

「じゃぁ君は今すぐ欲しいものはあるのかい?」

 俺の心を読んだのか、いつきはそう訊いてきた。

「求人誌」

「なんですか? それ」

 なんと。金持ちの世界に、求人誌という単語は無かったのか。と、ある意味で俺が戦慄を覚えていると、

「いや。それはないでしょ」

 いつきに却下された。え~~~、これ以外に早急に欲しいものなんかねぇぞ。と思っていると、篠宮妹がふと思いついたみたいでこう言った。

「そうです!! じゃぁ、私の手料理でも!!」

「いらん」生憎間に合ってる。

 その言葉を受けて、篠宮妹は再びショックを受けた。

「これでも駄目なんですか……私の学校では割と喜ばれたのですけど」

 あんたはどんな学校に通っているんだ。そうツッコミたかったが、そんなことをしても話は進まないので、口をつぐんだ。

 すると、再びいつきが補足した。

「料理は自分でつくれるからいいんだよね?」

「俺はそこまでやってもらわなくてもいいから断ったんだが」

 そう言っていたら、篠宮妹が真剣に悩んでいた。

「うぅ、あれも駄目、これも駄目、一体何がいいのでしょう?」

 諦めねぇなこいつ。と同時に、俺が欲しいもの、何かあったかな? と考えた。

 う~ん・・・・・・・・あ!

「あった!」

 と、俺が唐突に言った内容に、二人が反応した。

「え!? 本当ですか!?」「本当なの?」

 俺は頷きながら、

「ああ。あったぜ」

 と言ったら、篠宮妹が食いついてきた。

「なんですか!?」

 それを受けて俺は素直に言った。

「欲しい物は木刀だ!」

「「・・・・・・・・・・・・はい?」」

 俺が欲しいものを言ったら、篠宮妹はともかく、いつきまで目が点となった。

 ん? 何か変なこと言ったか、俺?

「それでいいんですか?」

「ああ。前に何本か持ってたけど、全部折れちまって。それ以降買ってなかったんだよ。あれがないと練習できないんだよなぁ~」

「安い気がするけど……」

「想いがあればいいだろ?」

 その言葉のどこに赤くなる要素があったのだろうか。俺が言った言葉で、二人は顔を赤くした。なぜいつきまで? そう思ったが、俺は何も言わなかった。

「つとむさんがそう言うなら、仕方ありませんね。分かりました。それにいたしましょう」

 ? 昨日と違う呼ばれ方をしたような………気のせいか?

 という訳で、俺に対するお礼の品が決まり、レミ(そう呼んでくれと必死に頼まれた)は名残惜しそうな表情でいつきと一緒に帰って行った。

 …………戻るか。


どうぞよろしくお願いします。

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