5-4 確保
後一、二話とエピローグぐらいですかね……
なにかとんでもないことが起こってそうな気がする。
しかも、ピンポイントで俺に降りかかりそうな。
そんな気がする。
と考えてしまう今日という日。今の状況を確認すると、
・飛翔と茜は撮影を見るのに夢中。
・飛翔の仲間たちは、誰が良いかという事で揉めている。
そして俺はというと、そんな奴らを尻目に散歩していたはずが、
捕まっていたというか、取り押さえられていた。
この場合、誰に、というのは愚問だろう。なぜなら、これを実行させるのは一人しか考えられないからだ。
こうなった経緯を話すか。
事の起こりは、俺達が飛翔の仲間たちと合流してからだ。合流した時の茜の反応は、「これ、ホントにお兄ちゃんの知り合いなの?」だった。飛翔の仲間たちは俺の妹だと知って、平身低頭だった。これに茜は驚き、何とか敬語を使わせないようにした。
その後、撮影にまだ時間があるらしいので話していたら、仲間内で勢力が分かれていることが判明した。
その勢力とは、『今売り出しているアイドルの中で、誰が一番か』という話である。それは大きく分けて二つあり、『光』ファンと『白井美夏』ファンだ(飛翔は中立、俺は無関心)。ちなみに白井美夏、とは白鷺美夏のタレント名だった。
・・・・・・・・・ここまで関わってくると、泣ける。
そこから揉め事が始まったのだが、奇しくもその時に撮影が始まったので、茜と飛翔だけ見始めた。
その時俺は、その前から適当に歩いていた。歩いていたら、見てはいけないものを見た気がして、俺は後悔した。そして、戻ろうとした。だが、こちらが見つけという事は、あちらにも見つかったという事だ。すぐさま黒服が俺に立ち塞がった。 数は四。俺は抵抗したが、それもむなしく(黒服の一人を倒しただけは、彼にとってむなしい以外に感じない。)、先のような状況となる。
で、この状況を作り出した張本人はというと、
「やぁつとむ。僕を見た瞬間に逃げるなんて……そんなに僕の事が嫌いかい?」
椅子に座りながらこう言った。俺はあれか、罪人か。って言うか、ビニールシートに椅子って意味あるのか? と俺のそんな思いはつゆ知らず、いつきは話を進めていった。
「まぁいいけど。今日はそれを不問にしてあげるよ」
それは俺に危険が無くなったと捉えていいのか?
「でもさ、なんで電話したのに気付かなかったの?」
「は?」
俺は解放された体をほぐしながら、いつきが言ったことに疑問を感じた。そんな馬鹿な、と思いながらケイタイを見ると、今日の日付の着信履歴を見た限り発信者はいつきで埋まっていた。
「・・・・・・・・・すまん」
「君が直接来てくれたからいいけどさ。それで、僕がなぜここにいるのかというと……こっちに来たら?」
「?」
いつきが何で呼んだのか分からなかった為、呼んだ方向を見ると、
「あ、どうもこんにちは。昨日は助けてくれてありがとうございました」
と礼を言っている篠宮妹がいた。
「まだいたのか。篠宮妹」
「私の名前はレミです!! 最初に言ったじゃないですか!!」
「で? どうしてここに?」
態々こんな所まで来なくても良いじゃないか、という本音は置いておく。
それが伝わったのかいつきが、
「礼を言いに来たんだって」
単純な目的だけを言った。俺としては、大した事をしたつもりはないんだが。
「もう礼は言ったんだ、用は無いんじゃねぇのか?」
そう言うと、いつきがヤレヤレ、といった感じで首を振った後にこう言った。
「あのね? いつも言うけど、僕達はお礼を言ってハイ終わり、じゃ駄目なんだよ。君も知ってるよね?」
「知ってるが、それはそっち側同士だろ? 俺は関係ないはずだが」
「君の立場じゃなくて、僕達が助けられただけってのは、こっち側じゃ結構な問題なんだよ」
「そういうもんなのか?」
昔からそんなやりとりをしてる気がするが、俺としてはイマイチ納得がいかない。
だが、たまにいつきの事を助けたりすると(厄介事に巻き込まれた時)、謝礼という形で何かが送られてくる。それが結構高そう(というより、実際高いのだろう)なものなので翌日返したりするのだが、いつき曰く『返却不可だからね』と言われ、返せなかった。結局、それは自分の部屋に置いてある(確認行為以外では開けた事は無い)。
一通り確認が終わったので、篠宮妹が話し始めた。
「本宮君が言った通りです。先程の言葉は正式な『お礼』という訳ではありませんので、これから始めたいと思います」
「勝手にしろ」
「分かりました。では。・・・・・・・・昨日は私の事情も訊かずに助けてくれて、誠にありがとうございました。それで、そのお礼なのですが」
この時の篠宮妹の声、いや、雰囲気は、気高いお嬢様を想像させるものだった。 が、だからどうした、と俺は思った。続けて篠宮妹が、『お礼』の内容を口にした。それはいつきが驚く内容だった。
「このお礼は、わが自宅へ招待させていただくというものにしたいと思います」
「えぇ!!? それはちょっと、いくらなんでも大胆過ぎない!?」
その内容を聴いたとき、自然とあの女の顔が浮かんだ。いつきがなぜそんな慌てているのか知らないが、俺はあの女の顔を思い浮かべた時すでに、答えは出ていた。
