3-8 珍客万来
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「やぁつとむ。今日は大分稼げるんじゃないかい?」
「やっぱりお前か。それで? なんでジジイの所に居たメンバーがここに居るんだ?」
「へ!? え、えっとですね・・・・・・・」
「それはですね、学校が終わった後に生徒会のメンバーでここに来る予定だったのですが、その時に本宮君と長谷川さんがここに来る話をしていたので、なら皆さんで行きましょうと言う話でまとまって、今に至るわけです」
「丁寧な解説をありがとう。でも、結局は全員がここに来ることになってたじゃねぇか」
「あら?」
「そうなりますね」
「そうですね~」
「本当ですね」
本当にこいつは抜けてるんじゃねぇか? そう思わずにはいられないのだが。
と、そんな話をしていたら、
「そういえばさ、さっき僕達のこと『地雷』って言ってなかった?」
いつきが低い声でそう言った。こいつは地獄耳か? と一瞬思ったが、ここはあんまり広くはないため、俺の声は普通に聞こえる。
こうなったら腹くくるか。俺はそう思い、正直に言った。
「言ったよ。悪かったな、それは。だけどな、お前も分かってるだろ? 俺は、あの学校は嫌いなんだ。そんなところの奴とはできるだけ、関わりたくないんだ」
ここで俺は一区切りした。長谷川はうつむいて表情は見えないが、おそらく泣きそうになっているのだろう。白鷺は何やら思案顔だった。他の生徒会の奴らは「あいつ、やっぱり殴ってやる!!」「落ち着いてよ~岡ちゃん~」「ここは店内ですよ。落ち着いてください」とやっていた。
なんかスマン。
残ったいつきはというと、いつもの表情ではなく真剣な顔で俺の話を聴いていた。こいつはこんな顔も出来るのかと思っていたら、
「そこまでハッキリ言うという事は、やっぱり君はあそこにいるのが嫌いなんだね?」
「ああそうだな。俺は嫌いだ。だがな、」
と、いつきの質問に肯定してからこう言った。
「だがな、俺は一生懸命に役者とかになろうと頑張ってる奴は良いと思うぜ」
これは俺の正直な思いだ。頑張る奴はすごいと思う。
カウンター席の奴らを見てみると、長谷川は頬を染めているし、いつきは「君はいつも正直な思いを口にするよね。反応に困るんだけどな」と言ってるし、白鷺は「ふふっ。八神君は正直ですね」と言ってるし、生徒会のメンバーは「カッコイイですね~」「そうですね」「フン! あれはどうせ演技ではないのか!?」と言っていた。…っておいコラ、最後の奴。疑いすぎだろ。そう思いつつ、
「さてと、長話はここまでだ。なんにする?」
注文を取ることにした。こんな話、さっさと終わらせないと他のバイト行けなくなるからな。
「じゃぁ僕はいつものね」「私はこの、ショートケーキで」「それでは私は、昨日と同じチーズケーキで」「私はイチゴパフェで~」「私はイチゴのタルトで」「私はチーズケーキだ!」一斉に注文してきた。分かった、分かった。
「モンブランひとつ、ショートひとつ、チーズ二つ、パフェひとつ、タルトひとつな」
と言って、俺は調理室に向かった。こりゃ多いかな?
