1-2 学校
恐らく話数は減ります。
翌日。いつも通りタイマーの音で起きるのかと思ったら、
「お兄ちゃん、起きなよ~」
茜が起こしに来ていた。よし、まだ寝られるな。そう思いながら二度寝した。
そして、目覚まし時計が鳴る六時に俺は起きた。
起きてみると、頬を膨らませた茜が目の前にいた。
「おはよう。お前がここにいるってことは、また鍵かけ忘れたんだな」
と状況の確認をしていたら、
「お兄ちゃん! どうして私が起こしに来たの無視して、目覚ましで起きるの!?」
茜が怒っていた。どうして、ってお前
「自分で決めた時間までは寝たいから。それにお前、普段俺より先に起きないだろ」
「うぅ。そんなにはっきり言われると反論しづらいよ」
はっきりと言ってやったら、言い返せなくなった茜。それより
「なんで今日はこんな早く起きたんだ?」
「ひ、秘密!」
目的を訊いたら、勢いではぐらかされた。まぁ、別にいいか、それは。そう思って俺は着替えようとしたら、
「え!? ちょっと、お兄ちゃん!? 私の目の前で着替える気!?」
「ん? ・・・・・ああ。じゃぁ、ちょっと着替えるから出てけ」
「その言い方はあんまりじゃない?」
「じゃぁ、どう言えと」
「もうちょっとソフトに言ってくれればいいじゃん」
「そんなことしているうちに時間が無くなるから、さっさと出てけ」
と言って、茜を部屋から追い出した。結局、どうしてあいつが早起きして、俺の部屋に来たのかは分からなかったなと、考えながら着替えていった。部屋の外から、『お兄ちゃんの寝顔見れたし、別にいいかな』と聞こえたのは、不思議に思わないと駄目だろうか。
「いってくる」
朝食を食べて、学校に行く準備をし終えた俺は、自転車にまたがって言った。俺が通っている学校は隣町なので、自転車で行くと一時間位かかる。なので、毎朝七時には必然的に家を出ないといけなくなる。ちなみに、いつきはリムジン。格差社会ってこれで感じられるね。ただいつき自体は、俺を乗せてもいいと言っているが、そうするとバイトに遅れる可能性があるので丁重にお断りしている。
「いってらっしゃ~い」「頑張ってね、お兄ちゃん」「気を付けて行けよ」
と、三人が口々に言ってきた。何事も無ければいいよな、本当に。
登校中は何事もなかった。その一言に、俺はちょっとだけ感動しかけたが、学校にいる間にまた厄介なことが起きそうだ、と考えてしまったために感動が失せた。 俺はいつものところに自転車を置いて、自分の教室に向かって行った。
「おはよう、つとむ」
「よう、いつき」
教室に入って自分の席に着いた時、いつきが俺に挨拶してきた。こいつは、席が自由なことをいいことに、俺の隣か、その周辺に座る。俺はというと、最初に座った時から変わらず窓際の席である。よし。この学校に構造について触れるか。
この学校は、結構広い土地に建っているので建物が色々とある。俺達がいるところが役者専門のところ。校門の正面の方にあって、別名『スターの館』。
これパクリだよな?
この両隣には、林と体育館がある。そして俺達がいる校舎の後ろの方に、大道具やメイクなどを専門で学ぶところがある。
こんなもんでいいだろ。
さてと、もう説明するのも面倒だし、元の場面に戻るか。
「なぁ、いつき。ちょっと相談があるんだが」
「またぁ? これでもう七度目だよ?」
「分かってる。だがな、同じ道を通ったらまたすぐに巻き込まれちまう可能性があるんだよ。だから、こうやって相談してんだろ」
「もう、しょうがないなぁ。いいよ。じゃぁ、早速だけど地図出してよ」
「おう」
「え~と、昨日まではこの道だったんだよね?」
「ああ」
「じゃぁ、ここを通って、こう行けばいいんじゃない?」
「おお!ありがとな。いつも助かるぜ!」
「どういたしまして。僕もいつも楽しませてもらってるからね、別にこれくらいならいいさ」
「それが無ければいいやつなんだけどな・・・・・・。」
こいつは、あまり人が寄ってこない俺に、子供の頃から一緒にいる。まぁ、家が近かったんだ、最初の方は。そのせいでちょっとした事件に巻き込まれたが、あいつにとっては楽しかったらしく、その事件が解決した後に、
『話には聴いていたけど、つとむって面白い体質してるね。う~ん・・・・・そうだ!これからも一緒にいてあげるよ。どうせ君、その目つきのせいで友達いなさそうだから』
と言ってきた。しかも、かなりいい笑顔で。それからこいつは何かというと俺と一緒にいる。それと、助けてもらってもいる。高校に入ってバイトをしているのは、こいつのおかげと言っても過言ではない。
……ふむ。ここだけを見ればいいやつに見えるな、こいつ。
「実際いい人でしょ?」
「そこだけは反論させてもらうぜ!! 確かに良いやつではあるが、その分俺を色々と巻き込んでいるだろ!!」
「いいじゃん。僕は楽しめるし、君はいろいろと経験できる。バイトみたいなものじゃん」
「うるせぇ!! 何が『色々と経験できる。』だ!! そのせいで変な通り名が付いちまったじゃねぇか!」
「皇帝、だっけ? あれには僕も驚いたね。でも僕が引っ張る前から呼ばれたみたいだよ?」
「まじでか!?」
嘘だろ。俺はこいつに連れ出される前からそう呼ばれていたのか。そのことに若干ショックを受けながらそのまま話していると、
「あ。もうすぐ午前中の『あれ』が始まるよ」
「もうそんな時間か。それじゃ、行くか」
「そうだね」
もうすぐ午前中を使っての『あれ』が始まるので、俺達は急いで教室を出た。
諸君は俺達が言う『あれ』が何かわからないだろう。『あれ』とは、役者にとって大切な体力や声の大きさ、滑舌などの基礎を徹底的にやることである。これは一年生は必ずやらないといけない。まぁ、俺にとっては別にどうでもいいんだがな。
正直に言うと俺は、この学校にいること自体が嫌だ。だが、いつきがこの学校に一緒にいる限り、俺を必ず学校に連れて行くだろう。だから俺は、真面目にこの学校に通っているわけだ。
もはや、これは愚痴だな。すまん。その話は置いておいて、授業に行こうか。
それではまた。