「これでどうでしょうか?」
と不安を抱きながらも訊いてくる篠宮妹。こいつには悪いが……、
「断る」
「ひどくないですか!?」
俺が即答したのに驚いたのか、つい最近誰かが言ったことと同じことを言った。ちなみに、この答えにいつきは胸をなで下ろしている。俺にはその意味が理解できないんだが。
「どうしてこれはダメなんですか!? 折角昨日考えていましたのに!」
「理由? あんたの姉に会いたくないから」
「え?」
俺の言ったことがそんなに不可解だったのだろうか。篠宮妹は落ち着きを取り戻した。
「どうしてですか?」
「昨日言ったの、憶えてるか? 俺はそれのせいで、ちと顔を合わせたくないんだ。だから、断る」
理由込みで断りを入れた。俺が言った言葉を覚えていたらしく、それから篠宮妹は悩み始めた。
「悩んでいるならいらないんだが」
「私にもメンツというものがあります!」
いらないと言ったら、プライドの問題だ、と返された。このままいくと平行線になりそう(実際は既になっている)な状況だったので、
「また逢えたらでいいよ。じゃぁな」
と言って戻ろうとした。しかし、篠宮妹は「今度って、何時会えるか分からないじゃないですか!」と言って俺を引き留めた。いつきはというと、「あれ? 僕何を考えてたんだろ?」と顔を赤くしながら呟いていた。
何をやっているんだか。
ここで考えがまとまらなくなったのか、篠宮妹が俺に訊いてきた。
「何が欲しいのですか?」
「俺に訊くのかよ」
「仕方ないじゃないですか! 私はそんなにあなたの事を知りません! …詳しくは知りたいと思いますが」
こいつはなぜ赤くなったんだ? しかも最後の方、聴こえづらかったし。
「それで!? 何が欲しいのですか!?」
もはや勢いで訊いてくる篠宮妹。欲しいもの、ねぇ………。
俺はとりあえず考えた。お金は自分で貯めてナンボだし、平和は無理。平穏も同じ。退学はしないと言ってしまったので、これも却下。となると、あれ? 何にもない。
「何もないわ」
「えぇ!!」
俺が欲しいものがないと言ったら、篠宮妹が驚いた。誰もそんなことを言わなかったからだろうな。そう俺は結論づけた。
「つとむはそんなに物欲があるわけじゃない・・・・・・・・というよりむしろ、物欲がほとんどないんだよね。だから僕もまいっちゃうんだけど」
と説明するいつき。
そうか? 俺は人並みに欲しいものはあるぞ? そういつきに言ったら、
「でも、人から貰うってしたくないんだよね?」
と言われた。確かにそうだが、どうしても今欲しいって時は、恥も外聞も無くもらうぞ?
「じゃぁ君は今すぐ欲しいものはあるのかい?」
俺の心を読んだのか、いつきはそう訊いてきた。
「求人誌」
「なんですか? それ」
なんと。金持ちの世界に、求人誌という単語は無かったのか。と、ある意味で俺が戦慄を覚えていると、
「いや。それはないでしょ」
いつきに却下された。え~~~、これ以外に早急に欲しいものなんかねぇぞ。と思っていると、篠宮妹がふと思いついたみたいでこう言った。
「そうです!! じゃぁ、私の手料理でも!!」
「いらん」生憎間に合ってる。
その言葉を受けて、篠宮妹は再びショックを受けた。
「これでも駄目なんですか……私の学校では割と喜ばれたのですけど」
あんたはどんな学校に通っているんだ。そうツッコミたかったが、そんなことをしても話は進まないので、口をつぐんだ。
すると、再びいつきが補足した。
「料理は自分でつくれるからいいんだよね?」
「俺はそこまでやってもらわなくてもいいから断ったんだが」
そう言っていたら、篠宮妹が真剣に悩んでいた。
「うぅ、あれも駄目、これも駄目、一体何がいいのでしょう?」
諦めねぇなこいつ。と同時に、俺が欲しいもの、何かあったかな? と考えた。
う~ん・・・・・・・・あ!
「あった!」
と、俺が唐突に言った内容に、二人が反応した。
「え!? 本当ですか!?」「本当なの?」
俺は頷きながら、
「ああ。あったぜ」
と言ったら、篠宮妹が食いついてきた。
「なんですか!?」
それを受けて俺は素直に言った。
「欲しい物は木刀だ!」
「「・・・・・・・・・・・・はい?」」
俺が欲しいものを言ったら、篠宮妹はともかく、いつきまで目が点となった。
ん? 何か変なこと言ったか、俺?
「それでいいんですか?」
「ああ。前に何本か持ってたけど、全部折れちまって。それ以降買ってなかったんだよ。あれがないと練習できないんだよなぁ~」
「安い気がするけど……」
「想いがあればいいだろ?」
その言葉のどこに赤くなる要素があったのだろうか。俺が言った言葉で、二人は顔を赤くした。なぜいつきまで? そう思ったが、俺は何も言わなかった。
「つとむさんがそう言うなら、仕方ありませんね。分かりました。それにいたしましょう」
? 昨日と違う呼ばれ方をしたような………気のせいか?
という訳で、俺に対するお礼の品が決まり、レミ(そう呼んでくれと必死に頼まれた)は名残惜しそうな表情でいつきと一緒に帰って行った。
…………戻るか。
どうぞよろしくお願いします。