つとむが調理室に入った後、
「それにしても、どうして八神君はバイトをしているのですか?」
「うちの学校はバイトを許可していますが、やるバイトは普通、各学科に関係のアルバイトをしていますよ。ですが、」
「八神君はその関係ではなく、普通の学生がやるバイトをやっていますね。申請はされていませんが」
「え? あれって、申請しなきゃダメだったの?」
「ここを紹介したのはあなたですか?」
「そうだよ。つとむがどうしても、って言うから」
いつきがはにかんでいうと、
「その話を聴くと~、八神君と君は~、昔からの知り合いのような気がするんですが~?」
生徒会のメンバーの一人がこう訊いてきた。
「そうだよ。僕とつとむは幼馴染なんだよ」
と嬉しそうに話すいつき。
「ところで、どうして八神君はここでバイトしてるのですか?」
そこで長谷川が話を戻した。
「ああ、それ? それは簡単だよ。単に小遣い稼ぎのためだよ。親が小遣いをくれないらしいからね」
「え?」
「そうなんですか?」
「うん。だって」
と話をしようとしたら、
「そこまでだ。ほらよ、注文の品だ」
つとむがそれを遮った。
「まったく、気付いたら俺の身の上話になってたじゃねぇか。しかも、なんでいつきが話してるんだよ?」
「あはは。最初の話題が君だったから、ね」
「あっそ。まぁいい。さっさと食べろ」
「「「「「「いただきま~す」」」」」」
そう言って、いつき達は食べ始めた。
「おいし~。やっぱり、つとむの料理はいつ食べてもおいしいね~」
「そうか」こいつはいつもそんなことを言う。・・・・・・嬉しいが。
「お、美味しいですっ!! 八神君!」
「お、おう。ありがとな」顔が近い。引くぞ。
「このレシピ教えてくれませんか?」
「頑張ってつくってくれ」教えてたまるか。
「おいしいです~」
「意外においしいですね」
「意外とはなんだ、意外とは」よく言われるが。
「・・・・・・・おいしい」
「そりゃどうも」信じてなかったんだな?
それから、少し話をしていたが、
「あ。やべっ!」
「どうしたんですか?」
「マスター! 俺上がるから! またな!」
「明日はどうするんだ!?」
「多分、無理!!」
と言って俺は更衣室に駆け込んだ。後ろの方でマスターが、「マジでかっ!!」と言っていたが、気にしなかった。
急いで着替え終え、マスターからバイト代を貰い、店を出た。ふぅ。一つ目と二つ目のバイトの間の時間がきついんだよなぁ~。ま、こうなってもいいと言っちまったからな。愚痴言わないでこぐか。そう思って、二つ目のバイトへ向かった。
何事も無ければいいと祈りつつ。
「どうしてあんなに急いでいたのでしょうか?」
「ちっ。つとむの野郎、時間を理由に逃げたな」
長谷川が、なぜ八神は急いでいたのか、と疑問に思ったが、マスターは逃げたことを恨んでいた。相手が美人と評してもよい人たちと、頭が上がらない人だからである。
そこでいつきが、
「バイトの掛け持ちをしてるからだよ」
と言った。それを聞き逃さなかった白鷺が、
「掛け持ち、ですか? どうしてそこまでお金が欲しいのでしょう?」
と訊いてきた。それに答えたのはもちろん、いつきだった。
「さっき言いかけたことなんだけどね。つとむの家は、まぁ普通の家なんだよね。経済面は」
「「「「「?」」」」」
いつきが経済面だけを普通と言ったので、他のみんなは『なぜそこだけ?』と思った。
「そこには触れないでおくけどね。とにかく、つとむの両親が『高校生になったら自分でバイトしろ』って中学二年の頃に言われたんだ。確か、その時から小遣い停められてて、遊びに行っても何も買えないで見てるだけだったんだよね。ま、そのおかげか知らないけど、つとむは記憶力もよかったんだよね~」
いつきが詳細を説明し終えた時に、全員が『割と大変な思いしてるんだなぁ~』と思ったのは言うまでもない。
「さてと、僕もそろそろ帰ろうかな。みんなは?」
「あ、私も帰ります」
「私も帰らないといけません。もうすぐ迎えが来ますので」
「私も帰らないといけないな」「私もですね~」「私もです」
と全員が帰ることになったのだが、
「会計。金は払って行ってくれ。計三千四百三十円だ」
マスターが、金を払っていけと言った。
「誰が払おうか?」
「なら、私が払いましょうか?」
「白鷺先輩、いいんですか?」
「構いませんよ。今日も来ようと思っていましたから」
「ありがとうございます、白鷺さん」「ありがとうございます」
「いえいえ。今日はとても楽しい時間を過ごさせていただきましたから、そのお礼です」
「会長、我々の分もすみません」「助かります~」「感謝いたします」
「どういたしまして。では、これでお願いしますね?」
「五千円札か。普通の高校生がポンと出せるような金額じゃないんだが・・・・まぁいい。お釣りの千五百七十円だ」
「ありがとうございます」
と言って全員が出て行った。それを見届けた後に、
「明日の店、どうすっかな~?」
とマスターがつぶやいたのは、誰にも聞かれなかった。




