5-1 帰宅
一幕の終わりになります。
朝。目が覚めたら、いつもの俺の部屋ではなかった。辺りを見渡していると、昨日の事を思い出した。頭の中で振り返りながら、俺はなんであんな真似をしたんだろうか? と思いながら、部屋を出た。
朝起きて、初めにしたかったのは風呂に入ることだったが、風呂場がどこだか分かならかった。なので歩いていたら、この組の部下の一人に会った。
「兄貴! おはようございます! 昨日の怪我は…って治るの早くないっすか?」
「普通の人から見ると、そうだろうな。・・・・なぁ、風呂はどこだっけ?」
「それなら案内しますよ。新聞を取りに行くついでっすから。」
「助かる」
部下の一人に案内されて、俺は風呂場に着いた。・・・・・・・ここ、男湯と女湯に分かれてるんだな。誰か入る奴でもいるのか?そう思いながら、俺は風呂に入ることにした。
「ふぅ~生き返る―。・・・・・ってか、広いな、ここ。いつきの家の風呂場より狭いけど」
と風呂に入って一人で呟いていたら、誰かが入ってきた。
「ふぅ。昨日はいろいろとあったせいで風呂に入れなかったからね。起きたら入ろうと思ったんが……どうやら君とは考えることが同じのようだ」
「オメェと思考が同じだったら、俺もヤキがまわってるな。・・・・・・・で? 本当のところはどうなんだ?」
水上、だっけか? が風呂に入って早々、変なことを言ってきたので俺は言い返した。
「本当のところ、とは?」
とぼけるつもりか、こいつ。
「本当は、俺となんか話がしたいからじゃないのか?」
「見事だね。そうだよ。私はそのために君をつけてたんだ。さて、何から話そうかな? 君はどれがいい? お礼、私の気持ち、これからについて」
「全部だ」
俺が即答したら、そいつが言った。
「即答だね。それじゃ、私の気持ちから話そうか。・・・・・・・私の気持ちはなんであろうとレミお嬢様をお守りすること。そのことは昔からは変わらない。ただ、最近そのことを忘れていたようだ」
「昔から決めてるものほど、薄れてくもんだ」
初心忘れるべからず、って言葉があるくらいだからな。
「その通りだ。君の昨日の言葉で、私は自分の決めていたものを思い出せたよ」
「それはよかったな」
「次にこれからについてだね。これから私達は、本宮の家に迎えに行く予定ではあるけど、」
「けど? さっさと行けばいいんじゃねぇのか?」
そのまま連れて帰る。それが普通じゃないのか?
「君は知らないのかい? 本宮家は日本のお金持ちの中で、一番影響力の強い家なんだぞ」
その言葉に、俺はものすごく驚いた。
「そうなのか? あいつの親は普通・・・・とは言い難いが、面白い人だぞ?」
ちょっと変わった人だと思うが。
「当主に向かって面白い、か・・・・・・・・・ま、君がそう思うのならいいさ。話を戻すけど、迎えに行ったとしても、追い返されたら私達では何もできないからね。私達は一旦帰るとするよ」
言いながら上ろうとしていた。そこで、俺は昨日の騒動で思ったことを口にした。
「なぁ、あんた。あんたの部下、めちゃくちゃ弱かったんだが・・・・あれでもSPか?」
「そうだ。ただ、あれに関して言わせてもらうと、君が強過ぎるんだよ。一般的だと、あれぐらいだ」
「いつきのとこはあんたぐらいの強さだったぜ。全員な」
「それはさっきも言った通り、あの家が特別だからだよ。・・・・・・・しかし、君のような強さの人がお嬢様を狙ってきたら大変だな。これからの訓練を厳しくした方がいいかな?」
俺が言った言葉を受けて、水上はブツブツつぶやき始めた。隊長って大変だな。
「あんた」
「・・・・・・・・・ん? なにかな?」
「大変そうだな」
「ははは。ま、そうだけどね。…そうだ。これをやれば私達も・・・・」
何か思いついたのか? 俺に関係がなければいいのだが。
「なぁ、八神君」
「あ?」
「君に手伝ってもらいたいのだが」
「何を?」
「それはもちろん、私達の訓練のだよ」
思いっきりいい笑顔で言ってきた。
おい、あんた。人を巻き込むんじゃねぇよ。それにどうして俺が手伝わないかんのだ。
「私達も強くないといけなくなったからな。・・・・・・・・・本当は君を入れたいのだが、嫌なのだろう?」
「当たり前だ。何が悲しくて、そんなことせにゃならんのだ」
第一俺はそんなことがしたくて強くなったわけじゃない。
「君のその強さ、その外見だったら立派なSPになれるさ。私が保証しよう」
「俺はそんな保証はいらん。自分たちで何とかしろ」
「それができたら私も苦労はしないさ」
ため息をつきながら言う水上。・・・・・・・・・・・いちいち動作がキザっぽいな。
そこまで言われるとなぁ。そう思いながら俺は仕方なく、
「~~~~分かったよ。ただし、ちょっとだけだぞ。それに、俺が暇な時だけだ」
条件付きで了承した。・・・・・・ま、これも何かの縁だろうな。すると水上が嬉しそうに、
「本当か!! ありがとう! 助かるよ!!」
と笑顔で言った。
……はぁ。俺はどうしてこうも短絡的なんだろうな。
そう思いながら、俺と水上は風呂から上がった。
「いや~さっぱりした。ここに来ることはないだろうけど、ここの風呂はもう一度入りたいと思うね」
「俺は別に用がなければここには来ないが、風呂には入りたいな」
風呂から上がって、それぞれの部屋までの道。本当に広いよな、ここ。そう思いながら水上と話していたら、
「そういえば、君はこれからどうするつもりだい? 家に帰るのかい?」
そう訊いてきた。時計を見ると、午前六時半。今日の予定を思い出して俺は、こう言った。
「ああ。家に帰る。これから用事があるから」
「そうか。ならもうお別れという事か。少しは寂しい感じがするな」
「そうかぁ? 俺はしばらくあんたらの顔をみなくていいと思うと、ホッとするんだが」
「随分なことを言ってくれるね。……お。部屋に着いたみたいだね。では」
「ああ」
そう言って、お互いに部屋に入った。
そして、自分が使っていた部屋で荷造りをしていたら、
ガラッ!!
