5-3 現場到着
どのくらいの人が見ているのか分かりませんが、まぁどうかご覧ください。
その後、町の不良どもにからかわれながらも電車に乗ってムサシ町まで行った。
二時間かかったがな。
今の時刻は十時。撮影は始まっているだろうが、始めの方だから大丈夫か。問題は………
「お兄ちゃんと私は恋人………えへへへ、恋人かぁ~~」
どうもあいつらが茶化してきたせいで茜がおかしくなったみたいだ。電車に乗ってからずっとこの調子だった。こいつはあとで何とかするとして、とにかく撮影場所に行かないとなぁ~と思い案内図を見ていると、
「? よぉ! つとむじゃないか!! 珍しいな、お前がこの町に来るなんて。何か用か?」
馴れ馴れしいな、誰だ? と思い振り返える。
「お前…! 飛翔じゃねぇか!! そういや、この町の不良仕切ってるの、お前だっけ」
「久し振りだな、本当に。相変わらず変わってねぇな。この町に来たのってひょっとすると、撮影現場観るためか?」
そこにいたのは、俺の知り合いの大地飛翔だった。近くに置いてある車は見覚えがある。
「ああ。茜がどうしても見たいって言うからな」
「茜って、そこでボーっとしたままの嬢ちゃんか?」
「妹なんだ」
「ふ~ん。・・・・ところでよ、俺も丁度行くところだったんだ。乗ってくか?」
と言って飛翔が自分の車を指差した。
その申し出は正直ありがたいが・・・・・・・
「いや、いい」
「遠慮するこたぁねぇだろうよ」
「けどな・・・・・・」
「今までの借りを返すと考えればいいだろ?」
「・・・・・・・・・分かったよ。乗せてってくれ」
「元よりそのつもりだ」
そんな訳で、俺と茜(飛翔との会話中に元に戻った)は飛翔の車に乗った。
「ありがとうございます。でも、飛翔さんはお兄ちゃんと何時から知り合いなのですか?」
「確か・・・俺が高二の頃だっけ?」
「ああ。もう五年になるんだな」
車に乗った俺達はそんな会話をしていた。運転するのはもちろん飛翔で、俺達は後部座席に座っている。この会話をして、俺は飛翔と最初に会ったことを思い出した。
あれは、俺が中学一年の頃だ。その当時から俺は、町のほとんどの不良やヤクザ達をまとめていた(自覚はなかったが)。だからなのか、俺の呼び名はいつの間にか『皇帝』になっていた。
で、飛翔たちが来る前から『余所から喧嘩しに来るやつらがいる』という話が不良たちで話題になっていた。俺は巻き込まれなければどうでもよかったので、聞き流していたが。
そんなある日、俺はいつも通り一人で散歩していると、廃工場の方から殴り合いの音が聴こえた。どうでもいいから通り過ぎようとしたら、電話で応援を呼んだのか他の奴らがやってきて、俺まで巻き込まれた。
仕方なく廃工場の中に入ってみると、飛翔たちのグループがこっちの方をボッコボコにしていた。その時の飛翔の印象は、今とは違い少しグレていた。で、当然俺が前面に押され、飛翔たちのグループと喧嘩する羽目になった。結果はというと
「いや~、あん時から強過ぎだろ。なんだよほぼ無傷って。ま、そのおかげで俺もまだまだだと思い知らされたからいいけどよ」
「こっちが素手なのに、お前ら木刀使ってきたじゃねぇか。本気でやらんと俺が死ぬ」
ちなみに飛翔たちのグループ、ここが地元でこの町最強のグループだ。
と昔話をしていたら、
「そういえばお兄ちゃん。よく一人で散歩して帰ってきたら、服が破けてたりしてたよね。その度に自分で縫っていたよね。何をしてたの?」
当然のように茜が訊いてきた。誤魔化してもいいんだが、遅かれ早かれ気付かれるんじゃないかと思い、
「親父達に訊け」
と両親に投げた。自分で話す気になれなかったからだ。その答えに渋々ながらも、茜は納得してくれた。
そんな話(俺や飛翔の武勇伝)をしていたら、
「着いたぜ。ここが撮影場所の武士公園だ」
そう言って俺達を降ろした。武士公園って町がムサシだからか? と、どうでもいいことを考えていると、
「じゃ、駐車してくる」
そう言って飛翔は車を出した。
待っている間俺は、公園の中を見てみた。公園は結構広く、撮影している傍らで、子供たちが遊べる広さだった。途中、何やら柄が悪い奴らを見たような気がするが、気のせいだと思いたい。
十分後、飛翔が来た。どうも駐車場所がほとんど埋まっていたらしく、空いてる場所を探すのに苦労したとか。三人揃ったので、場所を探そうとしたら飛翔が止めた。
「どうした?」
「いや、場所は取ってあるんだ」
「どこに?」
そう訊いたら、飛翔が指を指した。その方向を見ると、先程見つけた柄の悪い奴らだった。
「やっぱりかよ。お前ら、よく観に来たな」
「そりゃ、地元で撮影するって聴いたら観に行くだろ。それに、最近売り出し中だろ? 俺もファンなんだ」
「そうか」
俺の短い答えに何か考えたのだろうが、茜が「自分のファンなんですよ」と言ったら、茜と語りだした。
もうこいつに任せて帰っかな、と思ったが、それをすると妹から約束破ったからという名目で再びどこかへ行く羽目になりそうなので、歩きながら好きな芸能人の話をしている二人の後を追った。
「あの、すみません。私のわがままのせいで・・・・・・・」
「気にしなくてもいいよ。僕も一日一回は彼に会っていないと、調子が狂うからね」
「それはどういう意味ですか・・・・?」
という会話をしていた二人がいた。いわずもがな、いつきとレミである。二人は、撮影現場が最も見やすい場所に陣取っていた。もちろん、SP付きで。
ふと気になったのか、レミはいつきにこう訊いた。
「目立ってません?」
「目立てばその分、つとむが見つけてくれるよ」
しかし、つとむが来たのはここに陣取る十分前だったので、二人が来ていることは分からなかった。
「でも、さすが本宮ですね。私の父にこんな条件を付けたのですから」
何気なくそう言ったら、
「別に。僕じゃなくてもつとむならこれぐらいやるよ」
憮然とした態度、あるいは無表情でいつきがこう言った。そこには、何かしらのしがらみが見て取れた。だが、そこは篠宮。そこには触れずに話題を変えた。
「つとむさん、遅いですね」
いつの間にか呼び方が変わっていたのは、彼に対する気持ちの表れか。それが面白くないと感じながらも、顔に出さないいつきは、意地悪い考えを思いついて携帯を取り出した。
「どうするつもりですか?」
「電話で呼ぶんだよ」
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