3-7 早すぎたバイト
パソコン二週間使えなかったのでこちらは更新できませんでした。
「ん? つとむか? やけにはやいな、さぼりか?」
「ちげぇよ。停学になったからさっさと来たんだよ」
「お前が停学? 何やったんだよ、一体?」
「ちと、乱闘騒ぎになってな」
その一言で、マスターは事情を理解したようだ。「ま、詳しいことは訊かねぇからよ。バイトするんだったら着替えてくれ」と言ってくれた。助かるね。
それから、俺は着替えていつも通り仕事を始めた。マスター曰く、「停学なんだから、営業開始からいつもの時間までやれよ」。俺としてはそのつもりだったが、「連絡してくれれば行く」とだけ言っといた。
で、働いてみて思ったことだが、いつもの時間とは違い、人が少ない。そりゃそうか。今の時刻は午後二時をちょいまわったばかり。この時間帯だと本当に暇な奴らしか来ない。それか、締め切りに追われてる奴らぐらいか。
「暇だ」
そうつぶやいたら、マスターに殴られた。
「ぼやいてないで、働いたらどうだ?」
「俺が普段してる仕事なら終わったぜ。他にないのか?」
「ん? そうだな・・・・・・・・・・・ない」
「ないのかよっ!!!」
「仕事があるまでは本でも読んでろ。レジの前でな」
と言って、スタスタと行ってしまった。要するに、マスターも暇なんだな。
その後しばらくして午後三時になって、ようやく俺が来るときの常連が来た。
「いらっしゃい」
「八神君じゃないか。いつより早いけど、もしかしてようやくサボリかい?」
「ちげぇよ。停学くらったから直できたんだよ」
「ということは、いつもより早く来ても八神の料理が食えるんだな」
「嬉しいね~」
そんなに俺の料理は美味いのだろうか? 時折不思議に思うが、食ったやつらが「おいしい」というので、美味しいのではないかと思っている。これをいつきが知ったら間違いなく、「君はいろんなところが無自覚だよね」と言われるんだろうな。ふぅ。
「注文は?」
「俺、ミートスパ」
「じゃぁ、私はイチゴパフェと、カフェオレかな」
「俺はハヤシライス、粉チーズ付き」
「マスター!!」
「分かってるよ! カフェオレは出しとくから、他のやつつくれ!!」
「了解!!」
と言って、俺は料理を作ることにした。
さっきまでが嘘のようだな。と今本気で思った。
二十分後、
「はいよ。ミートスパ、イチゴパフェ、ハヤシライスの粉チーズ付き」
「相変わらずうまそうだな~」
「ホントだよね~」
「ああ」
出した料理を見て、それぞれに感想を言っていた。
そういえば、
「今日、来れないんじゃなかったのか?」
「ああ。本当は来れなかったんだけどね……」
俺が訊いたら、常連の一人が何故か落ち込んでいた。何かあったのか?
「それがね~、美鶴が予約間違っちゃったみたいでね~」
「明日になってしまったんだ」
「ふ~ん。で、何の予約だったんだ?」
「旅行だよ。俺達三人で行くんだ」
「それはいいじゃねぇか。どこに行く予定なんだ?」
「九州のほうだな」
「その話聞いてたら、俺も早く旅してぇなぁ、って思っちまったぜ」
「八神君はどこに行くつもりだい?」
「俺は……まだ決めてないな。ただ、日本全国を旅したいとは思ってるぜ」
「一人で?」
「ああ」
「ま、頑張れ」
「分かってるよ」
そんな風に談笑していると、
「お前ら、俺の賄飯食べるんじゃなかったのか?」
「「「あ」」」
マスターの一言で、客の方の動きが止まった。……忘れてたんだな。
「そ、それじゃ、丁度八神君の料理もあるわけだし、マスターの賄飯出してよ」
「そうだね。よろしく、マスター」
「お願いする」
客の一人が機転を利かせて、俺とマスターの料理対決になった。これ、誰が得するんだ?
「忘れてたんだな? ・・・・・・まぁいいか。お前らに本当の実力を見せてやる」
と言って、マスターが調理室に行った。
「と、いう訳で、ちょっとの間、八神君の料理は食べられなくなっちゃった」
「でもマスター、どんな料理作ってくるのかな~?」
「楽しみだな」
と話していること十数分、マスターがいつもの賄飯を持ってきた。
「ほらよ。これが俺の実力だ」
「なっ!? マジかよ!!? いつも出してる料理とは全く違うじゃねぇか!!」
「え!? これが本当に、マスターがつくった料理!!?」
「信じられん……」
信じられないだろうが、これがマスターの本気。いつも出してる料理は、何故かおいしくないのだが、賄飯だと物凄くおいしくなる。これはいつきも知らない情報だ。
前に理由を訊いたが、
『レシピ通りにつくってるはずなのに、何故か不評が来るんだよなぁ』
と言っていた。いや、理由になってないから。
その賄飯を客の一人が食べてみると、
「――うまい」
と言った。
「確かにおいしそうだけど……」
と言いながら二人目も食べてみると、
「――おいしい」
と驚いていた。三人目に至っては、何も言わずに黙々と食べていた。うまいよな、それ。
数分で三人は食べ終えて、それぞれ感想を言った。
「まさか本当においしかったとはね。最初はただの謙遜だと思ったよ」
「な? 嘘じゃねぇだろ?」
「そうだね~。これは八神君とどちらが美味しいのかな~?」
「どっちもおいしいから、判断がつかないな」
「そうだな! じゃ、引き分けだな!!」
結局、料理対決は引き分けになったらしい。俺としては、マスターの方が上だと思うのだが、マスターもその判定には満足しているみたいだ。
その後、俺がつくった料理も食べ、会計時に『賄飯・三百四十円』が追加され、その常連の人たちはちょっと後悔したみたいだった。
意外と抜かりないよな、うちのマスター。
そして、俺が普段来てる時間帯になった。だから、いつもの客が来ている。ま、それは俺としては、ありがたいんだがな。何故って?いつもと変わらない日常。それは平穏の時間と変わらないと、俺は感じているからだ。ああー、あいつらと関わらないとこれほど平和に感じられるのか。と思いながら料理を作っていると、
カランコローン!!
「いらっしゃい……久し振りだな」
また客が来た。この時間帯でもそんなに客が来ないのがこの店なんだが、今日は客が多いな。作り終えた料理を運びながら、俺はそう思った。
「ほれ。できたぞ」
「お~。やっぱり八神君の料理はおいしそうだね~、いつも」
「そうか」
と客と話をしていると、ふと誰かの視線を感じた。しかも複数。誰だと思って辺りを見渡すと、見つけてはいけない奴らを見つけてしまった。もしかして…さっき来た客はこいつらか? そう思いながら、どうやってカウンター席を通らずに調理室に行こうか? と考えていると、マスターに捕まった。
「おい八神。こっち来て相手しろ。そっちの方は何とかしてやるから」
「はぁ!? ザケんじゃねぇ! どう考えても地雷じゃねぇか! わざわざ踏みに行くかよ!」
「クビにするぞ」
「……わぁったよ。たくっ、無事でいたいところだぜ」
「任せたかんな~」
……ハァ。もうどうにでもなれ(二度目)。