という音と、
「君に訊きたいことがあったんだ」
デフォで笑顔なのだろうか、にこやかな笑顔で水上が部屋に来た。
……笑顔が絶えない奴らと最近よく遭遇するな。いつきとか、白鷺とか、こいつとか。そんなことを思いながら俺は、荷造りをしながらこう訊いた。
「訊きたいことって?」
「忘れそうになったのだけれどね、君、昨日銃を使っただろ?あれ、どこで覚えたんだい?」
そんなことか。そう思いながら俺は答えた。
「あれは、こことか、他のヤクザの組とかで教えてもらったんだ。他にも、花札とかの博打とか、色々なことを教えてくれたぜ」
本当に助かったぜ。あいつら、見た目は怖そうなんだが、仲良くなると何でも教えてくれるんだよな。と教えてもらったことを思い出していると、
「そうなのか。君の慣れた手つきを見て、どこで覚えたのか疑問に思ってね。ふむ。ますますSPに向いてるね」
と言ってきた。お前、まだ諦めてなかったのか。と、俺は呆れた。そんなに俺をSPにしたいのか? そうこうしている内に荷造りが終わったので、
「それじゃ、俺はもう帰るわ。じゃぁな」
と言って、俺は帰ろうとした。したんだが、
「兄貴!! 朝食ができましたぜ!! って、帰るんすか? 兄貴?」
部下(名前はおそらくヒロシ)が入ってきた。またすげぇタイミングできたな、おい。もう帰る準備はしてしまったので、俺はこう言った。
「ああ。帰るわ。頭には『助かった』と言っておいてくれ」
「え? はぁ、分かりましたけど、もうちょっとゆっくりしていっても良いんじゃないっすか?」
それは悪い話じゃねぇンだけどよ、昨日約束しちまったからなぁ。それをどういって納得させようかと考えていたら、
「ま、いいっす。兄貴がそうおっしゃるのなら。自転車置き場まで、案内しましょうか?」
あっさりとひいてくれた。話が分かる奴で助かったな。そう思いながら、俺はこう言った。
「ありがとよ。今度この組に何かあったら手伝う、とも言っておいてくれ! じゃぁな!」
「気を付けてっす!!」
俺が言いながら廊下を駆け出したら、そいつは後ろで敬礼をしてくれた。それを見て俺は、
……今日もまた大きな出来事に巻き込まれそうだ。
なんて直感した。当たらなければいいな、こんな直感。
つとむが帰るのを見届けた後、水上たちも帰ろうとした。
「さてと。私達も帰るとするか。色々と報告をしなければいけないからな」
『ハッ!』
そして帰ろうとした時、
「ん? 帰るのか? お前ら。色々とあったが、それは水に流そうや」
頭がいつの間にか、水上たちの後ろにいた。その事実に全員が驚いて、それを確認するために、水上が代表で訊いた。
「あなた、結構強いんですか?」
「いや、それほどじゃねぇよ。つとむと一対一だったら十分で負ける。ただこの町は、昔から無法者というか、ゴロツキが中心となっていたから、昔からここにいる奴はこのぐらいは普通にできる。治安が良くなったのだって、つい最近、三十年位前だな」
水上の質問に対し、自分はそんなに強くないと頭は言って、おもむろに町の歴史について語りだした。
その話を聴いた水上たちSPは、唖然としてした。この町のヤクザ達はみんな、この人と同じくらい強いのかと思ったからだ。その考えを読んだのか、
「俺達だけじゃねぇよ。この町に住んでる爺さんや婆さんだって、結構強いぞ。この町は昔から、弱肉強食だからな」
と頭が補足情報を話してくれた。
「なるほど。この町に住んでるものはそれなりに強い、と思って構わないんだね?」
「ああ、そうさ。それじゃ、気を付けて帰れよ、お前ら」
水上が、町の住人が全員強いと考えてもいいのかと訊くと、頭はそう考えてもいいからさっさと帰れ、と言って戻っていった。それを見送った後、
「帰るか」
『ハッ!!』
と言って帰っていった。




